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おっさん感電す
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「さすが電気屋さんだぁね、またあの人の歌が聞けるなんて、天にも昇る気持ちだよ」
そう言ってばあちゃんは、ちゃぶ台の上のラジカセを両手で抱きしめた。
「おばあちゃん、こんなんで天に昇っちゃダメだよ」
せっかく年代物のラジオカセットを修理したのに、おっちんじまったら寝つきが悪くてしかたがねぇや。
でも、こうやって感謝されると嬉しいね、やっぱり。
「おばあちゃん、全然手間かかってないからさ、修理代はいらないよ」
「そうなのかい? 嬉しいねぇ。やっぱり電気屋さんは、わたしらの“ヒーロー”だよぉ」
おばあちゃんは名残惜しそうに俺の手を握り、饅頭を一つ手の中に押し込んだ。
──ヒーローか……。
俺の名前は轟 電次郎(とどろき でんじろう)。
五十路が見えてきた三代目の町の電気屋だ。
でっぷりした腹に、ゴツい顔と無精ヒゲ、つなぎ姿が標準装備。
親が“ビリビリッと衝撃的な人生を送ってほしい”とかいう、半分冗談みたいな理由で付けた名前らしい。たぶん電気屋の息子だからだと思う。
両親は俺が三十のころに立て続けに病気で亡くなって、今は独り身。
結婚だって、別にチャンスがなかったわけじゃねえんだ。若いころはわりとイケメンって言われたし、子どもにも年寄りにも優しくて、仕事もちゃんとしてた。
けどなぁ……よく言えば誠実、悪く言えば“都合のいい人止まり”ってやつだな。
「いい人だよね」で終わる恋ばっかだったんだよ。気づいたら、あっという間に独り暮らしが染みついてた。
……まぁ、いまさら誰かと暮らす甲斐性もねぇけどな。
今の俺に残ったのは、古びた工具と、埃をかぶった思い出だけ。よく使い込まれたドライバーやハンダごてが、まるで何も言わず寄り添ってくれる相棒みたいでさ。変な話だけど、いまやこいつらが唯一の伴侶ってわけだ。
昔は、こいつらと一緒に、みんなに感謝されたよなぁ……。
うちのテレビが映らないっつっては、じいちゃんばあちゃんが飛んできて、「電ちゃん、これじゃ相撲が見れん!」って大騒ぎ。俺がチャチャッとコンセント挿し直しただけで「さっすがプロは違うわ~!」って拝まれたもんだ。
……いや、それただのコンセント抜けかけだったけどな。
ガキどもにもモテモテだったよなぁ。ファミコンが壊れたーつって泣きながら持ってきた小学生の兄ちゃん。ちゃちゃっとハンダ付けして直したら「おじさん、神かよ!」って目ぇ輝かせてな。
「ドライヤーから変な音がする」つって、ぼさぼさの髪で来店した女子高生に「この型番は、ここのモーター部のネジが緩みやすくてね。ここをこうやって補強しておけば」とか言って親切丁寧に教えてやったら「うわっ、プロっぽい」っつって喜んでくれたよ。いや、そりゃプロだからね、俺は……。
そうさ、プロの電気屋だったんだ。
──それが今はどうだ?
大型家電量販店がどの町にも進出。
ネット通販の台頭。
出張修理は不審者扱い。
おまけに、この物価高。
俺だって、この時代の波に飲み込まれないように、色々やったさ。
最新機材を揃えて、動画配信始めて、商品紹介もした。でも再生数は毎回一桁、コメントは“必死なおっさんキモイ”だけ。
安売りセールしたけど、ネットで調べられてお得な物だけ転売されて、不良在庫は増えるだけ。
あれよあれよと大赤字の借金地獄。
……おばあちゃんに、手間賃貰うべきだったかなぁ。
ドンドンドン。
おばあちゃんから貰った饅頭をつまみに、安くて度数の強いチューハイを飲み明かそうとしてた矢先。店のガラスドアを叩く音が響いた。
ああ、いつものあいつらだ。
「轟ぃ居るんだろぉ、早く金返せよぉ、オイ聞いてんのかぁ? みなさぁーん、ここの電気屋さん、人から金借りて返してくれませーん。“電気のことならなんでもお任せ、困ったらいつでも出張します”なんて書いてありますけどぉ、嘘っぱちですからねー、おーいクソ電気屋さーん、僕のお金返してくださーい、大変こまってーまーす」
最悪だ。今の時代にこんな取り立てありえるか? 訴えたら勝てるぞ……。
──そんなことを考えてる時点で、もう終わってるのかもしれないけどな。
でも無理だ。そんな元気、今の俺には残っていない……。
ああ、いっそのこと死んでしまおうか。
その方が楽になれるんじゃ……。
ドンドンドン。
「また明日来るからなぁ、ちゃんと金用意しとけよぉ」
もう、俺には明るい明日なんてないんだ。
もう、誰も頼ってくれない。
俺はもう、町のヒーローじゃない……。
質の悪いアルコールが涙腺を緩くする。
そんな涙で霞む俺の目に、古い電子レンジに張られたメモ書きが映った。
「電気屋さんへ、レンジが“チン”って言わなくなっちゃったのでお願いします」
近所の花屋のおねーちゃんから頼まれてたんだっけか……。
“チン”って言わなくなったってなんだよ、なんかの隠語か?
「ぷっ、ふははははは」
思わず笑っちまった。
バカな依頼しやがって。あのねーちゃん、顔は可愛いのに、どっか抜けてんだよな。
……まったくよぉ。
しゃーねーなー、いっちょ直してやっか。
そうだ、まだ俺は頑張れる。
借金がなんだ。
ネット通販がなんだ。
大型量販店だって淘汰されている。
俺は、家電のことなら誰にも負けない。
死んだ気になりゃなんだってできるさ。
「えーと、チンって言わねぇってことは、ここかな」
飲んだくれて修理を始めたのが運の尽きだった。
──バチンッ!!
壮大に感電した。
そう言ってばあちゃんは、ちゃぶ台の上のラジカセを両手で抱きしめた。
「おばあちゃん、こんなんで天に昇っちゃダメだよ」
せっかく年代物のラジオカセットを修理したのに、おっちんじまったら寝つきが悪くてしかたがねぇや。
でも、こうやって感謝されると嬉しいね、やっぱり。
「おばあちゃん、全然手間かかってないからさ、修理代はいらないよ」
「そうなのかい? 嬉しいねぇ。やっぱり電気屋さんは、わたしらの“ヒーロー”だよぉ」
おばあちゃんは名残惜しそうに俺の手を握り、饅頭を一つ手の中に押し込んだ。
──ヒーローか……。
俺の名前は轟 電次郎(とどろき でんじろう)。
五十路が見えてきた三代目の町の電気屋だ。
でっぷりした腹に、ゴツい顔と無精ヒゲ、つなぎ姿が標準装備。
親が“ビリビリッと衝撃的な人生を送ってほしい”とかいう、半分冗談みたいな理由で付けた名前らしい。たぶん電気屋の息子だからだと思う。
両親は俺が三十のころに立て続けに病気で亡くなって、今は独り身。
結婚だって、別にチャンスがなかったわけじゃねえんだ。若いころはわりとイケメンって言われたし、子どもにも年寄りにも優しくて、仕事もちゃんとしてた。
けどなぁ……よく言えば誠実、悪く言えば“都合のいい人止まり”ってやつだな。
「いい人だよね」で終わる恋ばっかだったんだよ。気づいたら、あっという間に独り暮らしが染みついてた。
……まぁ、いまさら誰かと暮らす甲斐性もねぇけどな。
今の俺に残ったのは、古びた工具と、埃をかぶった思い出だけ。よく使い込まれたドライバーやハンダごてが、まるで何も言わず寄り添ってくれる相棒みたいでさ。変な話だけど、いまやこいつらが唯一の伴侶ってわけだ。
昔は、こいつらと一緒に、みんなに感謝されたよなぁ……。
うちのテレビが映らないっつっては、じいちゃんばあちゃんが飛んできて、「電ちゃん、これじゃ相撲が見れん!」って大騒ぎ。俺がチャチャッとコンセント挿し直しただけで「さっすがプロは違うわ~!」って拝まれたもんだ。
……いや、それただのコンセント抜けかけだったけどな。
ガキどもにもモテモテだったよなぁ。ファミコンが壊れたーつって泣きながら持ってきた小学生の兄ちゃん。ちゃちゃっとハンダ付けして直したら「おじさん、神かよ!」って目ぇ輝かせてな。
「ドライヤーから変な音がする」つって、ぼさぼさの髪で来店した女子高生に「この型番は、ここのモーター部のネジが緩みやすくてね。ここをこうやって補強しておけば」とか言って親切丁寧に教えてやったら「うわっ、プロっぽい」っつって喜んでくれたよ。いや、そりゃプロだからね、俺は……。
そうさ、プロの電気屋だったんだ。
──それが今はどうだ?
大型家電量販店がどの町にも進出。
ネット通販の台頭。
出張修理は不審者扱い。
おまけに、この物価高。
俺だって、この時代の波に飲み込まれないように、色々やったさ。
最新機材を揃えて、動画配信始めて、商品紹介もした。でも再生数は毎回一桁、コメントは“必死なおっさんキモイ”だけ。
安売りセールしたけど、ネットで調べられてお得な物だけ転売されて、不良在庫は増えるだけ。
あれよあれよと大赤字の借金地獄。
……おばあちゃんに、手間賃貰うべきだったかなぁ。
ドンドンドン。
おばあちゃんから貰った饅頭をつまみに、安くて度数の強いチューハイを飲み明かそうとしてた矢先。店のガラスドアを叩く音が響いた。
ああ、いつものあいつらだ。
「轟ぃ居るんだろぉ、早く金返せよぉ、オイ聞いてんのかぁ? みなさぁーん、ここの電気屋さん、人から金借りて返してくれませーん。“電気のことならなんでもお任せ、困ったらいつでも出張します”なんて書いてありますけどぉ、嘘っぱちですからねー、おーいクソ電気屋さーん、僕のお金返してくださーい、大変こまってーまーす」
最悪だ。今の時代にこんな取り立てありえるか? 訴えたら勝てるぞ……。
──そんなことを考えてる時点で、もう終わってるのかもしれないけどな。
でも無理だ。そんな元気、今の俺には残っていない……。
ああ、いっそのこと死んでしまおうか。
その方が楽になれるんじゃ……。
ドンドンドン。
「また明日来るからなぁ、ちゃんと金用意しとけよぉ」
もう、俺には明るい明日なんてないんだ。
もう、誰も頼ってくれない。
俺はもう、町のヒーローじゃない……。
質の悪いアルコールが涙腺を緩くする。
そんな涙で霞む俺の目に、古い電子レンジに張られたメモ書きが映った。
「電気屋さんへ、レンジが“チン”って言わなくなっちゃったのでお願いします」
近所の花屋のおねーちゃんから頼まれてたんだっけか……。
“チン”って言わなくなったってなんだよ、なんかの隠語か?
「ぷっ、ふははははは」
思わず笑っちまった。
バカな依頼しやがって。あのねーちゃん、顔は可愛いのに、どっか抜けてんだよな。
……まったくよぉ。
しゃーねーなー、いっちょ直してやっか。
そうだ、まだ俺は頑張れる。
借金がなんだ。
ネット通販がなんだ。
大型量販店だって淘汰されている。
俺は、家電のことなら誰にも負けない。
死んだ気になりゃなんだってできるさ。
「えーと、チンって言わねぇってことは、ここかな」
飲んだくれて修理を始めたのが運の尽きだった。
──バチンッ!!
壮大に感電した。
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