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おっさん撃沈す
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草の匂いが、やけに濃かった。
目を開けると、どこまでも広がる草原。空は青く澄み、風は肌をなでるようにやさしい。
「……あれ、俺……?」
頭がズキズキと痛む。酒のせいか、感電のせいか、記憶がふわふわと曖昧だ。
ゆっくりと体を起こし、周囲を見渡す。木々の葉は妙に大きく、緑というより青みがかっている。足元に咲く花も、どこか異様で、虫のようなものが飛んでいるが……形が明らかにおかしい。
「空気も……なんか、軽いっていうか、澄みすぎてる……?」
違和感がじわじわと積もっていく。
ここは、俺の知っている日本じゃない。いや──地球ですらない。
「……まさか、異世界……死んだのか、俺……」
ぽつりとつぶやいたそのとき、視界の端に見慣れた物体が映った。
「……レンジ?」
草の上に鎮座していたのは、あの電子レンジだった。修理中だったやつに貼られた、花屋のおねーちゃんのメモ書きがそのままついている。
「こいつも一緒に……転生?」
まさかとは思いつつ、天板にそっと手を触れる──
バチバチッ!!
「うおっ!?」
手に走る刺激。そして、パネルがピカッと光った。
「通電してる……? いや、俺が触ったから……?」
思わず自分の手を見つめる。もう一度、レンジに触れてみる──
チンッ。
「……直ってる……って、いやいやいや、そうじゃねえ!」
俺が触ると動く。コンセントも電池もない。ってことは──
「俺、電気出してんのか? 感電したから? いやいやそんな馬鹿な」
そのときだった。
「キャアアアアア!!」
悲鳴が草原の向こうから飛んできた。
目をやれば、小さな丘を少女が転がるように駆け下りてきている。その背後には、歯をむき出しにしたゴブリンが三匹。小柄だが、明らかに敵意満々で追いかけてきている。
「おいおい……初っ端からモンスターとか、聞いてねぇよ……!」
けど──
「助けねぇ理由があるかよっ!」
俺は、ためらわずに電子レンジを抱え上げた。
家電は電気屋の誇りであり、命を預ける相棒……
だが今、この状況じゃ──
「くらえぇぇっ!!」
相棒にも砲弾になってもらうしかない!
ごめんな、花屋のおねーちゃん……レンジ、ちょっとだけ借りるぜ!
勢い任せで、俺は電子レンジを全力で投げつけた。
「ギャァ」
ゴブリンが叫ぶ。脳天直撃。無事なわけがない。
「キィィィィ、ワリュワリョワリョォォォーーーー」
額から緑色の液体を垂らしたゴブリンが、今度はこっちを睨んできた。残りの二匹とアイコンタクト。……はい、来た。
「上等だ。こう見えて、柔道も剣道も初段持ってんだ。なめんじゃねぇぞ、ゴブリン共……っ!」
──三秒後。
「いてぇぇ! やめろ、すみません、ほんとすみませんっ! 死ぬってマジで死ぬってぇぇぇ! ……三対一は卑怯だろぉ……」
叫んだところで容赦はなく、こん棒でフルボッコ。
柔道も剣道も、数と木の棒には勝てなかった。
「骨……二、三本は……いったな……」
うずくまりながら呻く俺を尻目に、ゴブリンたちは気が済んだのか少女の方へと向かいはじめた。
「ヒッ……」
少女は涙を浮かべ、腰を抜かして震えている。
「くそっ……助けねぇと……!」
草むらに転がる電子レンジの電源コードが、視界に入った。
俺は藁にもすがる思いでコードのプラグを握り、叫んだ。
「やめろぉぉぉ! 俺はまだ、俺はまだ負けちゃいねぇぞおおおおおっ!!」
全身の力を込めてコードを引き寄せた。
コードは綱のようにピンと張り、俺はそれを手繰り寄せながら、少女のもとへ突っ込むつもりだった。
だが──その瞬間、手の中から何かが走った。
「うおっ……な、なんだ今の……!?」
手からレンジへ、まるで電流のような感覚が駆け抜けていく。肌が逆立ち、全身の毛穴がビリビリする。
そしてレンジが震え、パネルがギラリと赤く光った。
ビリビリビリッ……!
「え……なにこれ……俺の中から電気が……!?」
コードを通じて、まるで洪水のように俺から“何かががレンジへと送り込まれていく。 パネルがギラリと赤く光ったかと思えば、レンジ全体がジジジと震えだした。
「やばっ、ちょっ、ちょっと待っ──」
ジジジジジッ……!
チンッ。
電子レンジは、轟音とともに爆発した。
「キィィィッ!!」
破片が飛び散り、ゴブリンたちの背中に突き刺さる。
少女はゴブリンたちの陰にうまく隠れていたようで、傷ひとつなかった。
「よ、良かった……」
驚いたゴブリンたちは振り返ることなく逃げ出し、草原の彼方へと消えていった。
「うあっ、たしゅ……でゅん……」
少女が泣きそうな顔で、わけのわからない言葉を必死に口にする。
……まったく何を言ってるのかは分からねぇ。
だけど、その震える声と、俺の手を握る小さな手が、全部を物語ってた。
「助かって……よかったな……」
そう、ひとことだけ呟いたあと、まぶたがどんどん重くなるのを感じた。
心配かけまいと、最後くらいは笑顔で。
──これで、俺も……もう、心残りねぇぜ。
目を開けると、どこまでも広がる草原。空は青く澄み、風は肌をなでるようにやさしい。
「……あれ、俺……?」
頭がズキズキと痛む。酒のせいか、感電のせいか、記憶がふわふわと曖昧だ。
ゆっくりと体を起こし、周囲を見渡す。木々の葉は妙に大きく、緑というより青みがかっている。足元に咲く花も、どこか異様で、虫のようなものが飛んでいるが……形が明らかにおかしい。
「空気も……なんか、軽いっていうか、澄みすぎてる……?」
違和感がじわじわと積もっていく。
ここは、俺の知っている日本じゃない。いや──地球ですらない。
「……まさか、異世界……死んだのか、俺……」
ぽつりとつぶやいたそのとき、視界の端に見慣れた物体が映った。
「……レンジ?」
草の上に鎮座していたのは、あの電子レンジだった。修理中だったやつに貼られた、花屋のおねーちゃんのメモ書きがそのままついている。
「こいつも一緒に……転生?」
まさかとは思いつつ、天板にそっと手を触れる──
バチバチッ!!
「うおっ!?」
手に走る刺激。そして、パネルがピカッと光った。
「通電してる……? いや、俺が触ったから……?」
思わず自分の手を見つめる。もう一度、レンジに触れてみる──
チンッ。
「……直ってる……って、いやいやいや、そうじゃねえ!」
俺が触ると動く。コンセントも電池もない。ってことは──
「俺、電気出してんのか? 感電したから? いやいやそんな馬鹿な」
そのときだった。
「キャアアアアア!!」
悲鳴が草原の向こうから飛んできた。
目をやれば、小さな丘を少女が転がるように駆け下りてきている。その背後には、歯をむき出しにしたゴブリンが三匹。小柄だが、明らかに敵意満々で追いかけてきている。
「おいおい……初っ端からモンスターとか、聞いてねぇよ……!」
けど──
「助けねぇ理由があるかよっ!」
俺は、ためらわずに電子レンジを抱え上げた。
家電は電気屋の誇りであり、命を預ける相棒……
だが今、この状況じゃ──
「くらえぇぇっ!!」
相棒にも砲弾になってもらうしかない!
ごめんな、花屋のおねーちゃん……レンジ、ちょっとだけ借りるぜ!
勢い任せで、俺は電子レンジを全力で投げつけた。
「ギャァ」
ゴブリンが叫ぶ。脳天直撃。無事なわけがない。
「キィィィィ、ワリュワリョワリョォォォーーーー」
額から緑色の液体を垂らしたゴブリンが、今度はこっちを睨んできた。残りの二匹とアイコンタクト。……はい、来た。
「上等だ。こう見えて、柔道も剣道も初段持ってんだ。なめんじゃねぇぞ、ゴブリン共……っ!」
──三秒後。
「いてぇぇ! やめろ、すみません、ほんとすみませんっ! 死ぬってマジで死ぬってぇぇぇ! ……三対一は卑怯だろぉ……」
叫んだところで容赦はなく、こん棒でフルボッコ。
柔道も剣道も、数と木の棒には勝てなかった。
「骨……二、三本は……いったな……」
うずくまりながら呻く俺を尻目に、ゴブリンたちは気が済んだのか少女の方へと向かいはじめた。
「ヒッ……」
少女は涙を浮かべ、腰を抜かして震えている。
「くそっ……助けねぇと……!」
草むらに転がる電子レンジの電源コードが、視界に入った。
俺は藁にもすがる思いでコードのプラグを握り、叫んだ。
「やめろぉぉぉ! 俺はまだ、俺はまだ負けちゃいねぇぞおおおおおっ!!」
全身の力を込めてコードを引き寄せた。
コードは綱のようにピンと張り、俺はそれを手繰り寄せながら、少女のもとへ突っ込むつもりだった。
だが──その瞬間、手の中から何かが走った。
「うおっ……な、なんだ今の……!?」
手からレンジへ、まるで電流のような感覚が駆け抜けていく。肌が逆立ち、全身の毛穴がビリビリする。
そしてレンジが震え、パネルがギラリと赤く光った。
ビリビリビリッ……!
「え……なにこれ……俺の中から電気が……!?」
コードを通じて、まるで洪水のように俺から“何かががレンジへと送り込まれていく。 パネルがギラリと赤く光ったかと思えば、レンジ全体がジジジと震えだした。
「やばっ、ちょっ、ちょっと待っ──」
ジジジジジッ……!
チンッ。
電子レンジは、轟音とともに爆発した。
「キィィィッ!!」
破片が飛び散り、ゴブリンたちの背中に突き刺さる。
少女はゴブリンたちの陰にうまく隠れていたようで、傷ひとつなかった。
「よ、良かった……」
驚いたゴブリンたちは振り返ることなく逃げ出し、草原の彼方へと消えていった。
「うあっ、たしゅ……でゅん……」
少女が泣きそうな顔で、わけのわからない言葉を必死に口にする。
……まったく何を言ってるのかは分からねぇ。
だけど、その震える声と、俺の手を握る小さな手が、全部を物語ってた。
「助かって……よかったな……」
そう、ひとことだけ呟いたあと、まぶたがどんどん重くなるのを感じた。
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──これで、俺も……もう、心残りねぇぜ。
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