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おっさんイメチェンす
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意識が戻ったとき、最初に感じたのは、寝心地の悪さだった。
背中がやたら硬いし、どこか土の匂いがする。それに、空気が妙に静かで澄んでいる。
「……あれ?」
目を開けると、見知らぬ天井があった。
藁か草で編まれたような天井。木の梁にはツタのようなものが絡まっている。
──夢じゃ、なかったんだな。
「ここは……どこだ……?」
声に出してみたが、返事はない。けれど、すぐそばで人の気配がした。
ぼんやりと視線を動かすと、枕元に二人の人影があった。
一人は、昨日助けたあの少女。もう一人は、少女にどこか似た顔立ちの女性──おそらく母親だ。
その母親と、もう一人、厳かな雰囲気の老人が並んで何やら会話している。
だけど──
「はるなごす、てぃらさ……あいふぇー……」
──まったくもって、何を言ってるか分からない。
「そっか、やっぱり異世界語だよな……」
命が助かっただけでも御の字だ。贅沢は言えない。けど、せっかく目覚めたのに、言葉が通じないってのは……なんか、寂しいなぁ。
「どうせだったら、レンジじゃなくて、外国人の客が増えることを見越して買っておいた翻訳機でも一緒に来てくれりゃよかったんだけどな……」
そんなことをぼやいた瞬間──
ゴトッ。
何かが手の中に転がり落ちてきた。
「……え?」
手を開くと、そこにはあの翻訳機があった。日本で買った、ほとんど使わないまま店の奥に転がっていたアレだ。
「えええぇぇぇ!? お前も来てたのかよ!? てか、どうやって!?」
驚いていると、突然その翻訳機から音が流れた。
「起きたよお母さん、おじさん起きた。よかったー」
「まぁ、エルナが頑張って看病したおかげね」
親子の言葉が、明瞭な日本語に訳されていた。
「……ウソだろ? 翻訳できんの? てかお前、充電切れてたはずじゃ……」
ぽかんとしていた俺の手から、翻訳機がコロンと転がり落ちた。
「さうぁるほだ……」
「ふぁしぇっ……くれにゅむ……」
異世界語が、元通りのわからん言葉に戻る。
「あー……やっぱり、俺が持ってないとダメか?」
試しに拾い上げて、もう一度握ってみる。
「おじさん。助けてくれありがとうね」
──翻訳、再開。
少女の満面の笑顔が眩しい。
「って、これ……やっぱ、俺が電力供給してんのか?」
もしかして、魔力ってやつか?
電子レンジもそうだったみたいだし……この翻訳機も、俺が触ってる間だけ動くってことか?
「ま、細けぇことはいいか」
通じるなら、それで充分。
これでみんなに、ちゃんとお礼が言える。
それからしばらくして──
俺のことを命の恩人だって言って、少女はずっと俺のそばにいてくれた。
母親も丁寧に礼を言ってくれたし、長老らしき爺さんも「村を救ってくれた」と頭を下げてくれた。
「いやぁ、どうってことねぇよぉ……」
思わず照れ隠しに頭をかいたが、内心はけっこううれしかったりする。
とはいえ、怪我のほうは軽くなかった。
骨も折れてたし、全治一ヶ月ってとこだ。
その間、俺はこの村──人口およそ50人の、素朴な集落にお世話になることになった。
動けない間はベッドでおとなしくしていたが、少しずつ動けるようになってからは、できる限りのことを手伝った。
壊れた鍋の取っ手を直したり、抜けかけた扉の蝶番を調整したり。
電気はなくても、道具の扱いと手仕事には自信がある。
もちろん、村の人たち全員にあいさつもした。
名前はまだ覚えきれてないけど、顔と雰囲気はもうだいぶ慣れてきた。
そして、何より。
翻訳機に頼りながらも、俺は本気で異世界語を覚える努力を始めた。
毎日、少女──エルナと会話しながら、単語を復唱し、意味を確認し、時には図に描いて説明を受けた。
そのうちに、翻訳機を使わなくても、だいたいの会話は理解できるようになってきた。
「おっちゃん、すごい!」 「電のおじちゃん、ちゃんと話せる!」
村の子どもたちにそう言われたときは、ちょっと泣きそうになった。
──なんだ、俺。まだまだやれるじゃねぇか。
そうして少しずつ日常を取り戻していったある日、村の集会所の一角に設置された古びた鏡の前に立った。
ふと映った自分の姿に、俺は固まった。
「……え、誰だこのイケメン?」
でっぷりしていた体はスリムになり、腹の肉もすっきり消えていた。 顔の輪郭も引き締まり、ヒゲは妙に整っていて、どこかダンディな雰囲気さえ漂っている。 目元のたるみも取れて、明らかに若返っていた。
「三十代後半……くらいか? これ……俺なのか?」
思わず鏡に手を伸ばして、何度も自分の顔を確かめた。
「……これが、異世界転生ボーナスってやつか? 知らんけど」
嬉しいような、ちょっと切ないような。
でも──まぁ、悪くない。
背中がやたら硬いし、どこか土の匂いがする。それに、空気が妙に静かで澄んでいる。
「……あれ?」
目を開けると、見知らぬ天井があった。
藁か草で編まれたような天井。木の梁にはツタのようなものが絡まっている。
──夢じゃ、なかったんだな。
「ここは……どこだ……?」
声に出してみたが、返事はない。けれど、すぐそばで人の気配がした。
ぼんやりと視線を動かすと、枕元に二人の人影があった。
一人は、昨日助けたあの少女。もう一人は、少女にどこか似た顔立ちの女性──おそらく母親だ。
その母親と、もう一人、厳かな雰囲気の老人が並んで何やら会話している。
だけど──
「はるなごす、てぃらさ……あいふぇー……」
──まったくもって、何を言ってるか分からない。
「そっか、やっぱり異世界語だよな……」
命が助かっただけでも御の字だ。贅沢は言えない。けど、せっかく目覚めたのに、言葉が通じないってのは……なんか、寂しいなぁ。
「どうせだったら、レンジじゃなくて、外国人の客が増えることを見越して買っておいた翻訳機でも一緒に来てくれりゃよかったんだけどな……」
そんなことをぼやいた瞬間──
ゴトッ。
何かが手の中に転がり落ちてきた。
「……え?」
手を開くと、そこにはあの翻訳機があった。日本で買った、ほとんど使わないまま店の奥に転がっていたアレだ。
「えええぇぇぇ!? お前も来てたのかよ!? てか、どうやって!?」
驚いていると、突然その翻訳機から音が流れた。
「起きたよお母さん、おじさん起きた。よかったー」
「まぁ、エルナが頑張って看病したおかげね」
親子の言葉が、明瞭な日本語に訳されていた。
「……ウソだろ? 翻訳できんの? てかお前、充電切れてたはずじゃ……」
ぽかんとしていた俺の手から、翻訳機がコロンと転がり落ちた。
「さうぁるほだ……」
「ふぁしぇっ……くれにゅむ……」
異世界語が、元通りのわからん言葉に戻る。
「あー……やっぱり、俺が持ってないとダメか?」
試しに拾い上げて、もう一度握ってみる。
「おじさん。助けてくれありがとうね」
──翻訳、再開。
少女の満面の笑顔が眩しい。
「って、これ……やっぱ、俺が電力供給してんのか?」
もしかして、魔力ってやつか?
電子レンジもそうだったみたいだし……この翻訳機も、俺が触ってる間だけ動くってことか?
「ま、細けぇことはいいか」
通じるなら、それで充分。
これでみんなに、ちゃんとお礼が言える。
それからしばらくして──
俺のことを命の恩人だって言って、少女はずっと俺のそばにいてくれた。
母親も丁寧に礼を言ってくれたし、長老らしき爺さんも「村を救ってくれた」と頭を下げてくれた。
「いやぁ、どうってことねぇよぉ……」
思わず照れ隠しに頭をかいたが、内心はけっこううれしかったりする。
とはいえ、怪我のほうは軽くなかった。
骨も折れてたし、全治一ヶ月ってとこだ。
その間、俺はこの村──人口およそ50人の、素朴な集落にお世話になることになった。
動けない間はベッドでおとなしくしていたが、少しずつ動けるようになってからは、できる限りのことを手伝った。
壊れた鍋の取っ手を直したり、抜けかけた扉の蝶番を調整したり。
電気はなくても、道具の扱いと手仕事には自信がある。
もちろん、村の人たち全員にあいさつもした。
名前はまだ覚えきれてないけど、顔と雰囲気はもうだいぶ慣れてきた。
そして、何より。
翻訳機に頼りながらも、俺は本気で異世界語を覚える努力を始めた。
毎日、少女──エルナと会話しながら、単語を復唱し、意味を確認し、時には図に描いて説明を受けた。
そのうちに、翻訳機を使わなくても、だいたいの会話は理解できるようになってきた。
「おっちゃん、すごい!」 「電のおじちゃん、ちゃんと話せる!」
村の子どもたちにそう言われたときは、ちょっと泣きそうになった。
──なんだ、俺。まだまだやれるじゃねぇか。
そうして少しずつ日常を取り戻していったある日、村の集会所の一角に設置された古びた鏡の前に立った。
ふと映った自分の姿に、俺は固まった。
「……え、誰だこのイケメン?」
でっぷりしていた体はスリムになり、腹の肉もすっきり消えていた。 顔の輪郭も引き締まり、ヒゲは妙に整っていて、どこかダンディな雰囲気さえ漂っている。 目元のたるみも取れて、明らかに若返っていた。
「三十代後半……くらいか? これ……俺なのか?」
思わず鏡に手を伸ばして、何度も自分の顔を確かめた。
「……これが、異世界転生ボーナスってやつか? 知らんけど」
嬉しいような、ちょっと切ないような。
でも──まぁ、悪くない。
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