しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥

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おっさん湯を沸かす

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 急な別れになっちまったけど、学園のみんな……大丈夫だろうか。
 空の旅は刺激的だったけど、今日は色々あって疲れた。
 あの豪華なベッドで休みたい……けど──

 「シービーは、いつまでここにいるんだ? 俺、ちょっと休みたいんだけど」
 不機嫌な顔で、備え付けの椅子に腰かけているシービーに声をかける。
 メイドだか助手だか分からんが、初対面の女の子が居ると落ち着かない。

 「あ? 寝たきゃ勝手に寝ろよ、あたいのことは気にすんな」
 「すまんが、気になって寝られないんだ。俺のことはもういいから、自分の家に帰ってくれないか?」
 「あたいの家はここだ……寝るときは隣のちっせえ部屋だけど、おっさんの世話をしてる間は、おっさんの傍を離れるなって命令だからな」
 俺はシービーが指差したドアを開いた。
 そこは簡易ベッドと衣装ハンガーが置いてあるだけの二畳ぐらいの小部屋だった。 

 「マジか……」
 「なんだよ、同情ならいらなぇぜ、これがあたいの試練なんだかんな」
 試練? 魔族にも色々あるようだが、こんな小さな子には酷だろうよ。

 「疲れたなら、あったけぇ紅茶でも入れてやるから待ってろ」
 そう言うと、シービーは両手を前に出して呪文を唱えた。あれは火の魔法か? 学園で学んだからちょっとは詳しくなったな。
 どうやらシービーは備え付けの急須を火の魔法で温める気らしい……って
 「ここで火を使うの危なくないか? めっちゃ絨毯敷きだし、フリフリの天蓋に引火したらどうすんだよ」
 「集中してっから黙って見てろっ」
 ぐぬぬ、と唸りながら指先に集中するシービー。額にはうっすらと汗が見える。

 「ホントに大丈夫かよ……」
 火が出る以前に、魔法の詠唱が終わっているにも関わらずなかなか発動しない。
 「うるせぇな。火、苦手なんだよあたいはっ!」
 魔力制御が不安定なのか、たまにボッと火花が散って、火の粉が絨毯に落ちている。

 「ああもう! やっぱ火属性とかクソだわ! 氷系ならまだマシなんだけどよ~~!」
 ぶーぶー文句を言いながらも頑張ってる姿は、なんというか、微笑ましい。けど──

 「……まぁ、ちょっと待ってな」
 俺は何もない空間からコンパクト電気ケトルを取り出し、水を入れてスイッチを入れる。

 ──数秒後。

 「……ふぇ?」
 カチッという音とともに、蒸気の音が立ち上る。
 湯気が勢いよく上がり、ポット内の水がグラグラと煮え立つ。

 「はやっ!? え、なにこれ!? 今、どんな魔力使った!?」
 「いや、電力ってやつ」
 「で、でんりょく……!? なにそれ!? それだけで火出んの!? 魔法詠唱ゼロ!? 精霊いらず!?」
 シービーはポットを指差したまま、口をぱくぱくさせている。

 「いや、これ“火”でもないんだけど……まぁ、似たようなもんかな」
 「似たようなもんでこんな速さで湯が!? てか、ちょ、わけわかんねぇ……っ!」
 キレ気味な顔で俺の顔をじっと見て来るシービー。なかなか良い反応だ。これだから家電の実演販売はやめられない……販売はしていないけどな。

 「こんな、おっさんの魔道具に負けるなんて……」
 「いやいや、落ち込まなくていいって。属性魔法って得手不得手あるだろ?」
 Zクラスのみんなもそうだったしな。
 けど、フォローしてみたもののシービーはうつむいたまま、ぼそっと呟いた。

 「……昔、試験で火を暴走させて寮の壁を焦がしてさ。今でも他の連中にバカにされんだよ“お湯も沸かせない魔族”って」
 湯も沸かせない魔族……なんか人間味あって良いけど、やっぱここも格差社会なのか。

 「まぁでも、俺には魔法はできないし、発動できるだけでも凄いと思うぜ」
 そう言って紅茶をカップに注ぎ、シービーにそっと差し出した。

 「まぁ飲めよ。直火もいいけど電気で沸かした茶もなかなかのもんだぜ」
 「……は? いらねーし。……ったく、味見くらいはしてやるけどさ!」

 カップを受け取り、一口飲むシービー。口元は真一文字に結んでいるが──

 「……ん、まぁ……悪くねぇな」
 「だろ?」
 体が温まったのか、シービーの顔が少し赤らんだ。
 棚にあった別のカップに自分の分の紅茶を入れて、俺も一息つく。

 「少し落ち着いたし、色々聞いてもいいか?」
 「おうよ、なんでも聞いてくれ、それがあたいの役目だからな」
 魔王城に来て、不安ばかりだったけど、シービーのおかげで緊張も解れてきたな。
 これで魔王軍の情報を聞き出せれば、ここから出られるヒントを得られるかもしれない。
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