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そうしてまた殿下は私の頬に触れた。
殿下の手は温かく、とても気持ちがいい。
(………え、温かく?)
殿下は私の頬を撫で続ける。
先ほどまでは何も感じることができなかった頬が、突然戻り始めた感覚に驚き思わず反応してしまった。
殿下の手がピタリと止まる。
「テ、ティナ……?」
私はゆっくりと目を開けた。
そこには赤く目を腫らしたグランディア様の姿が。
「ティナ!」
「で、んか……」
「わ、私は……ティナが死んでしまったと……。本当によかった……そうだ、医者を呼ばなければ! 誰か来てくれ、ティナが目を覚ました!」
あ、待って、行かないで!
まだ動かしづらい手を伸ばして殿下の服の裾を握る。
「ティナ? まずは医者を……!」
「いいえ、大丈夫……です…殿下」
グランディア様はそれでも医者を呼びに行こうとしたけれど、私が服を離さないため仕方なく座り直した。
「少し、お待ち……下さい……」
グランディア様は体の痺れが落ち着くまで待ってくれた。
その間、殿下は「本当に大丈夫なのか」「どこか痛いところはないか」「何かしてほしいことはあるか」と、とても心配していた。
少し経つと、すぐに体の痺れはなくなった。
「殿下、私は大丈夫です。ただ……えーっと、どうやら仮死状態になっていたようです」
「仮死状態だと!? 誰がそのようなことを!?」
「多分、王妃様、です……」
「な!? 母上が!? なぜこのようなことを……」
「それは、私が……殿下と会えないことを王妃様に相談してしまったからだと思います」
「それでなぜ母上が……?」
「申し訳ございません、私のせいでご迷惑をおかけしてしまいました」
「なぜティナが謝る……? ティナのせいではないだろう……私が……」
「いいえ、私が……」
無言の時間が流れる。
久しぶりの会話にどうしたらいいのか分からなくて困ってしまう。
あんなに会いたかったのに、話をしたかったのに。
何より、日記を読まれてしまったことの恥ずかしさでグランディア様の顔をまともに見ることができない。
グランディア様の手の中にある私の日記。
そして目が合った。
「あ……ティナ……。すまない、ティナの日記を勝手に見てしまった」
「い、いいえ」
恥ずかしくて本当に心臓が止まりそうだわ。
「ティナ、この日記に書かれていることだが」
「は、はいっ!?」
「ティナは私に差し入れをしてくれたのか?それに、いつも会いに来てくれていたのか……?」
「はい、お手紙も添えて……。でもどうやら殿下のところには届いていなかったようですね。最初は何度も会いに行きました……。けれど、忙しいからと断られていたではありませんか」
「ティナ、すまなかった。差し入れのこともそうだが、私はティナが会いに来てくれたことも知らなかったんだ」
「それは、」
「どうやら私の部下や、君の侍女に問題があるようだ」
グランディア様は手をぎゅっと握る。
ここまで怒ったグランディア様は見たことがない。
殿下の手は温かく、とても気持ちがいい。
(………え、温かく?)
殿下は私の頬を撫で続ける。
先ほどまでは何も感じることができなかった頬が、突然戻り始めた感覚に驚き思わず反応してしまった。
殿下の手がピタリと止まる。
「テ、ティナ……?」
私はゆっくりと目を開けた。
そこには赤く目を腫らしたグランディア様の姿が。
「ティナ!」
「で、んか……」
「わ、私は……ティナが死んでしまったと……。本当によかった……そうだ、医者を呼ばなければ! 誰か来てくれ、ティナが目を覚ました!」
あ、待って、行かないで!
まだ動かしづらい手を伸ばして殿下の服の裾を握る。
「ティナ? まずは医者を……!」
「いいえ、大丈夫……です…殿下」
グランディア様はそれでも医者を呼びに行こうとしたけれど、私が服を離さないため仕方なく座り直した。
「少し、お待ち……下さい……」
グランディア様は体の痺れが落ち着くまで待ってくれた。
その間、殿下は「本当に大丈夫なのか」「どこか痛いところはないか」「何かしてほしいことはあるか」と、とても心配していた。
少し経つと、すぐに体の痺れはなくなった。
「殿下、私は大丈夫です。ただ……えーっと、どうやら仮死状態になっていたようです」
「仮死状態だと!? 誰がそのようなことを!?」
「多分、王妃様、です……」
「な!? 母上が!? なぜこのようなことを……」
「それは、私が……殿下と会えないことを王妃様に相談してしまったからだと思います」
「それでなぜ母上が……?」
「申し訳ございません、私のせいでご迷惑をおかけしてしまいました」
「なぜティナが謝る……? ティナのせいではないだろう……私が……」
「いいえ、私が……」
無言の時間が流れる。
久しぶりの会話にどうしたらいいのか分からなくて困ってしまう。
あんなに会いたかったのに、話をしたかったのに。
何より、日記を読まれてしまったことの恥ずかしさでグランディア様の顔をまともに見ることができない。
グランディア様の手の中にある私の日記。
そして目が合った。
「あ……ティナ……。すまない、ティナの日記を勝手に見てしまった」
「い、いいえ」
恥ずかしくて本当に心臓が止まりそうだわ。
「ティナ、この日記に書かれていることだが」
「は、はいっ!?」
「ティナは私に差し入れをしてくれたのか?それに、いつも会いに来てくれていたのか……?」
「はい、お手紙も添えて……。でもどうやら殿下のところには届いていなかったようですね。最初は何度も会いに行きました……。けれど、忙しいからと断られていたではありませんか」
「ティナ、すまなかった。差し入れのこともそうだが、私はティナが会いに来てくれたことも知らなかったんだ」
「それは、」
「どうやら私の部下や、君の侍女に問題があるようだ」
グランディア様は手をぎゅっと握る。
ここまで怒ったグランディア様は見たことがない。
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