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「私もティナに会いたくて何度もここへ来たんだ……。けれど、君の侍女に「体調が悪いから会いたくない」とティナが言っていると……」

「そんな、私は体調が悪いからと断ったことなど一度もありません!」

「私とは会うことを断ったはずなのに、外に出ている君を見かけて……。それで、仮病を使ってまで私に会いたくないものなのかと思ってしまったんだ」

「私が殿下の誘いを断ることなんてありえません……。それに、そもそも殿下が来てくれたことを知りませんでした。侍女はみな私によくしてくれていたのに……」

「一人か二人、紛れ込んでいたようだな。……すまない、私のせいだ」

「いえ、殿下のせいでは」

「それと、聖女とのことは誤解だ。彼女は私ではなく、隣国の王子である私の友人と恋仲なんだよ」

「え、はい? 隣国の王子と……!?」

 それはまずいのではないでしょうか……。

 聖女様はこの国の宝。
 国外へ出ることは許されていない。

「だから、彼女と王子を私が引き合わせていたんだよ。二人だけでいるのが知られてしまうと問題になるからね」

「そうでしたか……」

「何度も隣国へ行っていたのは、王子をこちらの国へ婿養子として迎えることができないか交渉していたんだよ。けれど、そのせいで長いこと君に会えなくなってしまった」

「私が何も知らなかっただけですから」

「いや、私がちゃんと君と話さなかったのがいけないんだ。君の口から聞くことが怖くて話すことを避けていたんだ」

「私も、私ももっと殿下とお話をすればよかった……。遠くから見ているだけじゃなくて直接会いにいけばよかった」

「ティナ、私は君のことが子供の頃から好きだったんだ」

「一目惚れをして陛下に婚約を頼むくらいに……?」

「えっ、?」

「ごめんなさい、実はずっと聞こえていたのです」

「な、なにが……」

「私の日記を読みながら独り言を言っていたことがです」

 グランディア様は顔を真っ赤にして口をぱくぱくしている。

 けれど、本当に恥ずかしいのは私の方だわ。

「殿下だって、私の日記を読んだではありませんか! 隣で日記を読まれていた私の気持ちも考えて下さいませ」

「それは、そうだな……すまなかった」

「ふふ、いいのです。殿下の気持ちを少しでも知ることができましたから」

「ティナ……」

「あの、殿下……。ぎゅって抱きしめてくれませんか?」

 グランディア様はまた顔を真っ赤にしてしているけれど、無言でゆっくりと優しく抱きしめてくれた。

 温かい……。

「殿下、私も子供の頃からずっと好きでした」

「そ、そうか」

「これからは毎日……はお忙しいので難しいと思いますが、たくさん顔を合わせて、話をしましょう」

「あぁ」

「それから交換日記をしましょう。会えなくても、何があったのか知りたいのです」

「それはいいな」

「愛が重いとか、言わないでくださいね?」

「そんなことはない。それと……」

「なんでしょう?」

「殿下ではなく、昔のように名前で呼んで欲しい……」

 長いこと会っていなかったせいで、私のことを好きではないと思っていたせいで、いつの間にか殿下と呼んでしまっていた。
 心の中でだけなら許してほしいと、グランディア様と呼んでいた。

「はい、グランディア様」

「ティナ……愛している。ずっと一緒にいてほしい。私と結婚してくれないか?」

「もちろんです。絶対にはなさないでくださいね」



ーーー完ーーー


「それにしても、大きな声で医者を呼んだのに誰も来ないな……?」

「多分、王妃様がみなを下がらせたんだと思います。邪魔が入らないようにとの配慮ではないかと……」

「ということは兄上達もグルなのか?」

「そうでしょうね。そうでないと今頃大騒ぎになっていますよ」
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