ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

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勇者がダンジョンにやってくる!

勇者の来訪は果たして彼らに何を齎すのか 3

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「それで旦那!そいつとは俺が戦うんだろう?な、な?そうなんだろ?そう言ってくれよ、旦那ぁ!!」
「い、いや待てセッキ!落ち着け!!そういう訳にはだな・・・」

 カイへと詰め寄ったセッキは、その勢いのままに彼の肩を掴んでは激しく揺すり始めている。
 彼は勇者と戦う事を切望し、その許しをカイから得ようとしているようだった。
 彼の境遇を考えれば、その願いを受け入れてやりたい所ではあるが、カイにはそれを頷く訳にはいかない理由があった。

「セッキ、心配しなくても貴方には勇者と戦ってもらうつもりよ」
「本当か?本当なのか、姐さん?」

 カイが彼の望みをはっきりと否定する前に、ヴェロニカがそれを肯定していた。
 その言葉を耳にしたセッキはカイからその両手を放し、そのワナワナと震える両手をヴェロニカへと向けている。
 その希望に震える巨大な両手は、それが嘘だと分かれば目の前の存在を縊り殺してしまうだろう。
 しかし心配しなくとも、そんな事にはならない。
 いきなり齎された希望に、不安そうな表情を見せているセッキに、ヴェロニカは優しく微笑んでいたのだった。

「えぇ、本当よ。勿論、その自信がないようなら別の計画を考えるのだけど・・・」
「ひゃっほぅぅぅ!!!やったぜぇぇぇ!!姐さん姐さん、心配すんなって!!俺が必ず、そいつを仕留めてやるからよぉ!!」

 ヴェロニカ達が考えている計画には、始めからそれが組み込まれていたのだろう、笑顔で勇者との戦いを告げる彼女に、セッキは両手を振り上げて喜びを爆発させていた。
 大柄な彼がその両手までも振り上げれば、その拳が天井を叩いてしまう。
 そうして零れ落ちてきた土埃に、ヴェロニカが嫌そうな表情を作っても、彼の喜びが止まる事はない。
 セッキはヴェロニカが僅かに覗かせた不安を払拭するように、精一杯その力をアピールすると、必ず勇者を仕留めてみせると宣言していた。

「なになにー?セッキー、何かいい事あったのー?」
「おぅ、フィアナか!へへへ・・・何か良い事って、そりゃお前・・・勇者と戦えるんだよ!!これが喜ばずにいられるっかってんだ!!」

 嬉しそうに大声を上げているセッキの姿に、今この部屋と行われているやり取りの意味が良く分かっていないフィアナも、思わず声を掛けてくる。
 足元に駆け寄ってきては無邪気に見上げてくるフィアナの姿に、セッキもニヤリと笑みを返すと、その身体を持ち上げては振り回し、喜びを分かち合っていた。

「あははははっ!!セッキセッキー!もっと速く速くー!!」
「おぅ!!そらそらーーー!!!」

 セッキが振り回すフィアナの身体は、この部屋に浮かんでいるモニターを薙ぎ払っては、そこに映る映像を乱している。
 しかしそのほのぼのとした光景に、それを気にする者もいないだろう。
 この部屋にいる者は皆、彼らの微笑ましい振る舞いにほっこりとした表情を浮かべていた。

「カイ様。先ほど、何か仰られていませんでしたかのぅ?」

 セッキの割り込みや、それからの会話の中で有耶無耶になってしまったカイの発言を、気にしたダミアンがそれの続きを促してくる。
 しかしカイに、その続きを言う事が出来るだろうか。
 カイがそれを話してしまえば、目の前のこの穏やかな光景を壊すことになってしまう。
 そんな事が果たして、彼に許されているのだろうか。  

「ん?あー・・・いや、何でもないんだ。気にしないでくれ」
「はぁ・・・カイ様が、そう仰られるなら」

 答えは否、である。
 カイはダミアンの言葉に、適当な誤魔化しを返すと、そのまま深く椅子へと座り直している。
 ダミアンはそんなカイの姿に、不思議そうに目をぱちくりと瞬かせていた。

「それでは、カイ様。私達が考えた、勇者抹殺計画の説明に移らせてもらってもよろしいでしょうか?」

 セッキとフィアナによって折られた話の腰を、無理矢理本筋へと戻したヴェロニカは、僅かに汚れた服の裾を払ってはカイへと改めて向き直っていた。
 彼女がこれから話す内容が、自分が望む未来にも繋がっていると察したセッキは、振り回していた身体を鎮めると、そっとそちらへと耳を澄ましている。
 彼の横ではまだ遊び足りないという表情でフィアナが不満を訴えていたが、それもどこか張り詰め始めたこの部屋の雰囲気に、すぐに大人しくなるだろう。

「あぁ、そうだな・・・」

 集まった注目は、次に話すカイの発言を固唾を呑んで見守っている。
 彼らが計画している勇者抹殺計画を撤回させるならば、今のこの時が最後のチャンスであろう。
 カイは自らの顎に手を当てて、黙考する仕草を見せている。
 しかし彼の考えは、始めから決まっていたのだった。

「では、聞かせてもらおうか。お前達が考えた、勇者抹殺計画とやらを」

 それは彼らの計画を、そのまま受け入れるという事だ。
 今までの行動が全て、このためであったと解釈された時点で彼に他の選択肢などない。
 彼らがそう解釈した事で積み重なった信望は、それを否定する事で怒りや失望に変わるだろう。
 それを抑える手段などカイにはなく、ダンジョンの最奥のさらに奥に鎮座している今の状況では、逃げる事すら許されていない。
 そんな状況でそれを否定する事など、始めから不可能であったのだ。

「はい、畏まりました!それではですね、まずはこちらをご覧ください。これはまだ草案段階なのですが―――」

 カイの許可を得たことで嬉しそうに声を弾ませたヴェロニカは、早速端末を操作してはなにやら用意したものを見せようとしている。
 彼女のそんな表情を眺めながら、カイはいかにも全て分かっていますといった表情を、その顔に浮かべていた。
 しかし彼がその表情の下で考えていたのは、いかにして勇者の命を守るかという事であった。

(どうする、どうすればいい!?ヴェロニカ達の計画を破綻させず、勇者の命を守るにはどうすればいいんだ!?と、とにかく!何か考えないと、何か・・・!)

 せめて勇者の命だけでも助けようと必死に頭を悩ませているカイの耳には、当然の事ながらヴェロニカの説明など入ってはこない。
 しかしそんな事は、今の彼にとってどうでもいい事だろう。
 彼はとにかく、このダンジョンに実際に勇者がやってくるまでに、それを守る術を考えなければならない。
 そしてそれを、ヴェロニカ達に気づかれないように成し遂げなければならないのだ。
 果たして彼に、そのような芸当が可能だろうか。

(あぁ~!そんなの思いつく訳ないだろ!!うぅ・・・時間が、時間がもっと欲しい)

 カイが耳にした話では、勇者は近々このダンジョンに訪れるらしい。
 ただでさえ不可能に近い芸当を、そんな短時間で考えなければならない情況に、カイは表情を全く動かさないままに苦悶する。
 そして実際に、勇者はすぐにこのダンジョンへと訪れる事になる。
 その時彼は、このダンジョンから姿を消していた。
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