ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

彼の者の実力に二人は言葉を失う 2

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「おおっ!」
「これはっ!」

 一瞬の内にゴブリンを両断したリタの戦いぶりに、それを観戦したヴェロニカとダミアンの二人も思わず歓声を上げる。
 彼らの目線の向こうでは、危ない所を助けられたためかリタに感謝を告げるマーカスと、彼を助け起こそうと手を差し伸べるリタの姿が映っていた。
 しかし彼は忘れてしまったのだろうか、ここまでどうやってやってきたのかを。
 差し出した手を掴んだマーカスを、助け起こしたリタはそのまま彼を引き摺って走り始めてしまう。
 僅かな時間、地面に横になっていたといっても、全く回復などしていないマーカスはそれに為す術なく引き摺られていってしまっていた。

「これは、どうなの?その・・・一太刀で、片付けはしたけど」

 リタとマーカスが走り去った後の部屋には、彼女が両断したゴブリンの死体だけが転がっている。
 それをまざまざと観察しながら、ヴェロニカは戸惑ったように感想を漏らしていた。
 確かにリタの戦いぶりを目にして、思わず歓声を上げてしまったヴェロニカであったが、考えてもみれば彼女と戦ったのは、このダンジョンでも最弱の存在と言ってもいい魔物である。
 それを一撃で両断したとして、それで勇者としての実力を証明したといえるだろうか。
 ネクロマンサーとしては超一流といっていい実力を秘めているヴェロニカも、実践の経験はそれほど豊富という訳ではない。
 そのため見抜ききれない彼女の実力に、ヴェロニカは自らよりも圧倒的に豊富な経験を持つ存在へと、助け舟を求めて声を掛けていた。

「そうさなぁ・・・一見派手に見えはしたが、これは・・・落第じゃな」
「そうなの?私には、十分な実力を持っているように見えたのだけど・・・?」

 ヴェロニカからリタの実力の見立てを頼まれたダミアンは、その豊かな体毛を撫で付けると彼女のそれを、勇者に相応しい力ではないと断定する。
 その言葉に、ヴェロニカは思わず小首を傾げてしまっていた。
 物凄い速度でゴブリンへと駆け寄り、それらを一太刀で片付けてしまったリタの戦いぶりは、ヴェロニカの目からすれば十分に勇者としての実力を秘めているように見えた。
 しかしダミアンは、それでは十分ではないと言う。
 それは一体、如何なる理由からであろうか。

「ほれ、よく見てみぃ。あのゴブリン共の死体を。断面がいかにも、力任せで断ち切りましたといっておろう。あれでは駄目じゃな、所詮聖剣の力頼りの子供よの」
「言われてみれば、確かにそうね・・・」

 ダミアンはモニターに映っているゴブリンの死体を指差しては、それに苦言を呈している。
 確かにその死体の断面は、聖剣という最上位の武器を振るって断ち切ったにしては滑らかとは言い難い。
 それはつまりリタが聖剣の性能に頼りきりの、技量も何もない子供でしかないという事実を示している。
 ダミアンに指摘されて始めて、それをまざまざと観察したヴェロニカは、彼の言葉が正しいと納得の仕草をみせていた。

「聖剣によって強化されておるとはいえ、身体能力には光るものはありそうじゃが・・・どの道、セッキの相手にはならんじゃろうなぁ」
「それは、困ったものね。セッキも楽しみにしていたというのに・・・それに、どうすればいいのかしら?この先の配置も、セッキと最低限戦える程度の実力を想定したものなのだけど・・・」

 リタが見せた凄まじい身体能力は、聖剣の加護があってこそのものだとダミアンは語る。
 確かにそれは、間違いない事実であるのだろう。
 そしてそれを含めても、彼女が想定していたレベルには届かないとダミアンは溜め息を漏らす。
 そんなダミアンの態度に、ヴェロニカも同調すると困り果てた様子で、ダンジョンの様子を映すモニターと睨めっこをしていた。

「それはもう、手綱を弱めるしかなかろうて。あ奴も勇者と戦えれば、とりあえず満足しよう」
「そうね、そうしようかしら。でも、どこから手をつけたらいいのか・・・」

 セッキは今も、このダンジョンの最後の部屋で、今か今かと勇者が来るのを待ち構えているのだろう。
 それを思えば、拍子抜けする勇者の実力に困り果ててしまうのも頷ける話しだ。
 想定していた実力を下回る勇者達に、ヴェロニカは計画の修正を強いられる。
 余りに多くの変更点に、どこから手をつけていいか迷ってしまうヴェロニカは、操作端末の上で指を迷わせると、中々それを下ろす事が出来ずにいた。
 そんな彼女の耳に、聞き慣れた声が響く。
 それは彼女にとって、何事よりも優先すべき存在からの声であった。

『手緩いのではないか、ヴェロニカ。手加減は許さん、全力でやれ』

 それは彼女に、計画を緩める事は許さないという、まるで全てを見透かしたかのような声であった。

「カ、カイ様!も、勿論でございます!お言いつけ通りに致しますっ!!」

 主人の御前で披露した計画を、勝手な判断で変更しようとした瞬間にそれを見透かされれば、ただただ頭を下げて平伏するしかない。
 カイの言葉に全力で頭を下げて、了承を叫んだヴェロニカは、再び頭を上げるとその姿を探し始めている。
 しかし彼女が頭を下げている間に壁から離れたカイの姿はもはや、彼女に見つけられることはなかった。

「カ、カイ様!?どこに、どこにおられるのですか!?」
「それは、後でも良いじゃろうヴェロニカよ。今はカイ様の言われたとおり、粛々と計画を進めるのが優先じゃて」

 声が聞こえたにもかかわらず、姿の見えないカイを探して慌てふためいているヴェロニカに、ダミアンは冷静になれと語りかけている。
 彼らが今すべき仕事は、自らの主人の姿を探す事ではなく、その言いつけを守る事であろう。
 その言葉に衝撃を受けたように身体を止めたヴェロニカは、一瞬の沈黙の後に至って冷静な表情を取り戻していた。

「・・・そうね、その通りだわ。それにしても、どうして分かったのかしら?」
「我らが手綱を弱めようとしているかを、か?あの御方であれば、それぐらいお見通しという事じゃろうて」
「ふふふっ・・・そうね、ダミアン。貴方の言う通りだわ」

 ダミアンの言葉によって冷静さを取り戻したヴェロニカはしかし、何故あんなにもタイミングよくカイがそれを指摘してきたのかと不思議がっていた。
 その疑問にダミアンは、我らの偉大なる主人ならばそんなことなど造作もないことだと答えている。
 そんなダミアンのある意味思考を放棄した答えにも、ヴェロニカも同じ考えだと笑顔で頷いていた。

「それでは、始めましょうか。と言っても、それほどやる事はないのだけど」
「そうじゃな。まずは勇者をこのダンジョンから容易に逃げられぬように、深くまで誘い込まねば。全てはそれからよ」

 カイによって計画を変更する事を直前で止められたため、今のヴェロニカ達には特にやるべき事はなくなっていた。
 勇者をどうにかするにも、それはまずダンジョンの奥深くにまで彼女達を誘い込んでからの話しだ。
 それまでは彼女達を途中で帰さないように、適度な刺激と報酬を与えては奥へ奥へと誘うばかり。
 それを行うためには彼女たちの反応をつぶさに観察しては、それに対応したものを提供する必要があった。
 ヴェロニカ達はそのために、勇者達の動向から目を放す事はない。
 その集中は凄まじく、それは先ほどのカイからの厳命も、全く影響ないとは言えないだろう。
 彼らは勇者であるリタの一挙手一投足を見逃してはならないと、その姿を映したモニターへと集中している。
 だから仕方ないのだ、彼らがそれに気づかなくとも。
 ヴェロニカ達が勇者の動向へと注目している、丁度その時。
 カイもまた、のっぴきならない事態へと陥ってしまっていたのだった。
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