ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

余裕の戦いにも彼に気は休まらない 1

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 肉を裂き、骨を砕く生々しい音はしかし、卓越したその技量によって小気味いい音にすら聞こえる。
 木で出来た粗末な棍棒を振り上げて襲い掛かってきたゴブリンは、その姿のままで両断されて崩れ落ちていく。
 そのゴブリンを一太刀で切り捨てたエルトンは、その強烈な一撃にも全く態勢を崩してはいない。
 彼は続いて、襲い掛かってきていたもう一体のゴブリンをも切り捨てようと刃を翻すが、それはその軌跡を描く前に止まってしまっていた。

「っと、危ねぇ危ねぇ・・・そっちも、もう終わったのか」
「まぁ、これぐらいはね」

 エルトンがその刃を途中で止めたのは、その先に既にターゲットがいなくなっていたからだ。
 片目をナイフによって射抜かれ戦闘能力を失ったゴブリンは、すぐに駆け寄ったケネスによってその首を掻き切られては、念入りに止めを刺されている。
 その光景を目にしたエルトンは一度大きく剣を振り払うと、その刀身に着いた血を撥ね飛ばしていた。

「それ、止めなよ。格好つけてるつもりかもしれないけど、対して格好良くないからね。それに汚れもちゃんと取れないし・・・ほら、これでも使いなって」
「あぁ?いいんだよ、俺ぁこれで!」

 骨までも切り裂いた刃には、皮膚の下の脂肪も張り付いてしまっているだろう。
 そのためそんな程度の事では汚れは取れきれはしないと、ケネスはぶつぶつと文句を言っては、自らがその得物を拭っていた布切れをエルトンへと寄越している。
 しかしエルトンは自分はそれでいいんだと取り合おうとはせずに、ケネスが投げて寄越した布切れもすぐに投げ返してしまう。
 ケネスもそんな彼の態度に慣れているのか、もはや文句も言おうとはせず、投げ返された布切れを拾っては、ただただ溜め息を吐いていた。

「す、凄いのだ!!二人とも、本当に凄かったぞ!!こう、ゴブリンをズバーって、一太刀で・・・とにかく凄かったのだ!!」

 そんな長年連れ添った二人のいつものやり取りに、割り込んだのはエヴァンの興奮した声であった。
 彼らの見事な戦いぶりに瞳を輝かせている彼は、両手を握り締めてはその興奮っぷりを現している。
 全身を動かしては何とかその凄さを表現しようとしているエヴァンの姿に、それを向けられている二人はどこか恥ずかしそうに、気まずい表情をみせていた。

「ん~・・・褒めてくれんのは、ありがてぇんだけどよぉ。こんなの雑魚中の雑魚だぜ?これぐらい軽く蹴散らせねぇとなぁ・・・」
「そうだね。前回来た時は戦えなかったから分からなかったけど、こいつらは多分このダンジョンに挑むに足る実力かどうか測るための存在というか・・・そんな感じなんじゃないかな?武器も棍棒、というかただの木の棒だし」

 自らの腕前にある程度の自負を持っているエルトンは、エヴァンの素直な感心にもどこかむず痒いようで、得物を肩に担いでは頬を掻いている。
 彼はこんな魔物など簡単に蹴散らして当然だと語り、相棒のケネスもそれに同意していた。
 ケネスは自らが止めを刺したゴブリンへと近づくと、それが手にしていた棍棒を拾い上げている。
 それをまじまじと観察し、それが棍棒というよりもただの木の棒だと断定した彼は、このゴブリン達が冒険者の実力を測るための、ある種の装置なのではないかと推測しているようだった。

「いえ、お二人ともお見事でございました。流石は、坊ちゃまが見込んだ冒険者でございます」
「うむ!アビーの言う通りだ!見事だったぞ、二人とも!!キルヒマンも、そう思うだろう?」

 如何に相手が雑魚とはいえど、その手際には二人の実力が垣間見えていた。
 自らが見込んで引き込んだ冒険者達の間違いない実力を目にしたアビーは、その喜びに深々と頭を下げながら二人を褒め称えている。
 自らの意見に同意する人間がいたことが嬉しかったのか、声を跳ね上げらせたエヴァンは、この場にいるもう一人の人物、パスカル・キルヒマンことカイ・リンデンバウムにも同意を求めていた。

「・・・キルヒマン?どうしたんだ、何かあったのか?」

 しかし当のカイは、頻りに周辺を警戒するのに夢中で、彼の言葉など耳に届いていないようだった。
 彼は既にこの部屋の魔物が倒されたにもかかわらず、まるでまだ危険が去っていないかのように、目を剥き出しにしては辺りを警戒していた。

「何かありましたか、キルヒマンさん?もう魔物は出てこないと思うのですが・・・?」
「えっ!?い、いえ、別に何でもないんです!ちょっと気になる事があっただけで、あは、あははははっ!」

 この部屋を守っていた魔物も倒し、もはや危険もなくなったというのに警戒を続けるカイの姿は、冒険者であるケネスにも不自然に映る。
 しかし彼はこのダンジョンに一回しか訪れた事のない自分達よりも、確実に情報を持っているであろうカイのその姿に、何か危険な匂いを感じ取り一度は仕舞っていた得物を再び取り出していた。
 相棒のそんな姿にエルトンもまた、肩に担いでいた剣を構え直している。
 そんな二人の不穏な空気に、ようやく自分が注目されていると気づいたカイは、慌てて何かを誤魔化すと引き攣った笑い声を漏らしていた。

「気になる事、っつうのは何なんだい?キルヒマンさんよぉ、もしかしてあんただけが知ってる秘密通路でもあるってか?なんつってな!!がはははっ!!」
「ま、まさかぁ~・・・そ、そんなものある訳ないじゃないですか!!あは、あははっ、あははははっ!」

 ヴェロニカ達がどんな仕掛けをしてくるかと警戒しているカイは、自然とこのダンジョンの魔物だけが通れる隠し通路へも、注意を割いてしまっていた。
 それを指摘したエルトンの言葉は、偶然の一致に過ぎないだろう。
 しかしそれを言い当てられた方からすれば、ただの偶然では済まされない。
 カイは自ら冗談だと笑うエルトンに合わせて笑い声を上げると、それを一際張り上げて、この空気をどうにか誤魔化してしまおうと必死に頑張っていた。

「あっ!分かりましたよ、キルヒマンさん!」
「な、何がでしょう!?そんな分かるような事は何もないんですよ、本当に!ただちょっと、きょろきょろしちゃってただけで!」

 張り上げた笑い声とへらへらとした表情で何かを誤魔化そうとしても、鋭い洞察力を持つ者を誤魔化しきることなど出来はしない。
 何かに気がついた様子のケネスの声に怯えるカイはもはや、早口で言葉を捲くし立てる事でしかそれを誤魔化す術を持たない。
 そして当然、そんな方法では彼の口を塞ぐことなど出来はしなかった。
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