ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

彼の者の実力に二人は言葉を失う 1

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 最奥の間に無数に浮かぶモニターを脇へと押しやり、中央に大きく表示されているモニターには、勇者リタとそのお付に神官であるマーカスの姿が映っている。
 彼らの宿敵とも言っていい存在であり、自ら立案した計画のターゲットでもある彼女の姿がはっきりと映されているそのモニターにも、何故かこの部屋は重苦しいほどの沈黙に包まれていた。
 その原因は、どう考えてもモニターに映っている二人にあるのだろう。
 必死な形相で悲鳴を上げているマーカスを笑顔で引っ張っているリタの姿は、気づけばダンジョンの最初の部屋を通り過ぎようとしていた。

「・・・見た、ダミアン?」
「お主が何について言っておるのかは、判然とせんが・・・まぁ、間違いなく見ざるをえんじゃろうなぁ」

 重苦しい沈黙を破って、ようやく口を開いたヴェロニカはしかし、それでも言葉を選びきれなかったようにそれを濁してダミアンへと問い掛けていた。
 ヴェロニカから問い掛けられたダミアンもまた、どこか奥歯にものが挟まったような物言いで、それをはっきりと口にするのを躊躇っているようだった。

「あれが勇者なの?まだ子供じゃない。いえ、それについては事前に集めた情報で知っていたけれど・・・」
「そうさな。あれの年齢は知っていても、勇者と聞けばもっとこうなんというか・・・しっかりとしたというか、殺伐としたものを思い浮かべていたが・・・」

 モニターに映ったリタとマーカスの姿は、勇者とそのお付というよりも、遊びに来た親戚の子供とそれに付き合ってあげているお兄さんといった様相であった。
 その遊び場がダンジョンという事実だけが、彼女達が勇者一行であると示している。
 そんなイメージと違う彼女達の姿に呆気に取られてしまっているヴェロニカは、まだ現実が受け入れきれないように、モニターに映るその姿を凝視していた。
 ヴェロニカが独り言のように呟いた言葉に同意を示したダミアンもまた、モニターに映る彼女らの姿が思い浮かべたいたそれとは違うと、どこか戸惑った様子を見せている。

「で、でもそうね!あんな振る舞いをみせていても、腕前は一流なのかも!えぇ、そうよ!そうに決まっているわ!」

 リタの振る舞いに勇者というイメージを破壊されてしまったヴェロニカは、その実力に一縷の希望を抱く。
 年相応の少女らしい振る舞いばかりを見せ付ける彼女も、きっとその実力だけは本物なのであろうと、ヴェロニカは考えていた。
 人類の決戦兵器とも言える勇者に、必要とされるのは第一にその実力であろう。
 であれば、人格面など些細な問題の筈。
 今だに笑い声を上げながら、楽しそうにマーカスの事を引き摺っているリタの姿から目を逸らしながら、ヴェロニカはそう思い込むことにしたようだった。

「ふむ、確かにそうした面はあるかもしれんの。勇者とは魔を断つ剣とも言える。それに必要とされるのは人格よりも、まずはその実力じゃろうて。ほれ、ちょうど次の部屋へと辿りつく頃合じゃろう。試しにそこで、適当な魔物を嗾けてみるとえぇ」

 そんなヴェロニカの妄言とも言える発言に、ダミアンまで同意したのは彼も混乱してしまっているからだろうか。
 それは恐らく違う。
 彼はそんな事よりも、一刻も早く勇者の実力を知りたいと欲しただけであろう。
 ダミアンが口にしたように、リタ達は丁度最初の部屋を通り過ぎる所であり、直に次の部屋へと辿りつくだろう。
 その部屋は、元々魔物が配置されている部屋だ。
 そこならば、勇者の実力を垣間見るのに打って付けといえた。

「そうね、そうしてみましょう。あぁでも、魔物を変更すべきかしら?あそこに配置しているのは、確か普通のゴブリンだった筈だけど」

 次の部屋に控える魔物を嗾けて勇者の実力を測ろうというダミアンの提案には、ヴェロニカも反対する理由はない。
 しかしその部屋に配置された魔物は、まだダンジョンの始めという事もあって弱い者でしかない。
 部屋に配置される魔物は、部屋によっては何パターンかいるが、その部屋はまず訪れる者がダンジョンに挑むに足りるかどうか測るという狙いもあって、ゴブリンで固定されていた。
 しかもそのゴブリンは、かつてこのダンジョンに挑んだ少年達の名残で、装備を木の棒へと変更した、まさに最弱といってもいい魔物であった。

「そのままで、構わないのではないか?弱い魔物といっても、その戦い方によって技量は測れよう。それにほれ、もうそんな時間もなさそうじゃぞ」
「えっ・・・?」

 魔物の変更を迷うヴェロニカに、ダミアンはそのままでもいいのではないかと言ってのける。
 確かに彼の言う通りどんなに相手が弱くとも、戦いさえすれば勇者の実力の一端は覗けるだろう。
 勇者が彼らの思うとおりの者であるならば、その太刀筋は一目で分かるほどに鮮やかなものである筈なのだから。
 そう語るダミアンは、それ以上にもはや手遅れであるとモニターを指し示している。
 そこには部屋と部屋とを繋ぐ通路を駆け抜け、次の部屋へと飛び込んでいくリタとマーカスの姿が映っていた。

「これは・・・流石に間に合いそうにないわね。では、お手並み拝見といきましょうか」
「それがええじゃろうて。どれどれ・・・今代の勇者とは、一体どれほどのものかのぅ」

 ヴェロニカの素早い操作速度を持ってしても、今からでは配置された魔物の変更など叶わないだろう。
 彼女は操作端末へと伸ばした指を止めると、短く嘆息を漏らす。
 諦めを口にした彼女は勇者の映っているモニターを中央に配置しなおすと、そちらへと視線を向ける。
 その隣には、彼女と同じようにモニターへと視線を向けるダミアンが、リラックスした姿勢でそれを見上げていた。

「ほれ、ゴブリン共が突っ込んでいったぞ」

 魔物が配置された部屋へと飛び込んでいったリタは、そこに魔物の気配があると感じると、すぐさま引き摺っていたマーカスを放り出していた。
 余りの痛みのためか、途中からまともに走ることも出来ずに引き摺られるままとなっていたマーカスは、突然放された手に勢いのまま転がっていってしまう。
 その勢いは強く、戦闘体制に入りその場に踏み止まったリタを追い抜いては、ゴブリン達の前まで転がっていく。
 そんな無防備な存在を、ゴブリン達が見逃す筈もないだろう。
 その部屋に配置された二体のゴブリンは、金切り声のような耳障りな叫び声を上げながら、地面へと伸びているマーカスへと飛び掛っていっていた。

「あら?これは不味いのではないかしら?」

 二体のゴブリンはそれぞれにその得物を振りかぶり、無防備なマーカスへと迫る。
 その足は、意外なほどに速い。
 それは元々小柄で身軽なゴブリンという種族という事もあるが、その貧弱な装備も関係あるだろう。
 粗末な布を局部に纏っただけの服装と、木の棒の手に持つだけのゴブリンは、その身体に負荷となるものを纏っていない。
 そのため、その速度は彼らにとっての最速に近かった。

「しっ!目を放すのではないぞ、ヴェロニカ。奴が動くぞい」 

 しかしそれよりも、聖剣アストライアを手にするリタ・エインズリーは速い。
 鞘から引き抜かれ眩い光を放ったそれに、果たしてマーカスへと襲い掛かろうとしたゴブリン達は、目を奪われてしまったのだろうか。
 いいや、それは有り得ない。
 何故なら彼らはそれを目にする前に、リタによって切り裂かれてしまっていたのだから。
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