ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

そうしてボクは産声を上げる 2

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『やっと二人っきりになれたわね。女だけでゆっくりお話しましょう・・・私の勇者様』

 えっほえっほと、賑やかな掛け声を上げながらセッキを運んでいくトロール達は、今や通路の向こう側へと消えていく所だ。
 最初から最後まで騒がしかった彼らが去った後の部屋は、ひっそりとした静けさに包まれている。
 そんな静けさの中、ヴェロニカは抱えたままの少女、リタの顎へと手を伸ばすとそれを上へと向けさせる。
 そうして彼女は、口づけをするようにリタの顔を覗きこんでいた。

「・・・っ、ぁぁ・・・」
『あらあら、何を話しているのかしら?ごめんなさいね、よく聞こえないの』

 口づけを交わすような距離でリタへと言葉を囁いたヴェロニカは、その細い指先を彼女の喉へと這わせている。
 そうして彼女はそれにゆっくりと力を込めると、リタの首を絞め始めていたのだった。

『ふふふ・・・貴方の力なら、私なんて軽く振り払えるでしょうに。哀れね、敗れた者の姿というのは』

 裂けるようにその唇を歪めたヴェロニカは、恍惚濡れる声をその間から漏らしている。
 彼女が語るように、その華奢な腕の力ではリタの抵抗を押さえて、拘束し続けることなど不可能だろう。
 しかしセッキにボロボロになるまで痛めつけられ、死に瀕している彼女には、もはやそんな力はない。
 たとえ今、彼女が意識を取り戻してもヴェロニカを腕を振り払う力は残されていないだろう。
 ヴェロニカはそんな状況を楽しむようにゆっくりと、その指の力を強め続けていた。

『あら、健気ねぇ・・・ほら、見えるかしら。貴方の大切な相棒が、必死に光って呼び掛けているわよ?応えてあげるのが、勇者の務めではないのかしら?』

 リタがずっと前に手放してしまった聖剣アストライアが、その消えゆく命に反応しては激しく光り輝いている。
 それは、彼女の意識を呼び起こそうとする輝きだろう。
 しかしその眩さが彼女の目蓋を揺らすことはなく、それどころかただただヴェロニカの愉悦を深めるばかりであった。

『そこで見ていなさい、アストライア。貴方の主人が私の手で殺される所を』

 徐々に強まっていく力は、それを楽しむためにゆっくりと速度で締め付けている。
 しかしそれも、もはや限界に近いだろう。
 自然に漏れ出していた喘ぎ声も、既に途絶えて久しく、溢れ出す涎は泡立って粘り気を帯びている。
 それはその命がまさに消えようとしている、予兆そのものであった。

『勇者の魂は死後も回収されて、役目を果たすまで復活を繰り返すと聞くけど・・・本当かしら?ふふふ・・・でも、だーめ。貴方はここで死ぬのよ、勇者リタ・エインズリー』

 勇者は不死身の存在だと、その役目を果たすまで決して死ぬ事はないのだという噂は、よく耳にする。
 それは果たして、本当なのだろうか。
 しかしどうやら、ヴェロニカはそれを確かめる気はないようだった。
 ついにその息の根を止めようと腕に力を込めたヴェロニカは、リタへと唇を近づけるとそう囁いている。
 それが嘘ではないことは、彼女の周囲から沸き上がった膨大な闇の姿を目にすれば、一目で理解出来るだろう。

『あぁっ!!最っ高・・・!堪らないわ、今この手で人類の希望を踏み躙ったなんて・・・!!』

 窒息の最後に、ドラマチックな展開などない。
 リタの首の骨を折れるほどの力のないヴェロニカに、その最後は静かなものであった。
 それでもはっきりと脱力し、糸の切れた人形のように垂れ下がった手足に、その命は今はっきりと終わりを迎えていた。

『でも、ごめんなさいね・・・この後は少し、お行儀が悪いの』

 そう囁いたヴェロニカの下腹部の辺りに線が奔り、そこが二つに割れ開く。
 その先に待っていたのは、底なしの闇であった。
 そこから伸びた無数の腕は、質量の差を完全に無視してリタの身体を呑み込んでいく。

『あぁ・・・!!美味しい、なんて美味しいのかしら!!こんなに甘くて、蕩けそうな魂なんて初めて!!じゅるる、いけないいけない!涎なんて・・・うふふ。ごめんなさいね、お行儀が悪くて』

 リタを呑み込んでぽっこりと膨らんだ下腹部からは、彼女の身体を咀嚼するボリボリという生々しい音が響いていた。
 急激に萎んでいくその膨らみに、リタの消化はすこぶる順調のようだ。
 ヴェロニカはその魂の余りの美味しさについて歓喜の声を上げると、思わずダラダラと涎を垂らしてしまっている。
 彼女がその涎を拭った頃には、その下腹部はすっかり普段の姿を取り戻していた。

『ふふふ、美味しかったわよリタ。・・・けぷっ、あら私としたことが・・・はしたない』

 愛おしそうに自らの下腹部を撫でるヴェロニカは、慈愛に満ちた表情でそこに呑み込んだ少女の名前を呼んでいる。
 全身に巡る満足感に、思わず可愛らしいげっぷを漏らしてしまったヴェロニカは、それを手の平で隠すと、どこか恥ずかしそうに俯いてしまっていた。

『・・・ねぇ、別に隠れることはないのよ?私には貴方に危害を加える気はないの。だから堂々と出てきておいでなさいな』

 彼女以外、誰もいなくなった筈の部屋で、ヴェロニカはまるで誰に話し掛けように囁いている。
 しかしその囁きにびくりと反応した物音が、確かにこの部屋のどこかから聞こえたようだった。

『あの子が痛めつけられている間に、こっそりと自らを回復魔法で治療していたのでしょう?誰しも自らの命が一番大切ですもの、それを恥じる事なんてないのよ?』

 聞こえた物音に振り返ったヴェロニカが目にしたのは、先ほどトロールが地面へと投げ捨てた荷物、ボロボロの姿をした人間、マーカスの姿であった。
 その姿は衣服こそ到る所が破かれ、無事な部分が少ないような有様であったが、その実彼の身体自体は健康そのものに見えた。
 それは彼が長い時間を掛けて、自らの身体をじっくりと治療していたことを示している。
 そんな振る舞いを恥じるかのように身体をちぢ込めているマーカスの姿に、ヴェロニカは恥じる事はないのだと優しく笑いかけていた。
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