ダンジョン経営から始める魔王討伐のすゝめ 追放された転生ダンジョンマスターが影から行う人類救済

斑目 ごたく

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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

そうしてボクは産声を上げる 1

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 まるで壊れた玩具のように、四肢をバラバラに暴れさせて飛んでくる少女の勢いは強く、とてもではないが華奢な彼女の腕では受け止めきれないだろう。
 それならばその少女は、そのまま地面へと激突するに任せるしかないのだろうか。
 そんな訳にもいかないだろう。
 何故ならその少女には、まだ利用価値があるのだから。
 そうしてその華奢の女性、ヴェロニカはセッキによって殴り飛ばされたリタの向かう先へと立ち塞がると、その両手を広げていた。
 その瞬間に彼女の周辺から広がった、闇とした呼称しようのない影は、まるで無数の腕のように伸び上がり、リタの身体の勢いを殺していた。

『駄目じゃない、セッキ?この子は殺してしまわないように、言い付けてあったでしょう?』

 闇から伸びた腕によってまるで静止するように宙へと浮いたリタの身体は、ヴェロニカの腕の中へとゆっくりと降り立っている。
 彼女を抱きかかえたヴェロニカは、それを地面へと下ろすと、後ろから抱きかかえるような体勢へと移していた。
 それはヴェロニカの腕力では、小柄なリタすら抱きかかえるのは難しいという事だろうか。
 入れ替えた体勢にしっくり来るポジションを見つけたヴェロニカは、そんな事をわざわざ彼女がしなければならなくなった事について、セッキへと苦言を呈していた。 

『す、すまねぇ姐さん。そんなつもりはなかったんだけどよぉ・・・』

 致命傷に届かんばかりだった刃の痛みに、咄嗟に振るった拳は思わぬほどの威力を持って、その少女の身体を貫いていた。
 自らの命が掛かった状況だったとはいえ、ヴェロニカ達の計画に逆らい勇者を殺してしまいそうだったセッキは、頭をへこへこと上下させながらその事について謝罪する。
 しかしそんな言葉を述べながら、へらへらと誤魔化しの笑みを浮かべている彼の身体は、段々と傾いていっているようだった。

『おっ、っとと、こりゃ・・・あかんわ』

 知らず知らずの内に傾いていく身体に、何とかバランスを保とうとしたセッキはしかし、いつまでも落ち着かない足元にこれは駄目だと諦めると、バタンとその場に倒れ付してしまっていた。

『あ、兄貴ぃぃぃ!!?』
『あわ、あわわわわ!?どうすればいいど!?おで、どうすればいいど!!?』

 そんな彼の姿に誰よりも動揺していたのは、部屋の隅に固まってヴェロニカ達の様子を窺っていたトロール達であった。
 彼らは圧倒的強者であり、無敵の存在にも思えたセッキのそんな姿に激しく動揺し、慌てふためいてはその場でドスドスと暴れ始めている。

『まったく・・・久々の戦いだからといって、はしゃぎ過ぎたわね。だからあれほど、注意するようにいったのに・・・』

 先ほどの戦いで勇者が見せた力は、彼女が最初に見立てたそれを大きく上回るものであった。
 しかしそれでも、その実力はセッキの足元にも及ばなかった筈である。
 そうであるにも拘らず、彼がこのような状態に陥っているのは、ひとえに彼が勇者との戦いを楽しみ過ぎたからであった。
 そんな彼の醜態に溜め息を漏らしたヴェロニカは、トロール達の方へと視線を向ける。
 そこには今だドタドタと、なにやら騒いでいるトロール達の姿があった。

『貴方達、治癒のポーションはまだあるかしら?それでセッキの手当てをしたら、彼を治療室に運びなさい。出来るわね?』
『わ、分かったで!で、でもよぉ・・・』
『ちりょうしつって、なんだで?』

 ヴェロニカはセッキの治療を、そのトロールの二人に任せようとしていた。
 彼らに与えている治癒のポーションと、このダンジョンに設けられている治療室の力があれば、セッキの傷も問題なく癒えるだろう。
 そう考えたヴェロニカの指示はしかし、その言葉の意味が分からないと首を捻っているトロール達の姿に、早速頓挫してしまいそうになっていた。

『あぁ、そうなの。えっと、そうね・・・その貴方達?ポカポカしている部屋に憶えはないかしら?入ったら暖かい感じがする部屋があるのだけど・・・セッキと訓練、というか殴り合いをした後とかに、つれられて行った場所があるでしょう?そこに運んで欲しいのよ』

 ヴェロニカが話している内容が全く分からないという反応を見せるトロール達に、彼女は軽く頭を抱えると出来る噛み砕いてその場所について説明している。
 その内容は少し感覚的過ぎる表現が多くなっていたが、どうやらそのトロール達にはそちらの方が分かりやすかったようで、頷くように何度もその顔を上下させていた。

『あぁ!あのポカポカの所かぁ!よっく、つれてってもらったで!』
『気持ちええんだでなぁ・・・』

 ヴェロニカの説明にようやくその場所の事を思いだしたのか、口々にそこに対する感想を述べるトロール達は、うっとりとその顔を緩ませている。
 セッキのストレス解消のために、日常的に彼から小突き回されている彼らからすれば、その場所はまさにオアシスと呼べる場所なのだろう。
 幸せそうにその顔を緩ませている彼らは忘れてしまっているのだろう、何のためにヴェロニカがそれを思い出させたのかを。

『・・・ねぇ、貴方達?思い出したなら、さっさと動いてくれないかしら?私の大切な同僚がそこで、死に掛けているのだけど?』
『わ、分かったで!!今すぐ行くだで、姐さん!!!』
『そうだで!急ぐだで急ぐだで!!』

 冷ややかに、表情を歪めたヴェロニカの瞳は細く、それ以上にその唇から漏れる言葉は冷たい。
 そんな彼女の言葉を耳にすれば、お気楽なトロール達も流石に不味いと慌てだす。
 かなり切羽詰った様子で了承を叫び、駆け出していく彼らの足は、その種族の特性故かかなり遅い。
 しかし地面に横たわっては、寝息を漏らし始めているセッキの様子を見れば、それでも十分間に合う速度であった。

『あぁ、それは置いていっていいわよ』
『わ、分かったで!』

 彼らの内の一人が肩に担いでいた何かに気がついたヴェロニカは、ちょっとしたついでといった雰囲気でそれを置いてゆくように指示を出す。
 ドスンと地面に下ろされたそれは、舞い上がった土埃に詳細は窺えない。
 しかしヴェロニカはそれにはもはや興味はないとばかりに顔を背け、自らの腕の中で眠る少女へとその視線を向けていた。
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