新しい聖女が優秀なら、いらない聖女の私は消えて竜人と暮らします

天宮有

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第6話

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リアス視点

 シンシアが竜人と消えてから、数時間が経っている。
 玉座のある部屋には俺と聖女デーリカ、国王と宰相がいて、今後の話し合いをしている最中だ。

 父の国王と宰相が竜族について説明したが、俺は竜を今日まで目にしたことがない。
 調査をシンシアから頼まれても竜の存在を信じられず、父に聞いてみると「無視して構わない」と言われていた。

 竜は実在しているようで、父の国王は非力な子供の竜を捕らえようと人を雇っていたらしい。
 失敗しながらも攻撃が当たり鱗を入手することはでき、利益を得ていたようだ。

 竜について説明を聞き、俺は本心を話す。

「竜族が暮らしていたから、本来は人々を襲うモンスターの力が弱まっていたとは……信じられないな」

「大昔には何度も、竜族は人々の前に現れてモンスターを退治していたようです。力の差に恐怖したモンスターは、竜に気付かれないよう人々を襲うようになりました」

「それにより被害が減ったから、竜が姿を見せなくなったということか」

 宰相の説明を聞いても、俺は納得することができない。
 ラグード国は生まれた時から平和で、人々を襲うモンスターの被害が少なかったからだ。

 2年前にシンシアを聖女として城に迎え入れることで、ラグード国は更に平和となっている。
 平民が城で暮らすことは気に入らず、1年前に公爵令嬢のデーリカが聖なる魔法を使えることが判明した。

 デーリカの聖なる魔法は、シンシアに比べると遥かに弱い。
 それでも王家は貴族令嬢が新しい聖女となるべきと考え、半年前に入手した呪いの魔法道具を使うことにした。

 シンシアが消えたとしても、指輪で魔力を奪うからデーリカは活躍できる。
 それがわかっているから、デーリカには余裕があり宰相に言う。

「シンシアの居場所は指輪を経由してわかります。この指輪は、どれだけ距離が離れていても魔力を奪えると言ってましたよね!」

「はい。問題ありません……デーリカ様は、この地図を眺めて目を閉じ、どこにいるのか探りながら指を指してください」

 指輪の力でシンシアの居場所がわかるから、宰相は消えた後にシンシア達が暮らす場所を特定することにしていた。

 デーリカの指で示した場所がシンシアの現在地で、どうやらルジオ国の山地にいるらしい。
 居場所の特定には成功したが、国王は頭を抱えていた。

「よりによってルジオ国か……あの国なら、竜族が問題なく暮らせそうだ」

「竜族が新しい生活に苦しみ、ここへ戻ってくることはなさそうですね。今はシンシア様の魔力が奪えるので、問題はありません」

 竜がいなくなったとしても、こちらにはシンシアの魔力を奪える聖女デーリカがいる。
 これからモンスターの動きに変化があったとしても、聖女がいる時点で対処できると宰相は考えているようだ。

「……えっ?」

 宰相の発言に安堵していると、デーリカが困惑した声を出す。
 その発言に不安となってしまい、俺は尋ねることにした。

「デーリカ、何かあったのか?」

「それが……どうやら、シンシアの着けた指輪が壊されたみたいです!」

「なんだと!? なにが起きた!?」

「わかりません! 魔力が回復しなくなっていますし、居場所かわからなくなりました!!」

 デーリカの叫び声を聞き、国王と宰相が驚愕する。
 どんな手段を使ったのか不明だが、シンシアは魔法道具の指輪を破壊したようだ。
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