新しい聖女が優秀なら、いらない聖女の私は消えて竜人と暮らします

天宮有

文字の大きさ
5 / 14

第5話

しおりを挟む
 ルジオ国に到着して、竜達は山地で暮らすことになっている。
 その山地には豪華な屋敷があり、私はそこで住めるようだ。

 ルジオ国で暮らすと決めたのは数ヶ月前なのに、何もない場所に屋敷を建てたらしい。
 魔法技術が高い国と聞いていた通りで、私は人の姿になったヨハンと一緒に屋敷の中を歩いていた。

 竜が人の姿になるのは努力しないと難しいようで、ヨハンを含めて数人しか人の姿になれないと聞いている。
 そのためヨハンが山地で暮らす竜達の紹介をしてくれて、挨拶することができた。
 これから人々を襲うモンスターを竜族が倒すことで、モンスターが恐怖して被害が減るようだ。

 屋敷に入れない竜達の紹介をヨハンにしてもらうと時間が経ち、屋敷に1人の青年がやって来る。
 賢者と呼ばれている人のようで、私の外れない指輪の効力を見ただけで知ることができるようだ。

 応接室で私とヨハンがソファに並んで座り、賢者と対面する。
 私は初対面だけど、ヨハンは何度か会ったことがあるようだ。

「彼が賢者ハワードで、鑑定魔法を使いシンシアの指輪の効力を把握できるらしい」

「私はシンシアです。よろしくお願いします」

「ハワードです。ヨハン様が話していた指輪がこれですね……推測していた通り、魔力を奪う魔法道具です」

 ハワードと呼ばれた人の両眼が一瞬光ると、私の右手に着けていた指輪について話してくれる。
 魔力を奪う魔法道具と、ヨハンの推測通りだった。

「指輪を着けた時点で、指輪の主と契約しています。話を聞くに聖女デーリカが指輪の主で間違いありません」

「そうか……私なら壊せるが、壊して大丈夫なのか?」

「この指輪は壊して問題ありません。呪いの指輪には壊すと装着者の命を奪う物もありましたので、見ておく必要がありました」

 最悪の事態を想定して、ヨハンは今まで私の外せない指輪を壊せなかった。
 私とヨハンが安堵していると、賢者ハワードが更に説明してくれる。

「問題があるとすれば、壊したことを知られるぐらいです」

「知られても問題ない。他にわかったことはないか?」

「そうですね……壊すまで位置を知られているので、今後ラグード国の使者がルジオ国にやって来るかもしれません」

 指輪を着けている人の位置がわかるのなら、逃げた場合のことも想定していたのでしょう。

 これから別の場所に向かって指輪を壊せば、ラグード国を混乱させることができるかもしれない。
 それでもルジオ国の山地に長時間いるから、最初に向かうとしたらここになりそうだ。

「その時は追い払うまでだ。何かするのであれば容赦しない」

「ルジオ国も協力します。なにかあればすぐ私を呼んでください」

「ハワード様、ありがとうございます……ヨハン、指輪を壊してください」

「わかった。元婚約者の指輪など、二度と見たくないから粉々にしてみせよう」

 ヨハンはやる気に満ちていて、私が着けている指輪に触れる。
 魔力を込めたのが伝わり、指輪が砕けて楽になった。

「着けている間はずっと魔力を奪われ続けていたみたいです。ようやく楽になりました」

「今頃デーリカは指輪が壊されたことを知っていますが、シンシア様が気にすることは何もありません」

 これで私は魔力が減ることがなくなり、デーリカは自分の魔力しか使えない。
 更に竜族がいないからモンスターが凶暴化するようで、ラグード国は大変な目に合いそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

望まない相手と一緒にいたくありませんので

毬禾
恋愛
どのような理由を付けられようとも私の心は変わらない。 一緒にいようが私の気持ちを変えることはできない。 私が一緒にいたいのはあなたではないのだから。

こんな婚約者は貴女にあげる

如月圭
恋愛
アルカは十八才のローゼン伯爵家の長女として、この世に生を受ける。婚約者のステファン様は自分には興味がないらしい。妹のアメリアには、興味があるようだ。双子のはずなのにどうしてこんなに差があるのか、誰か教えて欲しい……。 初めての投稿なので温かい目で見てくださると幸いです。

【本編完結】真実の愛を見つけた? では、婚約を破棄させていただきます

ハリネズミ
恋愛
「王妃は国の母です。私情に流されず、民を導かねばなりません」 「決して感情を表に出してはいけません。常に冷静で、威厳を保つのです」  シャーロット公爵家の令嬢カトリーヌは、 王太子アイクの婚約者として、幼少期から厳しい王妃教育を受けてきた。 全ては幸せな未来と、民の為―――そう自分に言い聞かせて、縛られた生活にも耐えてきた。  しかし、ある夜、アイクの突然の要求で全てが崩壊する。彼は、平民出身のメイドマーサであるを正妃にしたいと言い放った。王太子の身勝手な要求にカトリーヌは絶句する。  アイクも、マーサも、カトリーヌですらまだ知らない。この婚約の破談が、後に国を揺るがすことも、王太子がこれからどんな悲惨な運命なを辿るのかも―――

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を

柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。 みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。 虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

聖女に巻き込まれた、愛されなかった彼女の話

下菊みこと
恋愛
転生聖女に嵌められた現地主人公が幸せになるだけ。 主人公は誰にも愛されなかった。そんな彼女が幸せになるためには過去彼女を愛さなかった人々への制裁が必要なのである。 小説家になろう様でも投稿しています。

義妹が聖女を引き継ぎましたが無理だと思います

成行任世
恋愛
稀少な聖属性を持つ義妹が聖女の役も婚約者も引き継ぐ(奪う)というので聖女の祈りを義妹に託したら王都が壊滅の危機だそうですが、私はもう聖女ではないので知りません。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

処理中です...