堅物辺境伯の溺愛〜虐げられた王宮奴隷は逃げ出した先で愛を知る〜

咲木乃律

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挿話

ルカのいる毎日は

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 ルカの年齢を聞いて、その後のリサがどうなったかといえば。

「急に変えられるものでもないわよね。私にとっては十八でも子供よ」

 リサはそう開き直った。リサはルカを十二三才だと思っていたらしい。ユリウスはそこまで幼いとは思っていなかったが、しかしリサの言うように、何歳であろうとあまり変わりはないのも確かだ。カレルやアントン、それにボブに至っても、(当人達がルカを何歳だと思っていたのかは知らないが)、十八であろうとさほど変わりはないという認識だ。
 ただ、ノルデンだけは医師の見地から十八と聞いて、ますますルカの体が未発達であることが気になったらしい。最近はよく医術書とにらめっこをしている。

 リサは、仕事の合間をぬってはルカの部屋を訪れ、色々なことを教えているようだ。
 食事の所作がきれいになった。常識的なことを知らないことが多かったルカだが、ここへ来てひと月あまり。まだまだ細いが、体つきもだいぶふっくらとし、落ち着いた。何事にも警戒心があり、物音一つにも敏感だったが、あまりものに動じなくなった。今なら十八と聞いても、何ら違和感はない。
 
 屋敷にルカが一人加わっただけで、屋敷内は華やかになった。リサはルカの為に淡い色のワンピースを繕っているし、ノルデンは白衣を脱いだ代わりに衣服に気を遣うようになった。
 カレルの蝶ネクタイも黒ばかりだったが、たまたまシルバーのものをしている時にルカがかわいいと言ったとか言わないとか。黒以外のものを付けることが多くなった。
 ボブは相変わらずだが、アントンは明らかに甘い菓子をよく作るようになった。最近は厨房から甘い香りがよくしている。

 それにユリウスは―――。

「おかえりなさい、ユリウス」

 屋敷の玄関を入ると、ルカが駆けてくる。傷がよくなったルカは、こうしていつもユリウスの帰りを玄関で待つようになった。何もなかった玄関ホールには、ルカのためにベンチが置かれるようになった。
 玄関ホールでユリウスの帰りを待つルカのために、カレルが用意したものだ。ここでルカは屋敷に所蔵してある書物を読みながらユリウスの帰りを待っている。
 あまりものを知らないルカが、字を読めるというのは驚きだった。ルカによると、先生が教えてくれたらしい。教師がついていたというのも驚きだ。希少種の多くは文字の読み書きができない。そうすることで希少種が知識を蓄えることを遮り、知恵をつけないように操作しているのだ。

 それにしても。

「出迎えてくれる者がいるというのも、いいものだな」

 ユリウスは鮮やかな水色のワンピースを着たルカの姿に目を細めた。襟元にレースをあしらったもので、殺風景な屋敷内が華やいで見える。
 横でカレルがこほんと咳払いした。

「私も毎日ユリウス様をお出迎えいたしておりまするが」

 苦言を呈され、ユリウスは苦笑した。確かにカレルは毎日ユリウスが屋敷を出るのを見送り、出迎えてくれる。
 しかしカレルとルカでは華やぎが違う。
 そうは思ったが、口が裂けても言うまい。

「そうだったな」

 カレルの言う通りだと頷くと、カレルは「わかっていただけているようで安心いたしました」と一礼し、お食事にいたしましょうとユリウスとルカを食堂へ誘った。

 食堂ではアントンが待ち構えており、ユリウスとルカが入っていくとすぐに皿の上に料理が盛られた。ルカは「いただきます」と言うとフォークとナイフを手に取り、上手く料理を切り分けて口に運ぶ。短期間でずいぶん上手くなったものだ。リサがルカのすぐ後ろに控えて、毎日少しずつ教えているおかげだ。
 ルカも素直にリサの言うことを聞くので上達も早い。わからないことがあれば、すぐに問いかけるその素直さも一役買っているのだろう。

 ここに来た頃のように食事が終わってもルカが居眠ることはなくなった。まだ少しやり残した仕事があったユリウスが執務室へ移動すると、ルカが後をついてくる。
 ユリウスが机に向かうのを見て、ルカはその前に置かれた椅子に腰掛けると本を開いた。別段、何か話すわけでもないが、ルカはユリウスが屋敷にいる間は同じ空間に居たがる。
 そんなルカのため、カレルはユリウスの過ごす場所のあちこちに椅子を用意した。ぱらりとルカが本のページをくる。書類から目を上げれば、真剣な様子で文字を追うルカのつむじが目に入る。ルカの髪はこのひと月でだいぶ伸びた。明かりを受けて艶々と黒髪が輝いている。思わず手を伸ばしてその髪に触れると、ルカがゆっくりとこちらを見上げた。

「どうしたの?」

 こてんと首を傾げる。

「いや、何でもない」

 ユリウスはさらりとした手触りを楽しんで、髪から手を離した。

「変なユリウス」

 ルカはそう言いながらもそのまま視線を本へと戻し、また文字を追い出した。

 その姿を見つめ、ユリウスもまた手元の書類へと視線を落とした。同じ空間に居たいと思うのは、何もルカだけではない。
 ユリウスにとっても、こうして過ごす毎日がかけがえのない時間であり、心安らぐひと時となりつつある。
 穏やかな時間がゆっくりと二人の間を過ぎていった。
 


 
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