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第10話:休日に散歩
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土曜日。
今日は休日だ。
しかし、いつもように午前四時頃には起きてしまう。
早期覚醒だな。
あれ、隣にすごい美少女がいる。
って、一乗寺君か。
ちょっとじっくりと顔を見る。
やっぱりどっから見ても美人だね。
男だけど。
しかし、昨日は、つい同情してこの家に居ていいと言ってしまったけど、実際のところ、いいんかいな。
でも、追い出すのはかわいそうだよなあ、やっぱり。
とは言うものの、いつまでも二人で同じベッドで眠るってわけにはいかないよなあ。
相手が女性ならまだしも。
いや、女性でもつらい時があるんだよなあ。
仕事で疲れて、一人でゆっくりと眠りたい時もあるんだな。
安い折りたたみ式の簡易ベッドでも買おうかなあ。
そこで、一乗寺君には寝てもらうと。
でも、一乗寺君、一人では眠れないとかって言ってたなあ。
寂しがり屋なのかね。
愛情に飢えてるのかなあ。
なんてことを考えていたら、一乗寺君が目を覚ます。
「……あ、おはようございます、山本さん」
「ああ、おはよう」
「朝食つくりますね」
「ありがとう。でも、今日はそんなに急がなくてもいいんじゃないの。君も今日は休みだろ」
「そうですね。でも、あまりいつものペースと変えるのはよくないと思いますので」
一乗寺君はさっさと起きて着替えると台所に行く。
朝食は、久々のパン。目玉焼きにハムチーズオムレツにトマト。
普段は朝食抜きか缶コーヒーか栄養ドリンク一本で済ますこともあったので、これは豪勢だな。
そして、一乗寺君に謝られる。
「あの、昨夜は泣き出したり抱き着いたりと申し訳ありませんでした……鬱陶しかったですよね……」
「いやあ、そんなことないよ」
「それで、あの、昨夜の話はウソじゃないですから。信じてください……」
「ああ、信じるよ。それに、とりあえず、一緒に住んでいてもいいよ」
「ありがとうございます」
すっかり機嫌がよくなった一乗寺君。
俺もついカッコつけて一緒に住んでいいと言ってしまった。
まあ、いずれは一乗寺君も新たに彼氏を見つけて、その人と一緒に暮らして幸せになればいいんじゃないかな。その世界の人には、すごい美人さんだろうから。
「休日って何をされてるんですか、山本さんは」
「そうだね。ちょっとコンビニ行く以外は寝てばかりだね。もう、テレビもあまり見ないなあ。パソコンでYOUTUBE動画とかをちょっと見たりするくらいかな」
「そうですか……仕事がキツいんですか」
「そうなんだよなあ。だから精神科クリニックに通うことになってしまったんだよ。で、その結果、EDだよ。やれやれだね」
「でも、家にほとんどずっと居るって体によくないと思いますけど」
「まあ、わかっているけどねえ……そう言えば、君は例の佐島に監視されてた時はどうしてたの」
「あの、普段は暴力的なんですけど、たまに優しくなっていろんな場所に連れて行ってもらったことがあります。まあ、佐島本人が行きたい場所だけですけど」
普段は暴力を振るうが、突然、優しくなるってヤクザがよく使うパターンだよなあ。
それで、相手を飼いならすって方法。
佐島は暴力団員じゃなかったみたいだが。
「うーん、そうだね。じゃあ、たまには外に出るかな」
「どうせなら、スーパーマーケットに食材を買いに行くついでに一緒に散歩しませんか」
「ああ、いいよ」
「では、どんな格好にいたしましょうか、ご主人様」
「はあ?」
また、一乗寺君が顔を赤くする。
「すみません。男の娘喫茶の仕事のセリフが出てしまいました。お食事デートに行く時は、お客さんの好みの格好で行くんです」
「そうだなあ。普通にTシャツにズボンでいいんじゃない」
「わかりました」
そんなわけで、午前中は一乗寺君と散歩に行くことになった。
何年ぶりだろうか、休日に散歩なんて。
もう、夏も終わっているが、今日はちょっと暑いかな。
でも、まだ朝なんで爽やかな気分になるな。
気分がいいぞ。
一乗寺君は例の黒いTシャツに灰色のズボン姿だ。
ぶらぶらとスーパーまで歩く。
一乗寺君がスマホで調べて、ちょっと遠いが、本日は激安とか宣伝しているスーパーを目指す。
自前の布製の買い物袋も用意。
節約好きの主婦みたいだな、この子。
「そう言えば、最初にあった時、君は金髪のウィッグって言うの、それを被って、目も青いコンタクトレンズを付けてたねえ。そういうのが好きなの」
「いえ、佐島の趣味ですね。僕はあんまり好きじゃないです」
「髪形は、今のショートボブスタイルが好きなのか」
「そうですね」
まあ、この子ならどんな髪形でも似合いそうだがなあ。
でも、このショートヘアが一番似合うんじゃないかな。
俺、ショートヘアの女の子って好きなんだよなあ。
おっと、相手は女の子じゃなくて、男の娘だっけ。
まあ、何百回も言うけど、EDだからどうでもいいか。
俺の隣を歩く男の娘の一乗寺君。
なんかニコニコ顔だ。
「機嫌よさそうだね」
「はい、いつもは佐島の連中に見張られてる感じだったんで、自由な気分です。それに山本さんって、やさしい感じがして落ち着くんです」
俺って、やさしい感じがするのかね。
自分ではしょぼくれた感じってするけど。
「例の清水さんとはどうだったの」
「うーん、何て言いますか、すごく体の大きい人だったんで、威圧感がありました。性格はいい人なんですけどねえ」
「民事裁判の方は、まだはっきりしないんだよな」
「そうなんです。心配です」
ちょっと、うつむく一乗寺君。
「でも、どう考えても、佐島が悪いんじゃないの。君を奴隷みたいに扱ってたんだろ。そして、他人にも因縁つけるし。俺も殴られるしさあ」
「あ、そう言えば、もしかしたら山本さんにも証言してもらわなくてはいけなくなるかもしれないです……」
「え、そうなの」
「佐島がろくでもない人物ってことを証明してくれる人ですから。いきなり殴られたり……でも、お仕事の邪魔になりますでしょうか」
裁判って、平日に出廷とかしなくてはいけないのだろうか。
けど、いいや。EDだし。いや、EDは関係ないか。
「うーん、でも、俺もあの佐島って野郎は気に食わないから、まあ、有給休暇でも取って協力するよ」
「ありがとうございます」
礼儀正しく頭を下げる一乗寺君。
この子の礼儀正しさは生まれつきかなあ。
かなりひどい家庭環境だったと思うし、その後も例の空手家の清水さんはともかく、佐島にはひどい目に遭うし。
「でも、山本さんって本当にやさしいですね」
また、一乗寺君がニコニコ顔で俺を見る。
やさしいかなあ。
まあ、他人にひどいことをしたことはないけどなあ。
精神薬を飲んでいるんで、落ち着いているってこともあるかな。
感情の起伏が少なくなるんだよな。
あと、しつこいようだが、EDだけどな。
今日は休日だ。
しかし、いつもように午前四時頃には起きてしまう。
早期覚醒だな。
あれ、隣にすごい美少女がいる。
って、一乗寺君か。
ちょっとじっくりと顔を見る。
やっぱりどっから見ても美人だね。
男だけど。
しかし、昨日は、つい同情してこの家に居ていいと言ってしまったけど、実際のところ、いいんかいな。
でも、追い出すのはかわいそうだよなあ、やっぱり。
とは言うものの、いつまでも二人で同じベッドで眠るってわけにはいかないよなあ。
相手が女性ならまだしも。
いや、女性でもつらい時があるんだよなあ。
仕事で疲れて、一人でゆっくりと眠りたい時もあるんだな。
安い折りたたみ式の簡易ベッドでも買おうかなあ。
そこで、一乗寺君には寝てもらうと。
でも、一乗寺君、一人では眠れないとかって言ってたなあ。
寂しがり屋なのかね。
愛情に飢えてるのかなあ。
なんてことを考えていたら、一乗寺君が目を覚ます。
「……あ、おはようございます、山本さん」
「ああ、おはよう」
「朝食つくりますね」
「ありがとう。でも、今日はそんなに急がなくてもいいんじゃないの。君も今日は休みだろ」
「そうですね。でも、あまりいつものペースと変えるのはよくないと思いますので」
一乗寺君はさっさと起きて着替えると台所に行く。
朝食は、久々のパン。目玉焼きにハムチーズオムレツにトマト。
普段は朝食抜きか缶コーヒーか栄養ドリンク一本で済ますこともあったので、これは豪勢だな。
そして、一乗寺君に謝られる。
「あの、昨夜は泣き出したり抱き着いたりと申し訳ありませんでした……鬱陶しかったですよね……」
「いやあ、そんなことないよ」
「それで、あの、昨夜の話はウソじゃないですから。信じてください……」
「ああ、信じるよ。それに、とりあえず、一緒に住んでいてもいいよ」
「ありがとうございます」
すっかり機嫌がよくなった一乗寺君。
俺もついカッコつけて一緒に住んでいいと言ってしまった。
まあ、いずれは一乗寺君も新たに彼氏を見つけて、その人と一緒に暮らして幸せになればいいんじゃないかな。その世界の人には、すごい美人さんだろうから。
「休日って何をされてるんですか、山本さんは」
「そうだね。ちょっとコンビニ行く以外は寝てばかりだね。もう、テレビもあまり見ないなあ。パソコンでYOUTUBE動画とかをちょっと見たりするくらいかな」
「そうですか……仕事がキツいんですか」
「そうなんだよなあ。だから精神科クリニックに通うことになってしまったんだよ。で、その結果、EDだよ。やれやれだね」
「でも、家にほとんどずっと居るって体によくないと思いますけど」
「まあ、わかっているけどねえ……そう言えば、君は例の佐島に監視されてた時はどうしてたの」
「あの、普段は暴力的なんですけど、たまに優しくなっていろんな場所に連れて行ってもらったことがあります。まあ、佐島本人が行きたい場所だけですけど」
普段は暴力を振るうが、突然、優しくなるってヤクザがよく使うパターンだよなあ。
それで、相手を飼いならすって方法。
佐島は暴力団員じゃなかったみたいだが。
「うーん、そうだね。じゃあ、たまには外に出るかな」
「どうせなら、スーパーマーケットに食材を買いに行くついでに一緒に散歩しませんか」
「ああ、いいよ」
「では、どんな格好にいたしましょうか、ご主人様」
「はあ?」
また、一乗寺君が顔を赤くする。
「すみません。男の娘喫茶の仕事のセリフが出てしまいました。お食事デートに行く時は、お客さんの好みの格好で行くんです」
「そうだなあ。普通にTシャツにズボンでいいんじゃない」
「わかりました」
そんなわけで、午前中は一乗寺君と散歩に行くことになった。
何年ぶりだろうか、休日に散歩なんて。
もう、夏も終わっているが、今日はちょっと暑いかな。
でも、まだ朝なんで爽やかな気分になるな。
気分がいいぞ。
一乗寺君は例の黒いTシャツに灰色のズボン姿だ。
ぶらぶらとスーパーまで歩く。
一乗寺君がスマホで調べて、ちょっと遠いが、本日は激安とか宣伝しているスーパーを目指す。
自前の布製の買い物袋も用意。
節約好きの主婦みたいだな、この子。
「そう言えば、最初にあった時、君は金髪のウィッグって言うの、それを被って、目も青いコンタクトレンズを付けてたねえ。そういうのが好きなの」
「いえ、佐島の趣味ですね。僕はあんまり好きじゃないです」
「髪形は、今のショートボブスタイルが好きなのか」
「そうですね」
まあ、この子ならどんな髪形でも似合いそうだがなあ。
でも、このショートヘアが一番似合うんじゃないかな。
俺、ショートヘアの女の子って好きなんだよなあ。
おっと、相手は女の子じゃなくて、男の娘だっけ。
まあ、何百回も言うけど、EDだからどうでもいいか。
俺の隣を歩く男の娘の一乗寺君。
なんかニコニコ顔だ。
「機嫌よさそうだね」
「はい、いつもは佐島の連中に見張られてる感じだったんで、自由な気分です。それに山本さんって、やさしい感じがして落ち着くんです」
俺って、やさしい感じがするのかね。
自分ではしょぼくれた感じってするけど。
「例の清水さんとはどうだったの」
「うーん、何て言いますか、すごく体の大きい人だったんで、威圧感がありました。性格はいい人なんですけどねえ」
「民事裁判の方は、まだはっきりしないんだよな」
「そうなんです。心配です」
ちょっと、うつむく一乗寺君。
「でも、どう考えても、佐島が悪いんじゃないの。君を奴隷みたいに扱ってたんだろ。そして、他人にも因縁つけるし。俺も殴られるしさあ」
「あ、そう言えば、もしかしたら山本さんにも証言してもらわなくてはいけなくなるかもしれないです……」
「え、そうなの」
「佐島がろくでもない人物ってことを証明してくれる人ですから。いきなり殴られたり……でも、お仕事の邪魔になりますでしょうか」
裁判って、平日に出廷とかしなくてはいけないのだろうか。
けど、いいや。EDだし。いや、EDは関係ないか。
「うーん、でも、俺もあの佐島って野郎は気に食わないから、まあ、有給休暇でも取って協力するよ」
「ありがとうございます」
礼儀正しく頭を下げる一乗寺君。
この子の礼儀正しさは生まれつきかなあ。
かなりひどい家庭環境だったと思うし、その後も例の空手家の清水さんはともかく、佐島にはひどい目に遭うし。
「でも、山本さんって本当にやさしいですね」
また、一乗寺君がニコニコ顔で俺を見る。
やさしいかなあ。
まあ、他人にひどいことをしたことはないけどなあ。
精神薬を飲んでいるんで、落ち着いているってこともあるかな。
感情の起伏が少なくなるんだよな。
あと、しつこいようだが、EDだけどな。
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