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第11話:公園の滝を見に行く
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一緒に歩きながらニコニコ顔の一乗寺君を見て、俺は聞いた。
「一乗寺君、何かホントに楽しそうだねえ」
「はい、こんな普通でなんてこともないデートって久しぶりなんで、気分がいいんです」
「え、デートって」
「あ、すみません……僕の勝手な妄想です……」
ちょっと恥ずかしそうな顔をする一乗寺君。
こんな三十才のおっさんと一緒に歩いていて楽しいのかね。
おまけに、EDだし。
『子曰く、三十にして立つ。 四十にして惑わず』って孔子の論語にあったな。
俺の場合は三十にして勃たないだもんな。
情けない。
「さっき言ってたけど、アキバの男の娘喫茶で働いていた時はお客さんと外でデートとかしてたの」
「一時間くらいのお食事デートってのはありました。お仕事なんで、別に楽しくなかったです。普通のお客さんとレストランとかで食事して、おしゃべりをするくらいですね。店長は健全経営とか言ってました」
「でも、実は裏で佐島に、その、売春させられてたってわけか」
「そうですね……嫌で仕方が無かったですけど……佐島の家でお客さんと行為をして、それで終わりです」
あの佐島ってのが裏でコソコソと一乗寺君を売春させてたのは、本物のヤクザに見つからないようにしていたからかなあと俺は思った。アキバもオタクの街からヤクザの街になったのか。
「あのー、山本さん。それで、ちょっと、滝を見に行きませんか。スーパーまで行く間に公園があるんです」
「滝? え、いいけど。でも、こんな都会の真ん中に滝なんてあるのか」
「明主の滝公園ってのがあるんです」
へえ、知らなかった。
一乗寺君がスマホで調べたらしい。
そんなわけで、一乗寺君と一緒に『明主の滝公園』へ行く。
休日だが、あまり人はいないなあ。
鳥のさえずりが響きわたる。
こんな都会に奥深い山みたいなとこがあったのか。
まあ、自動車が通る音も聞こえてくるけど。
でも、知らなかった。
何だか癒されるなあ。
歩道から階段で下りていく。
おお、滝があった。
でも、滝の方は落差は七メートルくらいだな。
ミニチュアみたい。
さすがに都会のど真ん中だから大したことはないが、それでも滝を間近に見るなんて久々だなあ。
こんな公園があるなんて、全然知らなかった。
俺の安アパートからさほど離れていない。
一度も来たことは無かったな。
いかに、つまらない生活をしていたってことがわかる。
観光旅行なんて全く行かなかったもんなあ。
大学生の頃、どっかへ行ったが、それも遠い思い出だな。
滝の水が流れて川を作り、近くの水車小屋の水車を回してる。
なかなか風流だな。
「ちょっと暑くなりましたね」
「ああ、少し休むか」
久々に割と長々と歩いたんで少し疲れた。
デスクワークばっかりだもんなあ。
休日はほとんどベッドで寝てるだけだし。
水車小屋の前の木製のベンチに座る。
川のせせらぎが聞こえてくる。
気分が良くなるなあ。
最近、土日はずっとこもってばかりだったからなあ。
あの、死にそうな店長のコンビニへ行く以外は。
メリットはお金が貯まるってことぐらいだな。
もっと外出すべきだったかなあ。
せめて散歩ぐらいはすべきだった。
そうすれば、精神科クリニックに通ったり、EDにならなかったかもしれん。
今さら、遅いような気もするけどな。
でも、清新な気分になっていくのを感じるなあ。
しかし、だいぶ暑くなってきた。
俺は近くの自販機を指さして、お金を一乗寺君に渡す。
「一乗寺君、何か飲み物を買って来てくれないか」
「わかりました。何がいいですか。スポーツドリンクとかですか」
「いや、単なるミネラルウォーターでいいよ、俺は」
「……あの、僕の分も買ってきていいですか」
「もちろん、いいぞ」
「ありがとうございます。じゃあ、買ってきます。ご主人様……じゃなくて、山本さん」
また、男の娘喫茶のセリフが出そうになって、顔を赤くする一乗寺君。
なんだか、かわいいな。
あれ、またかわいいと思ってしまった。
自販機へ歩いていく一乗寺君。
やはり、後姿が女性に見える。
別にお尻が大きいってほどでもないんだけど。
身体全体がまろやかな感じがするんだよなあ。
ミネラルウォーターを二本買って戻ってくる一乗寺君に聞いた。
「ご主人様とか口癖になっちゃたの」
「そうですね、そういう仕事だったんで……でも、山本さんって貴公子って感じがするんですけど」
「はあ? おいおい、三十才のEDのおっさんのどこが貴公子なんだよ」
「だって、僕のことを一度も怒鳴らないし、暴力も振るわなかったじゃないですか。すごく迷惑かけたのに」
「そりゃ、君を殴る理由なんてないじゃないか」
「でも、やさしい人だなあって思って。そんな人、僕、人生初めてですよ」
人生初めてって、どんなに虐待されてきたんだ、この男の娘は。
それに、別に俺はやさしくないと再び思ってしまう。
精神安定剤のせいで精神が安定し過ぎているのかもしれないな。
その代わりに、EDになったけどな。しつこいか。
「そう言えば、一乗寺君のお母さんの入院費とかどうなってんの」
「父が亡くなって遺族年金を当てているので、何とか大丈夫です」
「君も受け取れるんじゃないの。いや、もう十八才だから無理か。それに、一応コンビニでフルタイムでの収入があるから受け取れないか」
「そうですね。中学時代は貰ってたんですけど。あの、それで……」
「うん、どうしたの」
すごく恥ずかしそうにしている一条寺君。
なにが恥ずかしいんだと思っていると一条寺君がお願いしてくる。
「一乗寺君じゃなくて、あゆむって呼んでほしいんですけど」
「え、何で」
「その、そういう呼び方が慣れてまして……」
「じゃあ、あゆむ君と呼べばいいんだな」
「……いえ、あゆむって呼び捨てでお願いします」
「なんで」
「あの……そういう呼び方が慣れてるので」
「はあ、まあ、いいけど」
なんだか、また赤い顔をする一乗寺君。
なんで赤いのかね。
でも、あゆむって呼び捨てだと、俺、なんか偉そうだな。
それに恋人同士ってわけでもないのに。
おまけにEDだしな。
って、また、EDにこだわってしまうなあ。
「一乗寺君、何かホントに楽しそうだねえ」
「はい、こんな普通でなんてこともないデートって久しぶりなんで、気分がいいんです」
「え、デートって」
「あ、すみません……僕の勝手な妄想です……」
ちょっと恥ずかしそうな顔をする一乗寺君。
こんな三十才のおっさんと一緒に歩いていて楽しいのかね。
おまけに、EDだし。
『子曰く、三十にして立つ。 四十にして惑わず』って孔子の論語にあったな。
俺の場合は三十にして勃たないだもんな。
情けない。
「さっき言ってたけど、アキバの男の娘喫茶で働いていた時はお客さんと外でデートとかしてたの」
「一時間くらいのお食事デートってのはありました。お仕事なんで、別に楽しくなかったです。普通のお客さんとレストランとかで食事して、おしゃべりをするくらいですね。店長は健全経営とか言ってました」
「でも、実は裏で佐島に、その、売春させられてたってわけか」
「そうですね……嫌で仕方が無かったですけど……佐島の家でお客さんと行為をして、それで終わりです」
あの佐島ってのが裏でコソコソと一乗寺君を売春させてたのは、本物のヤクザに見つからないようにしていたからかなあと俺は思った。アキバもオタクの街からヤクザの街になったのか。
「あのー、山本さん。それで、ちょっと、滝を見に行きませんか。スーパーまで行く間に公園があるんです」
「滝? え、いいけど。でも、こんな都会の真ん中に滝なんてあるのか」
「明主の滝公園ってのがあるんです」
へえ、知らなかった。
一乗寺君がスマホで調べたらしい。
そんなわけで、一乗寺君と一緒に『明主の滝公園』へ行く。
休日だが、あまり人はいないなあ。
鳥のさえずりが響きわたる。
こんな都会に奥深い山みたいなとこがあったのか。
まあ、自動車が通る音も聞こえてくるけど。
でも、知らなかった。
何だか癒されるなあ。
歩道から階段で下りていく。
おお、滝があった。
でも、滝の方は落差は七メートルくらいだな。
ミニチュアみたい。
さすがに都会のど真ん中だから大したことはないが、それでも滝を間近に見るなんて久々だなあ。
こんな公園があるなんて、全然知らなかった。
俺の安アパートからさほど離れていない。
一度も来たことは無かったな。
いかに、つまらない生活をしていたってことがわかる。
観光旅行なんて全く行かなかったもんなあ。
大学生の頃、どっかへ行ったが、それも遠い思い出だな。
滝の水が流れて川を作り、近くの水車小屋の水車を回してる。
なかなか風流だな。
「ちょっと暑くなりましたね」
「ああ、少し休むか」
久々に割と長々と歩いたんで少し疲れた。
デスクワークばっかりだもんなあ。
休日はほとんどベッドで寝てるだけだし。
水車小屋の前の木製のベンチに座る。
川のせせらぎが聞こえてくる。
気分が良くなるなあ。
最近、土日はずっとこもってばかりだったからなあ。
あの、死にそうな店長のコンビニへ行く以外は。
メリットはお金が貯まるってことぐらいだな。
もっと外出すべきだったかなあ。
せめて散歩ぐらいはすべきだった。
そうすれば、精神科クリニックに通ったり、EDにならなかったかもしれん。
今さら、遅いような気もするけどな。
でも、清新な気分になっていくのを感じるなあ。
しかし、だいぶ暑くなってきた。
俺は近くの自販機を指さして、お金を一乗寺君に渡す。
「一乗寺君、何か飲み物を買って来てくれないか」
「わかりました。何がいいですか。スポーツドリンクとかですか」
「いや、単なるミネラルウォーターでいいよ、俺は」
「……あの、僕の分も買ってきていいですか」
「もちろん、いいぞ」
「ありがとうございます。じゃあ、買ってきます。ご主人様……じゃなくて、山本さん」
また、男の娘喫茶のセリフが出そうになって、顔を赤くする一乗寺君。
なんだか、かわいいな。
あれ、またかわいいと思ってしまった。
自販機へ歩いていく一乗寺君。
やはり、後姿が女性に見える。
別にお尻が大きいってほどでもないんだけど。
身体全体がまろやかな感じがするんだよなあ。
ミネラルウォーターを二本買って戻ってくる一乗寺君に聞いた。
「ご主人様とか口癖になっちゃたの」
「そうですね、そういう仕事だったんで……でも、山本さんって貴公子って感じがするんですけど」
「はあ? おいおい、三十才のEDのおっさんのどこが貴公子なんだよ」
「だって、僕のことを一度も怒鳴らないし、暴力も振るわなかったじゃないですか。すごく迷惑かけたのに」
「そりゃ、君を殴る理由なんてないじゃないか」
「でも、やさしい人だなあって思って。そんな人、僕、人生初めてですよ」
人生初めてって、どんなに虐待されてきたんだ、この男の娘は。
それに、別に俺はやさしくないと再び思ってしまう。
精神安定剤のせいで精神が安定し過ぎているのかもしれないな。
その代わりに、EDになったけどな。しつこいか。
「そう言えば、一乗寺君のお母さんの入院費とかどうなってんの」
「父が亡くなって遺族年金を当てているので、何とか大丈夫です」
「君も受け取れるんじゃないの。いや、もう十八才だから無理か。それに、一応コンビニでフルタイムでの収入があるから受け取れないか」
「そうですね。中学時代は貰ってたんですけど。あの、それで……」
「うん、どうしたの」
すごく恥ずかしそうにしている一条寺君。
なにが恥ずかしいんだと思っていると一条寺君がお願いしてくる。
「一乗寺君じゃなくて、あゆむって呼んでほしいんですけど」
「え、何で」
「その、そういう呼び方が慣れてまして……」
「じゃあ、あゆむ君と呼べばいいんだな」
「……いえ、あゆむって呼び捨てでお願いします」
「なんで」
「あの……そういう呼び方が慣れてるので」
「はあ、まあ、いいけど」
なんだか、また赤い顔をする一乗寺君。
なんで赤いのかね。
でも、あゆむって呼び捨てだと、俺、なんか偉そうだな。
それに恋人同士ってわけでもないのに。
おまけにEDだしな。
って、また、EDにこだわってしまうなあ。
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