人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉

文字の大きさ
170 / 187
最終章 人質でなくなった王女と忘れない王太子

14

しおりを挟む
「秋には、ライリー王子の即位式だね」
叔父様が執務室を出て行った後、フレッド様がポツリと呟く。
「そうですわね。ライリー殿下なら、とても立派な国王になられますわ」

懐かしく思う。
優しいあの人の微笑みと、頼りになる強い瞳を。

「ボナールと違って、ランバラルドは臣下もしっかり固まっている。きっと、即位したらすぐに跡取りを求められる。現国王も、嫌になるくらい言われたそうだしね」
「そう、ですか。ライリー殿下も大変ですわね。まだ婚約者様もお決まりではないのでしょう?」

フレッド様は、いつもの笑みを消して、真顔でお話しする。
「王子が、婚約者を決めて、正妃を決めたら、シャーロットちゃんはどうするの?」

カップを持つ指先が震えた。
「どうって、お祝いしますわ。お祝いの品は、何がいいかしら?」

フレッド様は、震えたカップを見たのか見ていないのか。
小さくため息をついた後、いつもの笑顔に戻って言った。
「即位のあとのパーティーにも招待されているから、いつもは節約してるけど、ドレスを新調しようね。足りないならオレが出してもいいから、明るい色で作ろう。黄色がいいかな」
「そうですわね。明るい色がいいです」

ライリー殿下の即位式ですもの。気分を明るく上げてくれるような、明るいドレスを作ろう。






季節は流れ、夏が終わった。
ボナールのバタバタの即位式と違って、半年以上も前から予定されている即位式は、とても華やかに催されるそうだ。

私も、ドレスを新調した。
やっぱり、女の子だもの。新しいドレスはワクワクする。
何故か、ドレスを作る時には、デザイナーとの打ち合わせ時にフレッド様とジュディが同席し、ほぼ二人の意見で決まってしまったけれど、二人のセンスはとてもいいので、私も満足している。




ついに、ランバラルドへ向かう日になった。
数年ぶりのランバラルドは、どんな風だろう。
パルフェはどうなったのかな。
トランケのロジャーさんとクリスさんは元気かな。
そんな事を思いながら、馬車に乗り込む。

今日の馬車は、ちゃんと王家の紋章付きの豪華な馬車だ。
中には私とフレッド様、マリーとジュディが乗っていて、アーサーは何人かいる護衛のまとめ役で、外で騎馬に乗っている。

急ぎ足でランバラルドへ向かい、4日の行程を経て、ランバラルド城に到着した。

人質として、くぐったのと同じ、正門から入る。

馬車を降りると、前回と同じようにカッティーニ宰相が迎えてくれた。
「これはこれはシャーロット陛下。ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです。そこの愚息も、元気そうだな」
「なんだよ。親父、シャーロットちゃんとオレに対する態度が随分違うじゃないか」
「当たり前だ。バカ者。勝手に国を飛び出した愚息と、立派に国を仕切っている女王と扱いが同じな訳がなかろうよ」

軽口をきく、親子のやり取りは面白かったけれど、私もカッティーニ宰相にご挨拶をする。
「カッティーニ宰相様、ご無沙汰しております。お招きありがとうございます。それと、フレッド様は我が国で大変活躍しておいでです。ボナールではかけがえの無い人物になっております。ランバラルドにお返しできないのが、心苦しく思います」

私がそう言うと、カッティーニ宰相は目元を緩ませた。
お父さんの顔だ。
「そうですか。愚息でもお役に立っておりますか」
「はい。フレッド様は、とても優秀なボナールの宰相様です」
カッティーニ宰相は、嬉しそうに顔を緩ませた。

今回、来賓としてのご招待なので、おそらく西棟に滞在のお部屋を貰えると思ってそちらの方にフレッド様と歩き出すと、慌ててカッティーニ宰相が止める。
「シャーロット陛下のお部屋は、通常の客間ではないんです。ギルバート様から、離宮かギルバート様の母君のお部屋かを選んでもらうように言われておりまして……」

「まぁっ! 選んでもよろしいの? でしたら、離宮にお願いします!」
「かしこまりました。ギルバート様にはお伝えしておきます。離宮でしたら、案内は不要ですかな?」
「はいっ!」



カッティーニ宰相から離宮の鍵を受け取り、歩いて行くと、懐かしい白い建物が目に入った。
鍵を開けて中に入る。
中は掃除されていたけれど、物の配置などは何も変わっていなかった。
3日間の滞在で多くなった荷物を運び込んでいると、バタバタと人が走り込んでくる音がした。

「シャーロット!!」
呼ばれた声に振り返ると、何か大きなものに、包み込まれた。
「うぷっ、なんですの?」
ぎゅうぅっと、抱きしめられてびっくりしていると、その大きなものはぱっと、手を離した。
「久しぶりだな、シャーロット」
ニコニコと、それまで見たことがない輝くばかりの笑顔を向けてこちらを見たのは、ギルバート様だった。

「まぁっ、ギルバート様。お久しぶりでございます。びっくりしましたわ。背がものすごく伸びたんですのね」
2年前は、私とそんなに変わらなかった身長が、ものすごく高くなっている。
「そりゃ、2年も経てば背も伸びる。荷ほどきが終わったら茶にしよう。メイドに持ってくるように言ってある」

ある程度、荷物を運び終えていたので、私たちは応接間に移動した。

ギルバート様が、城内なので心配せずにアーサーにも応接間でお茶を飲むように勧める。
「いえ、オレは今日は護衛で来ているので」
「硬い事を言うな。アーサーとも久しぶりに話したい。心配ならわたしの護衛を配置するが?」
「いえ、そこまでは」

そして、アーサーとジュディもテーブルについた。

「みんな、元気そうで何よりだ。フレッドは役に立っているか?」
「ギルバート様まで……。オレはちゃんとボナールの役に立ってますよ」
「フレッド、ボナールの役に、ではなくシャーロットの役に、だろ?」
ギルバート様にそう言われて、何故かフレッド様は頬を赤く染めた。

「ギルバート様、フレッド様は本当に良くしてくださっていますのよ? もう、フレッド様のいないボナールは考えられないくらいですわ」
私がにこにことギルバート様に言うと、ギルバート様はあきれたような顔をした。

「……フレッド、おまえまだ何も言ってないのか」
「ギルバート様、うるさいです。何も言わないでください」
「2年もの間、何をやっていたんだ……」
「何を? 政治ですよ、政治」

何やらよくわからないけれど、ギルバート様とフレッド様って、仲が良かったのね。

「ところで、シャーロット。疲れていなければ、よかったらまた菓子を焼いてはもらえないだろうか。この2年、何度かボナールへ行こうとしたが、なかなか行けなくてな。わたしも今年成人したので、公爵として独り立ちをするために、いろいろ詰め込まれていたのだ。久しぶりにシャーロットのアップルパイが食べたい。何もしない女王としての生活で腕が鈍っているのは承知しているから、どんな物ができても文句は言わん」

ギルバート様が失礼な事を言うので、反論しようとしたけれど、その前にジュディが口を開く。
「何言ってんですか、ギルバート様。姫様が大人しくしているわけがないじゃないですか。女王なのに厨房に立ってますよ」
「は?」
更にアーサーが追い討ちをかける。
「ほんとですよ、ギルバート様。護衛のオレの身にもなってください。包丁やらナイフやらがたくさんあるところで、無防備に料理する女王の護衛って一体……」

「でも、シャーロットちゃんのお菓子は絶品だよね! 新作のスイートポテトは徹夜開けの胃に染み渡るよ」
優しいフレッド様はフォローしてくれる。
「なにっ、新作があるのか? シャーロット、ここで作れるか?」
「え、ええ。材料さえあれば」
「ジュディ、ジュディとロッテはシャーロット王女についてボナールに行ったことになっている。今回、シャーロット女王についてランバラルドに来ることは伝えてあるから、あとで本宮に行って材料を取ってきてくれ」
「えっ、本宮に行ってもいいんですか?」

ジュディはルーシー達に会える事を喜んだ。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

結婚してるのに、屋敷を出たら幸せでした。

恋愛系
恋愛
屋敷が大っ嫌いだったミア。 そして、屋敷から出ると決め 計画を実行したら 皮肉にも失敗しそうになっていた。 そんな時彼に出会い。 王国の陛下を捨てて、村で元気に暮らす! と、そんな時に聖騎士が来た

【完結】見返りは、当然求めますわ

楽歩
恋愛
王太子クリストファーが突然告げた言葉に、緊張が走る王太子の私室。 この国では、王太子が10歳の時に婚約者が二人選ばれ、そのうちの一人が正妃に、もう一人が側妃に決められるという時代錯誤の古いしきたりがある。その伝統に従い、10歳の頃から正妃候補として選ばれたエルミーヌとシャルロットは、互いに成長を支え合いながらも、その座を争ってきた。しかしーー 「私の正妃は、アンナに決めたんだ。だから、これからは君たちに側妃の座を争ってほしい」 微笑ながら見つめ合う王太子と子爵令嬢。 正妃が正式に決定される半年を前に、二人の努力が無視されるかのようなその言葉に、驚きと戸惑いが広がる。 ※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))

働きませんわ。それでも王妃になります

鷹 綾
恋愛
「私は働きませんわ」 そう宣言して、王太子から婚約破棄された公爵令嬢エルフィーナ。 社交もしない。慈善もしない。政務にも口を出さない。 “怠け者令嬢”と陰で囁かれる彼女を、王太子アレクシスは「王妃に相応しくない」と切り捨てた。 ――だが彼は知らなかった。 彼女が動かないからこそ、王家は自力で立つことを覚えたのだということを。 エルフィーナは何もしない。 ただ保証を更新せず、支援を継続せず、静かに席を外すだけ。 その結果―― 王家は自らの足で立つことを強いられ、王太子は“誰の力にも頼らない王”へと変わっていく。 やがて外圧が王国を揺らしたとき、彼は気づく。 支配でも依存でもなく、並んで立てる存在が誰だったのかを。 「君と並びたい」 差し出されたのは、甘い救済ではない。 対等という選択。 それでも彼女の答えは変わらない。 「私は働きませんわ」 働かない。 支配しない。 けれど、逃げもしない。 これは―― 働かないまま王妃になる、公爵令嬢の静かなざまあ恋愛譚。 優雅で、合理的で、そしてどこまでも強い。 “何もしない”という最強の選択が、王国を変えていく。

死を望まれた王女は敵国で白い結婚を望む。「ご安心ください、私もあなたを愛するつもりはありません」

千紫万紅
恋愛
次期女王として王位継承が内定していたフランツェスカ。 だが戦況の悪化を理由に父王に争いの最前線に送られた。 それから一年、命からがら王都へ戻った彼女を待っていたのは労いの言葉ではなく、敵国・シュヴァルツヴァルトの王太子への輿入れ命令。 しかも父王は病弱な異母妹アリーシアを王妃に据え、フランツェスカの婚約者レナードを王にするという。 怒りと絶望の中フランツェスカはかつて敵将であったシュヴァルツヴァルト王太子・フリードのもとへお飾りの妻として嫁ぐことを決意する。 戦地での過去を封じ、王族としての最後の務めを果たすために。

【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。 しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。 生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。 それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。 幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。 「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」 初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。 そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。 これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。 これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。 ☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆

婚約破棄されたトリノは、継母や姉たちや使用人からもいじめられているので、前世の記憶を思い出し、家から脱走して旅にでる!

山田 バルス
恋愛
 この屋敷は、わたしの居場所じゃない。  薄明かりの差し込む天窓の下、トリノは古びた石床に敷かれた毛布の中で、静かに目を覚ました。肌寒さに身をすくめながら、昨日と変わらぬ粗末な日常が始まる。  かつては伯爵家の令嬢として、それなりに贅沢に暮らしていたはずだった。だけど、実の母が亡くなり、父が再婚してから、すべてが変わった。 「おい、灰かぶり。いつまで寝てんのよ、あんたは召使いのつもり?」 「ごめんなさい、すぐに……」 「ふーん、また寝癖ついてる。魔獣みたいな髪。鏡って知ってる?」 「……すみません」 トリノはペコリと頭を下げる。反論なんて、とうにあきらめた。 この世界は、魔法と剣が支配する王国《エルデラン》の北方領。名門リドグレイ伯爵家の屋敷には、魔道具や召使い、そして“偽りの家族”がそろっている。 彼女――トリノ・リドグレイは、この家の“戸籍上は三女”。けれど実態は、召使い以下の扱いだった。 「キッチン、昨日の灰がそのままだったわよ? ご主人様の食事を用意する手も、まるで泥人形ね」 「今朝の朝食、あなたの分はなし。ねえ、ミレイア? “灰かぶり令嬢”には、灰でも食べさせればいいのよ」 「賛成♪ ちょうど暖炉の掃除があるし、役立ててあげる」 三人がくすくすと笑うなか、トリノはただ小さくうなずいた。  夜。屋敷が静まり、誰もいない納戸で、トリノはひとり、こっそり木箱を開いた。中には小さな布包み。亡き母の形見――古びた銀のペンダントが眠っていた。  それだけが、彼女の“世界でただ一つの宝物”。 「……お母さま。わたし、がんばってるよ。ちゃんと、ひとりでも……」  声が震える。けれど、涙は流さなかった。  屋敷の誰にも必要とされない“灰かぶり令嬢”。 だけど、彼女の心だけは、まだ折れていない。  いつか、この冷たい塔を抜け出して、空の広い場所へ行くんだ。  そう、小さく、けれど確かに誓った。

処理中です...