人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉

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最終章 人質でなくなった王女と忘れない王太子

13

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慌ただしく、ライリー殿下達は帰国した。

帰るよう促したのは私だけど、そんなに急いで帰ることもないのにって、思うくらいに慌ただしく。

別れは、とても簡単なものだった。
まるで、即位式を見にきただけの隣国の王太子が帰国するようにそっけなく、私も、招待した他国の見知らぬ王太子を見送るように見送った。



時は流れる。
気がつくと、私は18歳になり、あの時のライリー殿下の歳と同じになっていた。


あれから、帝国のジルベール陛下は度々私に手紙を寄越すが、他愛もない内容で、少しだけほっこりすることもある。
一回りも年下の女王が珍しいのだろう。
まるで、妹に出す手紙のような内容が多い。

フレッド様はと言うと、本当にモーリス宰相から仕事を教わっていて、ボナールに欠かせない人になりつつある。
普段、おちゃらけてばかりなのに、実はとても仕事のできる人だったのだと、驚くばかりだ。

当然、城の侍女たちの間では人気がある。
でも、ランバラルドで聞いていたようなチャラ男のような感じではなく、城に登城する貴族の美しいご令嬢が誘いをかけてもやんわりとお断りしているそうだ。
そんな硬派なフレッド様を、態度だけで軽いとランバラルドでは噂が立ってしまうなんて、本当に噂はあてにならないものだわ。

共和制への移行は、残念ながら難航している。
フレッド様が優秀だからというのもあるが、議会が最終判断をすべて王室に丸投げをするからだ。
ちゃんと討議はしているのに。
フレッド様が言うには、今の世代の大臣たちは、コルビー国王の政策に慣れすぎてしまっていて、代替わりするまでは、完全なる共和制にはならないだろうと言っている。

忙しいけれど、穏やかな日々を送る。

充実しているが、胸にぽっかりと開いてしまった穴は、まだ塞がる気配はない。


「フレッド様、お茶にしましょう。今日はフレッド様のお好きな木苺のジャム添えパウンドケーキにいたしましたわ」
私が執務室にお茶とケーキを持っていくと、フレッド様が書類から顔を上げる。
「ありがとう。シャーロットちゃん。ソファの方で一緒に食べよう」

私はにっこり笑って、ソファの方に二人分のお茶とケーキを置く。

結局、私は我慢しきれずに、お城の厨房を借りて趣味のお菓子作りをするようになった。
最初は、ボナール城の料理長はいい顔をしてくれなかったけれど、今では私のお菓子のファンになってくれている。


先に座って待っていると、フレッド様がやってきた。

「税金、そんなに上げていないのに、収入は順調だね。撤退していた商会もボナールに戻ってきたようだし、これなら国債で作った借金もすぐに返せるよ」
「フレッド様、先に私が側妃として嫁ぐことで差し引いていただいた賠償金の補填をお願いしたいです」

フレッド様はもくもくと口を動かして眉根を寄せる。
「王子がいらないって言ってるんだから、払わなくていいんじゃない?」
「そんな訳にはいきませんわ。約束を反故にして、私はここに居るのですもの」
「でもさー、王子も離縁届にサインしていないし、反故にはなっていないでしょ?」

そうなのだ。
離縁届に私のサインをしてランバラルドに送ってあるのだけれど、返送はされてこなかった。
側妃など、居てもいなくても変わらないと思われているのか、忘れられているのか……。

「オレは、先に国債を買い戻すべきだと思うよ。何しろ利息を支払うから、支払額が嵩む」
「……そうですわね。国のことを考えたら、国債ですわね」

国はすっかり安定して、お腹を空かせた国民は居なくなった。
叔父様がおこなった政策の中で、病気の人は協会で無償で治療が受けられるというものがあるが、医師が不足していたのも、国に資金が戻ってきたので、医師の派遣にも使っており、問題なく運営されている。
次に資金ができたら、今度は医師を育成するための学校を設立することにしている。

コンコン。
執務室のドアがノックされる。
「はい。どうぞ」
フレッド様が声を掛けると、叔父様が入ってきた。

「フレッド殿、国境付近の川に橋を掛ける件だが」
そう言いながら、フレッド様に書類を見せる。

なんと、叔父様は、名前をコーディと変えて、平民の官僚として働いている。
牢に閉じ込められていた時は、元気なく一日中本を読んで過ごしていらしたが、セリーヌ様の行方がわかった頃から元気を取り戻し、ウズウズしていたのを見て、私が勧めたのだ。
国王だった頃と比べて、別人のようにお痩せになったので、コルビー国王だと気づく人はまずいない。
平民を装っているので、腰も低くしているしね。

そして、セリーヌ様はどこにいらっしゃったのかというと、ユニシア侯爵とご結婚されて、すでに一男一女を設けている。
デリラが捕まってすぐに逃げ出したはいいけれど、行くあてもなく、思い出したのが私の婚約者候補だったユニシア侯爵だったらしい。
そこに駆け込み、保護を願い出たところ、ちょっと私の耳には入れられないあれやこれやがあって、そのまま奥様の座に落ち着いたとこのとだった。
顛末を聞いた叔父様は、微妙なお顔をしていたが、セリーヌ様が無事だったことを喜び、孫におもちゃを買ってあげるためにも働きたいと、お城で働いている。

デリラの話は聞かないが、死ぬまで強制労働だと言っていたので、元気に国民のためにタダ働きをしてくれていることだろう。



「ああ、あとフレッド殿に相談があったんだ。橋の予算はこれくらいにして、ランバラルドから即位式の招待を受けているだろう? お祝いにはどれくらい予算を割くべきか」

叔父様は事務的にフレッド様にお祝いの品々の見積もりを見せた。
「あー、うん。ちょっとこれは預かっておくよ。計算したら呼ぶから、それまで保留で」

フレッド様が私に視線を向けるのを、私は紅茶を飲んで、知らない顔をした。
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