真事の怪談 ~妖魅砂時計~

松岡真事

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#056 『封入特典』

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 三越くんはまだ20代半ばの青年であるが美少女系アニメやゲームに目が無く、最近の作品はおろか 90年代や80年代の名作にも興味があるという『筋金入り』の人である。

 今から一年半ほど前、とある大きなリサイクルショップで有名恋愛ゲームの初回限定ボックスを見つけ、相場より遙かに安いそのお値段に惹かれて一も二も無く購入した。

「いやぁ、とにかくネットで買うとクッソ高いんですよ。でも、その店では相場の半額・・・いや、それよりちょっと高いくらいかな。とにかくそれくらいの価格だったから」

 ほくほく顔の帰り道だったという。

「へぇ。それじゃあ家に帰ったら直ぐに開けて、ゲームを楽しんだんですね?」
「いいえ、とんでもない!ゲーム自体はネットでデータだけ購入して、既にやり込んでるんです。大切なのは、『所有していること』なんですよ。僕にとっては、ね」

 封入してあるものが全部そろっているかを確かめた後は、特典のひとつであるブックレットだけを熟読し、あとはスマホで写真を取って「どうだ珍しいだろ」的にSNSに投稿。それ以上は手を付けず、大事に大事に『保管スペース』へ直し込んだのだそうだ。
「ゲームは未開封でしたから・・・これを開けちゃうって、無いでしょふつう」

 なるほど。私もジャンルの差こそはあれ、古い特撮やロボットアニメのマニアなので その気持ちはわからないこともない。

「いやー、いい買い物だったですけどね、その日の夜、さっそくだったな」
「さっそく? 何がですか?」

「ちっちゃい男ですよ」

  ※   ※   ※   ※

 三越くんは実家住まいだった。同じ屋根の下には、お父さんとお母さん、お祖父ちゃん、弟が住んでいる。
 だが、その家族らが全員―― 彼がくだんの限定ボックスを買った翌日の朝に―― 夜中、変な体験をしたと言い張ったのだ。

「ねぇあんた・・・昨日、夜中におかしなものを見なかった?」
「は?どうして。何かあったの、母さん」
「それがねぇ、昨日、夜中の2時くらいだったかな?喉が渇いて目が覚めたもんだから。台所にミネラルウォーターを飲みに行ったんだけど・・・」

 その時、お母さんは台所の隅で何かが動くのを見た。
 「誰?」と声をかけるが、返事は無い。
 しかし、確かに何かが居る。小刻みに震えるように、食器棚の直ぐ横に小猿くらいの背丈の生き物が存在しているようなのだ。
 ――やだ、まさか動物か何かが入り込んだとか・・・
 それまで廊下の照明だけで冷蔵庫まで辿り着いたお母さんだったが、意を決して台所の明かりのスイッチをONにしてみたのだ。

 パッ、と部屋の中に光が満ちる。
 男が居る。

「?!あ、あぁっ?!!」

 身長60センチくらいの、あまりに小さな、根暗そうな男。
 年齢は30歳くらいだろうか。Tシャツにジーンズ姿。そして世の中のすべてを恨んでいそうな、厭な表情。
 ひきつけでも起こしたかのように、ブルブルガクガクと、全身を震わせていて、

 パッと消えた。

(え・・・ 何、今の・・・)

 しばらく立ち尽くしてしまったのは事実だが、あまりに現実離れしたものを見てしまったにしては割と冷静で、やがて眠気が差してあくびまで出てきた。
 恐怖自体は鮮烈だったが まるで夢でも見ていたかのようなぼんやりとした余韻だったので すぐに寝直せたという。


「・・・兄貴。実は俺も、トイレに起きたら廊下のど真ん中にチビの男が居た」
「父さんも、夜中に不意に目が覚めて 部屋の隅に小さな何かが震えてるのを見たぞ」
「ワシは、夢の中に小さな人が出てきたよ。 ・・・細かいことは忘れたがなぁ」


 家族全員がこう主張し、「お前はどうだった」と尋ねてくる。
 いや、俺は別に何も。実際 何も見なかったし。三越くんは正直に答えた。
 すると、「ええっ、それはおかしいぞ?」と逆に胡散臭く思われてしまったのである。
 原因はお前か、とすら90歳過ぎのお祖父ちゃんからは言われた。

「兄貴・・・そう言えば昨日、またリサイクルショップで古いモン買ってきてたよな?」
「それが原因かも知れないわ・・・見せなさい、ちょっと」

 それはイヤだ、と即答した。
 二次元ヒロインと恋愛を楽しむゲームの特典ボックスだ。その内部を家族に晒すなんて、どういう罰ゲームなのだ、と言いたい。

 だが、「お母さんも若い頃、同じようなことがあったの」「古本屋で小説を買ったんだけど、それから毎日 悪夢にうなされるようになって」「ある日、その小説のページに写経みたいな紙が挟まっていたのに気付いて」「それを破いて捨てたら、ウソみたいに夢見がよくなったんだから」と小怪談を語られてムリヤリ説得され、渋々 ボックスの中の萌え萌えな特典の数々を畳の上に並べることとなってしまった。

 が、特におかしいものが入り込んでいるということもない。
 ほれ見ろ、これは関係ないぞ!と言い張った。
 だが、家族は譲らない。
 未開封のゲーム本品が怪しいと言われる。

「いや、これだけは勘弁して。開いてないから価値があるの、そもそも開いてないんだから中に何か入ってるわけないでしょ?ってすげぇ主張したんですけど・・・」

 弟が、ピリピリーッと包装ビニルを取り去ってしまった。
 ああああ。絶望する三越くん。
 パカッとディスクケースが開かれた。もうどうにでもして、という気分になる。
 と、

「う、うぇっ」

 弟が、嘔吐くような声をだした。
 ・・・え、どうしたの。
 三越くんは、身を乗り出すようにして ディスクケースの中身を覗き、

「――――何だよ、これ・・・」

 はじめて、怖気が湧き立ってきた。


 先ほどまで密封されてた筈のケースの中。
 ゲームのディスクは大量のカビによってグズグズに侵されており、
 まるで白と青の薄毛を生やした小動物の轢死体のようだった。


  ※   ※   ※   ※

 ディスクとケースは、早々に焼却処分したという。

 それ以来、三越家では 〝小さな根暗男〟は目撃されていない。

 どんな因果がカビと男の間にあったのかは皆目わからないが、

「まぁとにかく!その他の特典を処分しなくて良かっただけでも儲けモンだったと思って。前向きにやってくことにしましたよ」

 いやぁ、とんだ封入特典でした・・・ 三越くんは そう言って呵々大笑した。



 ――現在。三越くんの家族は、彼が萌え萌えな絵柄のアイテムを中古購入するたび、戦々恐々としているのだそうだ。
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