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#055 『貼り紙』
前話の取材を終了して直後のことである。
体験者の日向さんが「それでは」と席を立たれた時、ふと 私は大切なことに今更ながら思いあたり、
「あの、すいません。最後にもう一つ」
不躾ながら、彼女を引き留めたのだった。
「日向さんは学生時代、登校途中に奇妙な貼り紙を見てしまって、その後 異様な体験をなされた。つまり その時見た貼り紙が、後に起こった怪異に密接に関係している、とお考えなのですよね?」
「はい、そうです。そう考えています」
「では、その貼り紙は―― 体験の後、どうなってしまったのですか?」
「そのままでしたよ」
そのまま?! 私は聞き返した。
「翌日確かめてみると 貼り紙はまるで最初から無かったかの様に消え失せていた・・・」 そういうパターンのオチかと思っていたからだ。
「半年くらいかな・・・数枚あった貼り紙は、ぜんぶその場所に貼ってありました。劣化してボロボロになっちゃうまで、ね」
必死に目をそむけながら登校してました。お祖母ちゃんのこと、思い出しちゃうから―― 日向さんはキッパリと言われる。
「もう宜しいですか?」
「は、はい。すいません。ありがとうございました」
軽い会釈の後、日向さんは取材現場のファミレスを出て行かれた。
最後にポツリと「そう言えば 何で誰もはがそうとしなかったんだろう。あんなおかしな貼り紙・・・」 そう呟きながら。
※ ※ ※ ※
それから一週間ほど後のことである。
私は、カクヨムに怪談を連載していた時に体験談を使わせてもらった麻生さんという男性と久しぶりに出会い、中年らしく足湯に浸かりながら近況を話し合っていた。
ちなみに彼、この『妖魅砂時計』の創立メンバーの一人で、私の執筆面での協力者の一人。♯009『アラクノフォビア』や♯027『フアンナミライ』の体験者の方々は、この麻生さんから紹介して頂いた。
「・・・というわけで、最近 おかしな貼り紙に関する奇妙な話を聞いたわけなんですが」
麻生さんは 舞台となった町の隣町にお住みだし、その頃 高校生くらいでしょ。何か知っていることはありませんか? 私は尋ねてみた。
貼り紙。貼り紙ねぇ―― 麻生さんはしばし、記憶の糸を手繰っているかのように遠くを眺めておいでだったが、
「ああ、思い出した!〇〇銀行の近くでしょ、ソコ」
手を打って、そう言われる。
「はい、たぶん・・・」
地理に疎い私は曖昧に返すしかない。なんせ、自宅から車で20分ほど離れた よく知らない町の話だ。
「貼り紙っていうか、ポスターだったなぁ。当時、仲の良い友人がその町に住んでてね。何回も行ったことがあるんだけど、うん。確か電柱に何本も。ポストにも。その一帯だけ、変なポスターが貼り出してあった」
「ポスター、ですか?」
「そうだよ。それが、黒づくめの服を着た男が、ニヤニヤ笑いながら男の子に覆いかぶさろうとしている絵なんだ。漫画チックに描いてあったから、きっと〝不審者に注意!〟みたいなのを喚起しようとしたものなんだろうけど」
「えっ、誤植のような字が書いてあるんじゃなかったんですか?!」
「いやいや、逆だよ。そんな絵が描いてあるのに、何の文字も書いてなかったから。まるで男の子が変質者に襲われる直前のサスペンスシーンを描いたような感じになっててね・・・最初見た時には笑っちゃったんだけど、それがあちこちにペタペタ貼ってあるもんで 逆に気色悪くなってきて」
「・・・・・・・・・・・・」
「友達に、あの変なポスター何?って聞いたら、よく知らんって言われた。行くたびに目にしてたけど、だんだん慣れてきて気にしなくなったなぁ』
ありゃ何だったんだろうな?麻生さんは首をひねった。
私も、ひねった。
※ ※ ※ ※
それから、更に数日後のことである。
私は、休日の度に足繁く通っている酒屋さんに新しく入ったバイトの青年が、例の貼り紙の町の出身だと知り、昼休みを利用して聞き込みに行ってみた。
尋ねてみれば29歳だという。ということは、当時10歳くらいの小学生だった筈だ。
「あぁっ、思い出した!知ってるっすよ、変なポスターでしょ、JAの!」
――JA(農協)?
何かの間違いじゃないかと訊いてみたが、「〇〇銀行の支店の近くでしょ」「電柱とか、自販機なんかにも いっぱい貼ってあったヤツでしょ?」というので、間違いは無いようだ。
「キモかったすよ。ミイラみたいにガリッガリに痩せた上半身裸の爺さんが、野菜のいっぱい乗った皿を持って うつろな表情で こっち見てるんす。写真でしたね、ハイ」
・・・確かに薄気味悪そうなポスターだ。しかし。
それ、本当に農協が貼り出してたの?と突っ込んでみたら、
「別にロゴとか入ってたわけじゃないけど」
「野菜持ってるから、JAだと思ってました」
とのこと。
「あれっ、そもそも 字とか書いてあったっけ・・・? でも、友達もJAだ、JAだって言ってましたし。JAマジ意味わかんねぇ、気持ち悪ィって・・・」
JAの名誉の為に言わせて貰えば、それはきっと JA由来のポスターではない。
では、いったい、何の――
「・・・思えば、あの界隈 よく犬とか猫が死んでましたね。車に轢かれたとかじゃなくて、うずくまる様に 静かに死んでるんす。子供の頃はそういうの当たり前かと思ってたんだけど、いま 市内に住むようになってから ――ああ、あれ特殊だったな、って思いますもん」
私は 頭を抱えた。
※ ※ ※ ※
更にそれから一月ほどの時は流れる。
私は、いつものファミレスで ある男性に怪談の取材をしていた。
その人こそ、♯053『隠しメッセージ』の体験者である木田さん(兄)。
そう、本作にナンバリング的には先に収録してはいるものの、時系列的にはこちらの取材の方が後に行われたのだ。
(おや?この人も、あの例の町の出身なんだ・・・)
お話を聞き始めてから直ぐ その事実には気付いた。
しかも、『90年代末』『誤植』『ケーブルテレビ』『人の死』という 日向さんの体験談と似通う箇所が多い物語でもある。
(もしかして、あの謎の貼り紙のことも知っておられるかも・・・?)
そう思い当たり、ケーブルテレビの番組表にまつわる禍々しいメッセージの話を聞いた後、唐突ながらも訊いてみた。
あなたのお宅の近くに、当時、奇妙な貼り紙がありませんでしたか??
「貼り紙・・・ ああ。もしかして、『本日は終了しました』ですか?」
背筋がピンッ、と伸びるような衝撃を受けた。
やっと、日向さんと同じ貼り紙を見た人に出会えた。
取材の流れからして、かなり期待出来る。
果たして、その正体とは?!
「子供がマジックで書いたような・・・へたくそな悪戯書きの貼り紙でしょ?何でか近所のあちこちにペタペタ貼ってあったんですよね。電柱とかポストとか自販機とか・・・ 稚拙なアニメキャラの似顔絵とか、卑猥なマークが添えられたものもあったなぁ。不思議と誰も剥がさずに、長い間そのままでしたね。それが何か?」
――彼が見たものは、印刷字ではなく手書きだったらしい。
――その上、『終了ました』なる誤植のような文字は 一切書かれていなかったという。
――また、同じものが別の見え方をしている・・・
「・・・本当に気持ち悪い話だね。ていうか 話になってるの、それ・・・」
後に会ってすべての経緯をお話した際、
麻生さんは 大嘆息と共に そう仰られた。
体験者の日向さんが「それでは」と席を立たれた時、ふと 私は大切なことに今更ながら思いあたり、
「あの、すいません。最後にもう一つ」
不躾ながら、彼女を引き留めたのだった。
「日向さんは学生時代、登校途中に奇妙な貼り紙を見てしまって、その後 異様な体験をなされた。つまり その時見た貼り紙が、後に起こった怪異に密接に関係している、とお考えなのですよね?」
「はい、そうです。そう考えています」
「では、その貼り紙は―― 体験の後、どうなってしまったのですか?」
「そのままでしたよ」
そのまま?! 私は聞き返した。
「翌日確かめてみると 貼り紙はまるで最初から無かったかの様に消え失せていた・・・」 そういうパターンのオチかと思っていたからだ。
「半年くらいかな・・・数枚あった貼り紙は、ぜんぶその場所に貼ってありました。劣化してボロボロになっちゃうまで、ね」
必死に目をそむけながら登校してました。お祖母ちゃんのこと、思い出しちゃうから―― 日向さんはキッパリと言われる。
「もう宜しいですか?」
「は、はい。すいません。ありがとうございました」
軽い会釈の後、日向さんは取材現場のファミレスを出て行かれた。
最後にポツリと「そう言えば 何で誰もはがそうとしなかったんだろう。あんなおかしな貼り紙・・・」 そう呟きながら。
※ ※ ※ ※
それから一週間ほど後のことである。
私は、カクヨムに怪談を連載していた時に体験談を使わせてもらった麻生さんという男性と久しぶりに出会い、中年らしく足湯に浸かりながら近況を話し合っていた。
ちなみに彼、この『妖魅砂時計』の創立メンバーの一人で、私の執筆面での協力者の一人。♯009『アラクノフォビア』や♯027『フアンナミライ』の体験者の方々は、この麻生さんから紹介して頂いた。
「・・・というわけで、最近 おかしな貼り紙に関する奇妙な話を聞いたわけなんですが」
麻生さんは 舞台となった町の隣町にお住みだし、その頃 高校生くらいでしょ。何か知っていることはありませんか? 私は尋ねてみた。
貼り紙。貼り紙ねぇ―― 麻生さんはしばし、記憶の糸を手繰っているかのように遠くを眺めておいでだったが、
「ああ、思い出した!〇〇銀行の近くでしょ、ソコ」
手を打って、そう言われる。
「はい、たぶん・・・」
地理に疎い私は曖昧に返すしかない。なんせ、自宅から車で20分ほど離れた よく知らない町の話だ。
「貼り紙っていうか、ポスターだったなぁ。当時、仲の良い友人がその町に住んでてね。何回も行ったことがあるんだけど、うん。確か電柱に何本も。ポストにも。その一帯だけ、変なポスターが貼り出してあった」
「ポスター、ですか?」
「そうだよ。それが、黒づくめの服を着た男が、ニヤニヤ笑いながら男の子に覆いかぶさろうとしている絵なんだ。漫画チックに描いてあったから、きっと〝不審者に注意!〟みたいなのを喚起しようとしたものなんだろうけど」
「えっ、誤植のような字が書いてあるんじゃなかったんですか?!」
「いやいや、逆だよ。そんな絵が描いてあるのに、何の文字も書いてなかったから。まるで男の子が変質者に襲われる直前のサスペンスシーンを描いたような感じになっててね・・・最初見た時には笑っちゃったんだけど、それがあちこちにペタペタ貼ってあるもんで 逆に気色悪くなってきて」
「・・・・・・・・・・・・」
「友達に、あの変なポスター何?って聞いたら、よく知らんって言われた。行くたびに目にしてたけど、だんだん慣れてきて気にしなくなったなぁ』
ありゃ何だったんだろうな?麻生さんは首をひねった。
私も、ひねった。
※ ※ ※ ※
それから、更に数日後のことである。
私は、休日の度に足繁く通っている酒屋さんに新しく入ったバイトの青年が、例の貼り紙の町の出身だと知り、昼休みを利用して聞き込みに行ってみた。
尋ねてみれば29歳だという。ということは、当時10歳くらいの小学生だった筈だ。
「あぁっ、思い出した!知ってるっすよ、変なポスターでしょ、JAの!」
――JA(農協)?
何かの間違いじゃないかと訊いてみたが、「〇〇銀行の支店の近くでしょ」「電柱とか、自販機なんかにも いっぱい貼ってあったヤツでしょ?」というので、間違いは無いようだ。
「キモかったすよ。ミイラみたいにガリッガリに痩せた上半身裸の爺さんが、野菜のいっぱい乗った皿を持って うつろな表情で こっち見てるんす。写真でしたね、ハイ」
・・・確かに薄気味悪そうなポスターだ。しかし。
それ、本当に農協が貼り出してたの?と突っ込んでみたら、
「別にロゴとか入ってたわけじゃないけど」
「野菜持ってるから、JAだと思ってました」
とのこと。
「あれっ、そもそも 字とか書いてあったっけ・・・? でも、友達もJAだ、JAだって言ってましたし。JAマジ意味わかんねぇ、気持ち悪ィって・・・」
JAの名誉の為に言わせて貰えば、それはきっと JA由来のポスターではない。
では、いったい、何の――
「・・・思えば、あの界隈 よく犬とか猫が死んでましたね。車に轢かれたとかじゃなくて、うずくまる様に 静かに死んでるんす。子供の頃はそういうの当たり前かと思ってたんだけど、いま 市内に住むようになってから ――ああ、あれ特殊だったな、って思いますもん」
私は 頭を抱えた。
※ ※ ※ ※
更にそれから一月ほどの時は流れる。
私は、いつものファミレスで ある男性に怪談の取材をしていた。
その人こそ、♯053『隠しメッセージ』の体験者である木田さん(兄)。
そう、本作にナンバリング的には先に収録してはいるものの、時系列的にはこちらの取材の方が後に行われたのだ。
(おや?この人も、あの例の町の出身なんだ・・・)
お話を聞き始めてから直ぐ その事実には気付いた。
しかも、『90年代末』『誤植』『ケーブルテレビ』『人の死』という 日向さんの体験談と似通う箇所が多い物語でもある。
(もしかして、あの謎の貼り紙のことも知っておられるかも・・・?)
そう思い当たり、ケーブルテレビの番組表にまつわる禍々しいメッセージの話を聞いた後、唐突ながらも訊いてみた。
あなたのお宅の近くに、当時、奇妙な貼り紙がありませんでしたか??
「貼り紙・・・ ああ。もしかして、『本日は終了しました』ですか?」
背筋がピンッ、と伸びるような衝撃を受けた。
やっと、日向さんと同じ貼り紙を見た人に出会えた。
取材の流れからして、かなり期待出来る。
果たして、その正体とは?!
「子供がマジックで書いたような・・・へたくそな悪戯書きの貼り紙でしょ?何でか近所のあちこちにペタペタ貼ってあったんですよね。電柱とかポストとか自販機とか・・・ 稚拙なアニメキャラの似顔絵とか、卑猥なマークが添えられたものもあったなぁ。不思議と誰も剥がさずに、長い間そのままでしたね。それが何か?」
――彼が見たものは、印刷字ではなく手書きだったらしい。
――その上、『終了ました』なる誤植のような文字は 一切書かれていなかったという。
――また、同じものが別の見え方をしている・・・
「・・・本当に気持ち悪い話だね。ていうか 話になってるの、それ・・・」
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