3 / 45
幼馴染 浅野智子
2
しおりを挟む
「高一クライシス?」
聞いたことのない単語だったため私は聞き返す。生田先生は視線を紅茶の水面に合わせながら説明をしてくれた。
「教育心理学の用語でね。高校進学後に環境の変化に適応できず不登校や退学に陥ってしまう現象のことを言うのです。毎年のように職員会議で話題に上がります」
「じゃあ智子のことは? 浅野智子のことは今日の職員会議で何か言ってました?」
職員会議で毎年のように話題になるのなら、智子――イジメにあって学校に来なくなった友達の話が出ていてもおかしくない。
「まだ何も大々的に扱われていませんね。担任と学年主任あたりでは話し合われているかもしれませんが」
今朝担任の先生に聞いたところ、イジメによる不登校とは言っていなかった。隠しているのか本人が言っていないだけなのか……。それでも先週は悪ふざけをするグループができていて、智子はそこから暴言や暴力を振われていたのは確かだ。怪我はしていなさそうだったけれど、良いものでは決してなかった。
「私も怖くて助けられなかったのが悪いけど、やんちゃなグループが智子に色々してたのは間違いないんです」
「怖くて助けられなかったことは何も悪いことではありません。しかしまあ……新しい環境になってグループを作り、自らと価値観や考え方の違う人間を攻撃するというのは褒められたことではありませんが種の保存という観点から見ると自然な行動でもあるのですよ」
生田先生はそう言うと小さなホワイトボードに板書を始めた。A2サイズのホワイトボードは先生のメモ用に使われていたのか、何時にどこで会議だとか授業に使う器具の注文がいくつだとかが小さく書かれていた。その中で不要そうなものを消し、私に見やすいように文字を書く。
「テラフォーミングという言葉はご存知ですか?」
あまり理系の勉強をしていない私には聞いたことのない言葉。首を横に振って否定すると先生は説明を続けた。
「ほとんどSFの世界の話ですが、地球以外の星を人間が住める環境に作り替えることを指す言葉なのです。火星にクロレラのような強い藻類やクマムシ・ゴキブリなんかを送り込んだり、大量の核爆弾を使って温暖化させたり……まあ今の技術では不可能という結論が出ていますけどね。火星には大気となり得る資源が乏しすぎるのだとか。まあその話は置いておいて」
生田先生はいくつかホワイトボードに図解をしたものを消して咳払いをする。
「なぜテラフォーミングなんて言葉を使ったかというと、人間は他の生物以上に自らが生活できる環境を作り上げようという欲求が強いということを教えたかったからなのです。頭のいい学者たちだけではなく、高校生にだって同じ欲求が存在します。その手段の一つとして過ごしやすいグループを作り気にくわない人間を排斥するのです」
「すいぶんと……規模が小さいですね」
馬鹿馬鹿しい。そう思ってしまうほどにくだらない理由のように思えた。ただ学校生活を送るだけなら他人を傷つけてまで自分が過ごしやすい環境を作る必要は無い。生きることができる環境を作るために他の星を開拓するのとはわけが違う。学校では他人を傷つけなくても十分生きていけるはずなのだから。
「規模が小さいと言いましたが、手段は違えどあなたも同じようなことをしようとしているのですよ?」
「え? 私がですか?」
聞いたことのない単語だったため私は聞き返す。生田先生は視線を紅茶の水面に合わせながら説明をしてくれた。
「教育心理学の用語でね。高校進学後に環境の変化に適応できず不登校や退学に陥ってしまう現象のことを言うのです。毎年のように職員会議で話題に上がります」
「じゃあ智子のことは? 浅野智子のことは今日の職員会議で何か言ってました?」
職員会議で毎年のように話題になるのなら、智子――イジメにあって学校に来なくなった友達の話が出ていてもおかしくない。
「まだ何も大々的に扱われていませんね。担任と学年主任あたりでは話し合われているかもしれませんが」
今朝担任の先生に聞いたところ、イジメによる不登校とは言っていなかった。隠しているのか本人が言っていないだけなのか……。それでも先週は悪ふざけをするグループができていて、智子はそこから暴言や暴力を振われていたのは確かだ。怪我はしていなさそうだったけれど、良いものでは決してなかった。
「私も怖くて助けられなかったのが悪いけど、やんちゃなグループが智子に色々してたのは間違いないんです」
「怖くて助けられなかったことは何も悪いことではありません。しかしまあ……新しい環境になってグループを作り、自らと価値観や考え方の違う人間を攻撃するというのは褒められたことではありませんが種の保存という観点から見ると自然な行動でもあるのですよ」
生田先生はそう言うと小さなホワイトボードに板書を始めた。A2サイズのホワイトボードは先生のメモ用に使われていたのか、何時にどこで会議だとか授業に使う器具の注文がいくつだとかが小さく書かれていた。その中で不要そうなものを消し、私に見やすいように文字を書く。
「テラフォーミングという言葉はご存知ですか?」
あまり理系の勉強をしていない私には聞いたことのない言葉。首を横に振って否定すると先生は説明を続けた。
「ほとんどSFの世界の話ですが、地球以外の星を人間が住める環境に作り替えることを指す言葉なのです。火星にクロレラのような強い藻類やクマムシ・ゴキブリなんかを送り込んだり、大量の核爆弾を使って温暖化させたり……まあ今の技術では不可能という結論が出ていますけどね。火星には大気となり得る資源が乏しすぎるのだとか。まあその話は置いておいて」
生田先生はいくつかホワイトボードに図解をしたものを消して咳払いをする。
「なぜテラフォーミングなんて言葉を使ったかというと、人間は他の生物以上に自らが生活できる環境を作り上げようという欲求が強いということを教えたかったからなのです。頭のいい学者たちだけではなく、高校生にだって同じ欲求が存在します。その手段の一つとして過ごしやすいグループを作り気にくわない人間を排斥するのです」
「すいぶんと……規模が小さいですね」
馬鹿馬鹿しい。そう思ってしまうほどにくだらない理由のように思えた。ただ学校生活を送るだけなら他人を傷つけてまで自分が過ごしやすい環境を作る必要は無い。生きることができる環境を作るために他の星を開拓するのとはわけが違う。学校では他人を傷つけなくても十分生きていけるはずなのだから。
「規模が小さいと言いましたが、手段は違えどあなたも同じようなことをしようとしているのですよ?」
「え? 私がですか?」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる