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1章
4B-盗賊
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「ーーそれにしても隣国は随分遠いんだな。転送魔法みたいなものは使えないのか?」
奏太が卑猥な妄想にも飽き、まだ到着する気配がない事に痺れを切らし、クレッチに尋ねる。
初めてこの世界に来たときに、国王は転送魔法があるような事を言っていたし、わざわざこのような護衛を雇って長時間も旅をする必要はないのではないかと、奏太は疑問に思った。
「同盟国同士だと、条約により認められている場合も多いんだけど、中立国や敵国になると、相手領土内へ兵士を転送魔法で送る行為は、侵略行為とみなされるんだ。
たとえ事前通知を行ったり、正式な会談だったとしてもね。
今回の目的地は中立国だから、外交の際は徒歩か馬車による移動が基本だね。」
「なるほど……。」
う~む、政治っていうのは色々難しいんだな。
単純に利便性や合理性だけでは成り立たない世界の在り方に、自分達がいた世界も、様々な問題を抱えていた事を思い出し、奏太は深く考え込む。
音楽の力で世界を平和に出来ないものか。
奏太が音楽の可能性を模索するが、すぐに考えるのを辞めた。かつて同じ夢を抱いて実行しようとしたロックスターが大勢いたのに、未だ世界に平和は訪れていないのだから。
「道のりの半分は過ぎたと思いますので、もうしばらくの辛抱ですよ。
まあ私としては魔物の一匹くらい現れて、皆さんの音楽の力を試してみたい所ですが。」
冗談なのか本音なのか分からない事を、クレッチが笑顔で言う。
おいおい、フラグが立ちそうな事言うなよ……。
そう思っていると案の定、馬車が急停車した。
「ーーわわわっ!何だ急に!?」
奏太達の体が前のめりになり、響子が驚いて目を覚ます。
蓄電池を充電していた金重は、バランスを崩して椅子から転げ落ちた。
「何があったのか、前の方に聞いてくるよ。」
クレッチが馬車を降りて状況を確認しに行く。
すると前方の兵士が馬車に向かって何か叫んでいる。
そして残った兵士達が馬車の前で隊列を組み始めた。
「どうやら何者かの集団が、こちらの方に向かって来ているみたいだ。
魔物ではないようだけど、皆はここで待機していて欲しい。」
クレッチが馬車に戻って奏太達に状況を説明すると、再び兵士の所へと踵を返した。
奏太が馬車から恐る恐る顔を出し、前方を確認すると、何やら馬に乗った集団が、騒々しく粉塵を撒き散らしながらこちらに迫っていたーー
「貴様らー!止まれー!」
兵士が迫り来る軍勢に向かって停止を求める。
だが相手は止まるどころか、その勢いはどんどん増していく。
見ると、軍勢は武器を振りかざしながら馬を走らせている。
目は欲にギラつき、口元は下品に歪み、野蛮な声を張り上げている。
その風貌はスラム街のゴロツキとそう大差ない。
紛れもなく、盗賊の集団であることを兵士達は確信する。
既に兵士達が制止を呼び掛ける声も、届いている筈の距離だが、彼等が応じる気配はない。
「まずい……!金目の物を狙って襲うつもりか!
陛下をお守りしろ!」
兵士達が前線で陣を固める。
「陛下! 蛮賊がこちらに向かってきております! 危険ですので、アイバニーゼ様と共にお下がり下さい! ここは我々が死守します!」
兵士が急いで国王を避難させる。
「分かった。断じてアイバニーゼを危険な目に遭わせてはならぬぞ。」
国王は兵士の求めに応じ、娘を必ず守るよう念を押す。
「はっ!命に換えても!」
兵士が国王に誓うと、武器を構えて迫り来る敵に備えた。
「お父様……。」
アイバニーゼは不安そうに国王を見つめる。
「アイバニーゼよ。そなたは父が必ず守るゆえ、心配するでない。」
国王がアイバニーゼに向かって笑いかける。
兵士達は既に戦闘体制に入っている。
両者の距離が徐々に狭まっていくにつれ、前線の緊張感が高まる。
20m…………10m……5m…
4、3、2、1、
『ワァッ』という衝撃と共に、人と馬、剣と剣のぶつかる音が鳴り響く。
とうとう両者が交錯した。
「全員ぶち殺せー!!」
「金目の物を奪えー!! 男は殺して女は犯せー!!」
「奴等に怯むなー!!」
「絶対に陛下の所へ近付けるなー!!」
戦場さながらに、両者の咆哮と剣が入り乱れたーー
「ーーどう見てもヤバイ雰囲気だな……」
奏太達が馬車の影から様子を見つめる。
「え、映画の撮影ではないですよね……。」
初めて人と人が戦う光景を目にし、響子はまだ信じられない様子だ。
剣王軍の戦いを間近に見てはいるが、やはり人同士の戦いとなると、感じる重みが異なる。
「あわわわ……。」
流石の金重も、今回は危険な雰囲気を察知したのか、闇雲に飛び出そうとしない。
するとクレッチが状況を伝えに再び戻ってきた。
「大変だ。どうやら相手は盗賊団のようだ。
今兵士達が応戦しているから、僕達のパーティも今から戦闘に加わるけど、皆はどこかに身を隠していて欲しい。」
「盗賊団だって!? 数はどれくらいいるんだ!?」
「こちらと同じくらいか、それ以上だ。
恐らく、馬と数の優位で勝てると見込んで、こちらの兵士に挑んできたんだろう。
とにかくこのままではまずいから、僕も応戦してくる!」
いくらランク8の冒険者と言っても、それはあくまで対魔物の実力であって、人間相手にクレッチ達は果たして勝てるのだろうか。
「じ、じゃあ俺達も演奏でっ……!」
奏太が自分達の演奏で力を貸すことを提案する。
「ーーそれは辞めたほうがいい。」
先程まで奏太達の演奏を期待していた筈のクレッチが、何故かそれを制止したーー
奏太が卑猥な妄想にも飽き、まだ到着する気配がない事に痺れを切らし、クレッチに尋ねる。
初めてこの世界に来たときに、国王は転送魔法があるような事を言っていたし、わざわざこのような護衛を雇って長時間も旅をする必要はないのではないかと、奏太は疑問に思った。
「同盟国同士だと、条約により認められている場合も多いんだけど、中立国や敵国になると、相手領土内へ兵士を転送魔法で送る行為は、侵略行為とみなされるんだ。
たとえ事前通知を行ったり、正式な会談だったとしてもね。
今回の目的地は中立国だから、外交の際は徒歩か馬車による移動が基本だね。」
「なるほど……。」
う~む、政治っていうのは色々難しいんだな。
単純に利便性や合理性だけでは成り立たない世界の在り方に、自分達がいた世界も、様々な問題を抱えていた事を思い出し、奏太は深く考え込む。
音楽の力で世界を平和に出来ないものか。
奏太が音楽の可能性を模索するが、すぐに考えるのを辞めた。かつて同じ夢を抱いて実行しようとしたロックスターが大勢いたのに、未だ世界に平和は訪れていないのだから。
「道のりの半分は過ぎたと思いますので、もうしばらくの辛抱ですよ。
まあ私としては魔物の一匹くらい現れて、皆さんの音楽の力を試してみたい所ですが。」
冗談なのか本音なのか分からない事を、クレッチが笑顔で言う。
おいおい、フラグが立ちそうな事言うなよ……。
そう思っていると案の定、馬車が急停車した。
「ーーわわわっ!何だ急に!?」
奏太達の体が前のめりになり、響子が驚いて目を覚ます。
蓄電池を充電していた金重は、バランスを崩して椅子から転げ落ちた。
「何があったのか、前の方に聞いてくるよ。」
クレッチが馬車を降りて状況を確認しに行く。
すると前方の兵士が馬車に向かって何か叫んでいる。
そして残った兵士達が馬車の前で隊列を組み始めた。
「どうやら何者かの集団が、こちらの方に向かって来ているみたいだ。
魔物ではないようだけど、皆はここで待機していて欲しい。」
クレッチが馬車に戻って奏太達に状況を説明すると、再び兵士の所へと踵を返した。
奏太が馬車から恐る恐る顔を出し、前方を確認すると、何やら馬に乗った集団が、騒々しく粉塵を撒き散らしながらこちらに迫っていたーー
「貴様らー!止まれー!」
兵士が迫り来る軍勢に向かって停止を求める。
だが相手は止まるどころか、その勢いはどんどん増していく。
見ると、軍勢は武器を振りかざしながら馬を走らせている。
目は欲にギラつき、口元は下品に歪み、野蛮な声を張り上げている。
その風貌はスラム街のゴロツキとそう大差ない。
紛れもなく、盗賊の集団であることを兵士達は確信する。
既に兵士達が制止を呼び掛ける声も、届いている筈の距離だが、彼等が応じる気配はない。
「まずい……!金目の物を狙って襲うつもりか!
陛下をお守りしろ!」
兵士達が前線で陣を固める。
「陛下! 蛮賊がこちらに向かってきております! 危険ですので、アイバニーゼ様と共にお下がり下さい! ここは我々が死守します!」
兵士が急いで国王を避難させる。
「分かった。断じてアイバニーゼを危険な目に遭わせてはならぬぞ。」
国王は兵士の求めに応じ、娘を必ず守るよう念を押す。
「はっ!命に換えても!」
兵士が国王に誓うと、武器を構えて迫り来る敵に備えた。
「お父様……。」
アイバニーゼは不安そうに国王を見つめる。
「アイバニーゼよ。そなたは父が必ず守るゆえ、心配するでない。」
国王がアイバニーゼに向かって笑いかける。
兵士達は既に戦闘体制に入っている。
両者の距離が徐々に狭まっていくにつれ、前線の緊張感が高まる。
20m…………10m……5m…
4、3、2、1、
『ワァッ』という衝撃と共に、人と馬、剣と剣のぶつかる音が鳴り響く。
とうとう両者が交錯した。
「全員ぶち殺せー!!」
「金目の物を奪えー!! 男は殺して女は犯せー!!」
「奴等に怯むなー!!」
「絶対に陛下の所へ近付けるなー!!」
戦場さながらに、両者の咆哮と剣が入り乱れたーー
「ーーどう見てもヤバイ雰囲気だな……」
奏太達が馬車の影から様子を見つめる。
「え、映画の撮影ではないですよね……。」
初めて人と人が戦う光景を目にし、響子はまだ信じられない様子だ。
剣王軍の戦いを間近に見てはいるが、やはり人同士の戦いとなると、感じる重みが異なる。
「あわわわ……。」
流石の金重も、今回は危険な雰囲気を察知したのか、闇雲に飛び出そうとしない。
するとクレッチが状況を伝えに再び戻ってきた。
「大変だ。どうやら相手は盗賊団のようだ。
今兵士達が応戦しているから、僕達のパーティも今から戦闘に加わるけど、皆はどこかに身を隠していて欲しい。」
「盗賊団だって!? 数はどれくらいいるんだ!?」
「こちらと同じくらいか、それ以上だ。
恐らく、馬と数の優位で勝てると見込んで、こちらの兵士に挑んできたんだろう。
とにかくこのままではまずいから、僕も応戦してくる!」
いくらランク8の冒険者と言っても、それはあくまで対魔物の実力であって、人間相手にクレッチ達は果たして勝てるのだろうか。
「じ、じゃあ俺達も演奏でっ……!」
奏太が自分達の演奏で力を貸すことを提案する。
「ーーそれは辞めたほうがいい。」
先程まで奏太達の演奏を期待していた筈のクレッチが、何故かそれを制止したーー
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