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3章 婚約式と陰謀
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しおりを挟むこんな居た堪れない空気の親子の再会ってあるのだろうか。そして婿と義父の初対面がこんな状況とは。その時ハッとした。俺は彼女の手を握ったままその場で立ち上がった。
「ご挨拶が遅れました!この度娘さんと」
「…そんなのはいい。もう彼女は御宅の娘だ。それよりも聞きたい事があるから座ってくれるかね」
ゾッとした。無愛想とかそんなレベルじゃない。彼女が“私の事をそう思っていなかったら、手切金なんて渡さないわ”と言っていた意味がよく分かった。彼女に守るとか威勢のいい事を言っておきながら、俺は大人しく座る事しか出来なかった。
「貴公に届いていた招待状を確認した。紛れもなくケビン王子の直筆のサインと押印がなされていたものだった。それはどうやって手に入れた?」
「郵便を介して我が家に届きました」
「この招待状以外に何か文の様なものは?」
「ありません」
「それを証明をする事は出来るか?」
「屋敷を調べてもらっても構いません。ただ、燃やしたのではないかと言われたら何も反論できません。私はとにかく手紙が我が家に届き、その中には本日の婚約式に招待する物しか入っておらず、今日彼女と一緒にこちらに伺った、それしかお答え出来ません」
俺は嘘をつくのが苦手だ。逆に真実を言うのは得意だ。例えどんな相手であろうと、真っ直ぐな言葉と心で伝えればいいだけだから。彼女の父、ラワン卿は俺の顔をじっと見つめた後、ふうと息を吐いた。
「やはり親子だな」
「…父上にお会いした事があるのですか?」
「今はそんな事はどうでも良い」
全くペースを崩させないこの感じ。そちらもやはり親子ですね、と言いたくなる。言えないけれど。
「最初からそこまで君達を怪しんでいる訳ではない。だが念には念を入れないといけないからな。いくつか質問をさせてもらっただけだ。君達がただ招待されて来ただけの善良な客だという事はよく分かった」
すると今度はラワン興は彼女の方に視線を移した。彼女の手がぴくりと反応した。
「…彼女はよくやってくれています。うちの村の人達の信頼をたった2ヶ月で得ました」
「彼女がか。はは、それはすごい事だ」
まるで信じられないといった笑い方に腹の底が騒つく。しかしすぐに笑みはスッと消え、ラワン卿は机に両肘をついて彼女を見つめた。
「だからこんな明から様な罠に引っかかるんだ。以前のお前ならすぐに気付いて回避できていただろう。国王陛下には私が説明しておく。恐らく勘付かれてはおられるだろうが、目を瞑ってくれるだろう。全く、お前がここに来なければこんな騒動にはならなかったのに」
「先程申しましたように我々は招待されたからここに来たまでです。むしろそちらのよく分からない陰謀に巻き込まれて困惑しているのは我々です」
気付いたら口から出ていた。ラワン卿は再び楽しげに笑みを浮かべる。
「良い味方をつけたな。お前を庇ってここまで物を申してくる奴は初めてだ」
そう言ってラワン卿は「話は以上だ」と立ち上がった。どうやらスムーズに解放させてもらえる様だ。ほっと息を吐く。
「…そうだ」
と思っていたのに、そう言ってラワン卿は立ち止まった。まだ何かあるのか、と心の中で舌打ちをする。
「あれだけ注目されていたんだ、君達が城内に連れて行かれた事は会場にいる全ての人間が気付いている。お前のその目立つ格好について、興味津々の商会の人間達が待ち構えていたぞ」
「お父様」
その時、彼女が立ち上がった。俺も一緒になって立ち上がる。彼女は俺の手を強く握っていた。
「その商会の人達と話す時間を下さい。私達は巻き込まれて余計な心傷を負い、無駄な時間も費やしました。それくらい許されてもいい筈です」
ラワン卿がじっと彼女を見る。
「…いいだろう。だがそれが終わったらすぐに帰れ」
「分かりました」
バタン、と扉が閉まりラワン卿は部屋から出て行った。俺は息を吐きながらしゃがんだ。
「怖すぎだろ、君の父上…」
すると彼女も隣でしゃがんだのが分かった。
「君も緊張したろ?」
そう言うと、彼女が突然俺に抱きついてきて、思わず尻餅をついた。
「ありがとう…ローガン」
その声は震えていて、思わず微笑みながら俺はそっと彼女を抱きしめる。そして柔らかなミルクティー色の髪を優しく撫でた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「…まさかあそこまで親密になっているとはな」
本当は自身が出て行く事でもなかったが、面白いものを見れた。やはり行っておいて正解だった、とラワン・イヴァンチスカは1人笑む。
ラワン・イヴァンチスカが結婚前に親密になったメイドが産んだのは女児だった。妻を娶った後も離れで暮らさせていたが、そのメイドは様々な重圧に負けて精神的に参ってしまい出て行った。その際に子どもも連れていくとかなり抵抗されたが、ラワンは許さなかった。
ラワンには野望があった。それは王族の名に連ねる事。その為には王子と結婚させる女子が必要だ。正妻との間には男児しか生まれなかった。だから一層連れて行かせる訳にはいかなかった。
ラワンは徹底的に娘を教育した。お前は将来王族になる人間だと、気品とプライド、全てが一流でなければならない。そう教えた通り、ラワンの娘は誰にも揺るがす事のできない立派な淑女になった。
だがそれは王子には灰汁が強すぎた様だった。同じ学園に通う何て事のない貴族の娘に現を抜かさせてしまった。ラワンは娘に人に媚びる事を教えなかった。娘は自分を守る事か攻撃する事しか知らず、相手を蹴落とす様な行為をして、挙げ句の果てには大勢が見ている場所でその貴族の娘を階段から突き落とした。
王子は激昂し婚約を破棄すると申し立て、擁護出来ないほどに世間から大バッシングを受けた。そしてラワンの野望は幕を閉じた。国王から得ていた信頼も少なからず失って、ラワンも勿論激昂し、娘の処遇について聞かれた時好きにしてくれと言った。
王子はラワンの娘を新しい婚約者に近づけさせたくないから遠くの田舎貴族の所に嫁がせると言った。その家は王族の遠縁も遠縁にあたるもので、一応イヴァンチスカ家の体裁に気遣った様だった。だがこんな形で王族との繋がりを作られたとしても何の価値もない。実際、あまりにも遠縁のためこの婚姻で王族の血縁が守られる法律にはイヴァンチスカ家は該当しないとの事だった。ラワンは分かっていたので抵抗もしなかった。
ちなみにラワンはこのウィリアムズ家の領主と会った事がある。確か事業を始めるからと何かのパーティで挨拶をしてきた時だった。話ぶりや事業の見通しが余りにも生温くてこれは失敗するな、と話半分で聞いていたが、領地の話になると目が変わり強い信念を感じた。こいつは案外食えないやつだなとその時ラワンは感じた。
相場より多めの持参金を持たせて、こちらに一切関わらないようにとラワンは娘を連れて行く城の遣いに言った。嫁ぎ先はかなり苦しい運営状況と聞いており、逆に足を引っ張るような事をされたら困るからだ。
ラワンの娘はこの決定に最初から最後まで何も言わなかった。ここまで国中で噂になっているのだ。どこに行っても受け入れてくれる人間などいないだろうし、ましてやこの性格だ。どこに行っても変わらない。そうしてラワンの娘は嫁いで行き、もう関わる事はないだろうと思っていた矢先の事だった。
『どうして彼女がここにいるんだ…!』
滞りなく進んでいた筈の婚約式で国王陛下の憤る声が聞こえ、ラワンはすぐに国王陛下の側に行った。そして驚いた。そこには遠くへ嫁いで行ったはずの娘がいたのだ。
ラワンはすぐに調べさせ、娘がちゃんと正式の招待状を持ってきていた事を確認し、易々と娘を会場に入れた使用人を探したが既に姿を消していた。何より王子が娘を見た時の動揺ぷりで確信し、ラワンはすぐさま行動に移した。自分が話を聞くという国王を宥め、2人が待っているという部屋へ向かう。
そして面白いものを見た、という訳だ。初めて見た婿は義父に挨拶をするというのに、ラワンの娘の手を繋いだまま立ち上がった。そしてそれは始終離される事はなく、宰相のラワンに物申してきたのだ。
(あそこまでしおらしいあの子を始めて見た)
常に堂々としていろ、という教えをしてきた娘は必ず挑戦的な目をしていた。それがあの時目の前にいた娘は婿の手を握って俯き、完全に頼りきっていたのだ。そんな弱々しい姿を見るのは初めてだった。
その光景を見た時に、ラワンはほっとしたのが分かった。自分でも驚いた。そんな姿を見せるなとむしろ叱ってきたのに。
ラワンは自分で冷酷な人間だとわかっている。国王の信頼を得るために全てを費やし、娘を犠牲にして野望に燃えた。まさかそんな自分にも少なからず親心があったというのだろうか。
「妻を呼んでくれるか」
ラワンは近くにいる騎士にそう声をかけた。
この国には王族の血縁者を守る法律がある。勿論これは大きな徳ではあるが、それよりもラワンにとっては王族の名に自身の名前を連ねるという誇りが第一だった。
だがもう1人冷酷な人間がいる事を忘れていた。娘には一切関わろうとしなかったのに、その人物は何よりもその法律の恩恵を授かる事を望んでいた。
(ミーシアを蹴落として、またミラを正妃の座につかせようとしたのか?それにしてもおざなりだな)
これはあくまで国王陛下を乱心させてしまった事を咎める為だ。そう思いながら、ラワンは用意された部屋で1人妻を待つのだった。
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