10 / 36
3章 婚約式と陰謀
10
しおりを挟む「ここでお待ち下さい」
会場から離れ、城内の一室に案内された。本当にここで国王と会う事になるのだろうか。俺と違って彼女は落ち着いた様子で部屋の中央にあるテーブルの椅子に座った。
「簡単に説明するわ。あなたも座って」
促されるまま、彼女の隣に座る。
「きっと扉の前に誰かいるだろうから、なるべく小声で」
「…分かった」
「私達を見るケビン様の表情を見たでしょう?」
「ああ。自分で呼んどいた癖に何だったんだ、あの顔は」
「どうやらケビン様は私達が来る事を知らなかったみたいね」
「…何だって?」
でも確かにそんな表情だった。驚きだけでなく焦りも混じっていて、招待客が挨拶をいるのにこちらに釘付けでまったく耳に入っていない様だった。
「だとするとあの招待状は誰が」
「彼女でしょうね」
「…ミーシア様?」
彼女が無言で頷く。俺は腑に落ちた。
「通りで王族にしては陰湿な事をするなと思ったんだ」
「そうね。彼女から離れさせる為にわざわざ私を遠くにやっといて、新しい婚約者とのパーティに元婚約者の私を呼ぶなんて二流、いえ三流の行動よ。てっきりそこまで頭がお花畑になっちゃったのかと思って敢えて顔を出してやったのに」
あ、という顔をした後に彼女は咳払いして誤魔化す。
「…とにかく、誇り高い王族としてあるまじき行為をしたの。それを一番良しとしないのは」
「国王陛下か」
「ええ。私はケビン様がした事だと思ったから来た。私が行く事で確実に問題が起きて、お花畑の彼の頭が冷えるだろうと思って。それに流石に私も腹立たしかったし。でも彼女がしたのなら話は別」
「婚約がなしになる?」
「流石にないと思いたいけど…国王陛下はパーティで勝手に彼が私に糾弾して破談を申し立てた事をかなりご立腹でいらっしゃったから。まあ私の噂を聞いて破談自体は納得されたみたいだけど」
その噂は本当なのか?と聞きそうになったのを堪えた。先程不躾に彼女の両親の話を聞いてしまったからだ。また中途半端に話を中断させたくなかった。
「そもそも婚約者がいる身で他の貴族の娘と懇意になったという事自体、国王陛下はよく思われていなかった。世間一般ではとんでもない悪女に捕まりそうになった可哀想な王子として、彼女を受け入れたけど──」
でも我慢出来なかった。何でもないように言う彼女の話を止めるように手を握る。彼女はその手を一瞥した後、呆れたような笑みで俺を見た。
「…私を本当に信じてるのね」
「まだ話せないのか?」
「そんな事はないけど…単純に今はその説明をしている時間がないから」
「…分かった。続けて」
彼女の手を離して腕を組む。またこの手が中断させてしまうかもしれないからだ。
「怒ってるの?」
「怒ってない」
「怒ってる声してるけど…変なの、私の話なのに」
ふふふ…と笑った後に、彼女はまた話を続けた。
「ごめんなさい、私が話を脱線させたせいね。とにかく、今回の事が知れたらただでさえ印象の悪い彼女の信頼が更に落ちる事になる。まだ王族でもないただの貴族の娘が、その力を使って私を呼び出しているんだから。しかも王族の誇りを貶める様なね。
こんな短い期間で再び婚約破談だなんて、それこそ王族への不信感が募っちゃうから結婚は出来るでしょうけど、国王陛下がいらっしゃるような公務には出してもらえなくなるでしょう。最悪、すぐに側妃探しをして正妃の立場が危ぶまれる可能性もあるかも」
成程、と納得する。
「ミーシア様の失態は分かった。だが俺達には関係ないだろう?すべて王族内での話だ。君も言っていた様に世間は彼女を受け入れているんだから。
なのにどうして呼び出されなきゃいけないんだ?それに君もミーシア様がした事になると、話が変わるとはどういう事だ?」
「どうして私がケビン様ではなく、彼女が行った事だと気付かなかった分かる?」
「‥ケビン様の押印か!」
結婚式は国中全ての人間が参加していい事になっているが、婚約式は違う。親族、有力な貴族に限られている。そこで招待状だ。その招待状にはケビン様の直筆のサインと押印がされていて、この判子は門外不出だ。ケビン様のみが所有していて、本人が一枚ずつ押しているので偽造不可能となっている。
「恐らく彼女は差出人を仲の良い友人とかくらいに止めて、彼に招待状をお願いしたんじゃないかしら。そして彼は二つ返事で了承して、私達に出されるものとも知らず招待状を作成して彼女に渡した。やっぱりお花畑な事には変わらないわね」
「成程な。随分と大胆な事を…」
俺がそう言うと彼女がふふ…とまた笑った。
「彼女がすべて1人でした事だと思う?誰かが手引きしたに決まってるでしょう」
その微笑みは彼女が上流貴族として、また王子の婚約者として生きてきた経験を物語っていた。
「誰かが彼女を唆したのよ。私を呼び出して痛い目に合わせてやろうとか言ったんじゃないかしら。彼女は素直な人間だから、今まで私にされた鬱憤を晴らさなきゃいけない様な気になってその作戦に乗った。でもこれはさっき説明した通り、私なんかより彼女の立場が危ぶまれる行為なの」
「じゃあ今回の事は、俺達を貶めたかったんじゃなく…」
「狙いは彼女。国王陛下の信頼を落としたかったのでしょ。正妃になるという事はそういう事なの。一番狙いやすい立ち位置だから、例え相思相愛だとしてもお構いなし。彼女はこれまでそういった陰謀とは無縁の人生を送ってきたから知らないのよ。そこをつけ込まれたんでしょうけど」
恐ろしい世界だ。彼女はずっとその世界を生きてきたから、ケビン様のあの表情を見ただけで全てを理解したのか。
「だからあの入り口にいた使用人も手引きされた人間ね。普通、王族の為を思うなら私達を会場に入れずに追い返すわよ」
「君を見ても驚いていなかったしな。…すごいな、点と点が線になっていくようだ。じゃあ一体誰がミーシア様を陥れようとしたんだろう」
「まあそれはそれとして…とりあえず私達は今共犯なんじゃないかと疑われています」
「…え?」
突然不穏な展開になって背筋が凍る。
「きっと国王陛下はここには来られないわ。来るとしたら…」
その時、扉のノック音が響いた。最悪のタイミングだ。
「お、おい誰が来るって」
「…坊ちゃん、私の手を握って」
今まで聞いた事のない様な彼女の弱々しい声と表情に一瞬時が止まる。俺は反射的に彼女の手を握った。彼女はほっとした表情になった後、再び顔を引き締めた。
「きっとここに来るのは…私の父よ」
扉が開く。見覚えのあるミルクティ色の髪をした男性が俺達の前に現れた。
「お待たせしてすまない。ラワン・イヴァンチスカと申します」
全く申し訳ないと思っていなさそうな態度。愛想とは無縁そうな表情に、ああ、紛れもなく彼女の父親だ、と実感した。
680
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
初恋を諦めたあなたが、幸せでありますように
ぽんちゃん
恋愛
『あなたのヒーローをお返しします。末永くお幸せに』
運命の日。
ルキナは婚約者候補のロミオに、早く帰ってきてほしいとお願いしていた。
(私がどんなに足掻いても、この先の未来はわかってる。でも……)
今頃、ロミオは思い出の小屋で、初恋の人と偶然の再会を果たしているだろう。
ロミオが夕刻までに帰ってくれば、サプライズでルキナとの婚約発表をする。
もし帰ってこなければ、ある程度のお金と文を渡し、お別れするつもりだ。
そしてルキナは、両親が決めた相手と婚姻することになる。
ただ、ルキナとロミオは、友人以上、恋人未満のような関係。
ルキナは、ロミオの言葉を信じて帰りを待っていた。
でも、帰ってきたのは護衛のみ。
その後に知らされたのは、ロミオは初恋の相手であるブリトニーと、一夜を共にしたという報告だった――。
《登場人物》
☆ルキナ(16) 公爵令嬢。
☆ジークレイン(24) ルキナの兄。
☆ロミオ(18) 男爵子息、公爵家で保護中。
★ブリトニー(18) パン屋の娘。
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
魔法のせいだから許して?
ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。
どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。
──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。
しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり……
魔法のせいなら許せる?
基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。
前世と今世の幸せ
夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。
しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。
皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。
そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。
この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。
「今世は幸せになりたい」と
※小説家になろう様にも投稿しています
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
幼なじみと再会したあなたは、私を忘れてしまった。
クロユキ
恋愛
街の学校に通うルナは同じ同級生のルシアンと交際をしていた。同じクラスでもあり席も隣だったのもあってルシアンから交際を申し込まれた。
そんなある日クラスに転校生が入って来た。
幼い頃一緒に遊んだルシアンを知っている女子だった…その日からルナとルシアンの距離が離れ始めた。
誤字脱字がありますが、読んでもらえたら嬉しいです。
更新不定期です。
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる