31 / 35
第31話 夜の庭に落ちる影
しおりを挟む
魔界城・中庭。
夜の空気は、静かで冷たかった。
「……久しぶり」
セラフィナは、ゆっくりと石畳に足を下ろす。
外に出るのは、あの魔獣暴走の日以来だった。
夜の闇。
風の匂い。
魔力が、肌をなぞる感覚。
胸の奥が、きゅっと縮む。
「姫君」
隣で、クロウ・フェルゼンが歩幅を合わせる。
「無理は、なさらず」
「わかってる」
短く答えるが、声は少し硬い。
(……怖い)
一歩。
また一歩。
花壇のそばで、足がもつれた。
「……っ」
身体が傾く。
次の瞬間。
「失礼します」
クロウが、迷いなく手を取った。
強くはない。
けれど、確かで、離れない。
「……ありがとう」
「当然です」
クロウの声は、いつも通り敬語で、静かだった。
セラフィナは、深く息を吸う。
(……大丈夫)
(一人じゃない)
二人で、夜の庭を歩く。
その背後――
誰にも気づかれないほど、遠く。
闇の中で、何かが“視て”いた。
* * *
魔界城・執務室。
魔王は、机に積まれた書類を一枚、手に取った。
――人間界・某貴族家。
――魔界の姫の魔力に関する非公式調査。
赤い瞳が、細くなる。
「……調査?」
側近が、慎重に答える。
「正式な許可は出ておりません」
「ですが、舞踏会以降――」
「“姫の魔力は世界の均衡を超える”」
「そう噂が広がっております」
――カン。
机に、指が当たる音。
「……始まったか」
婚姻。
同盟。
次は――力。
「我が娘を」
魔王の声が、低く沈む。
「“資源”として見る者がいる」
「許可なく、近づくなと通達しろ」
「警備を、二重に」
「……いや、三重だ」
「はい!」
魔王は、窓の外を見る。
夜の庭。
小さな影と、それを包む騎士。
(……まだ、触れさせん)
(誰にも)
* * *
同じ夜。
セラフィナは、足を止めた。
「……クロウ」
「はい」
「最近、人が増えた気がする」
クロウは、一瞬だけ視線を巡らせる。
「……その通りです」
「理由、聞いてもいい?」
少し、迷ってから。
「姫君の魔力に、関心を持つ者が増えました」
セラフィナの眉が、わずかに寄る。
「……私の?」
「はい」
「研究、保護、同盟――」
「様々な名目で」
「……やだな」
ぽつりと、漏れる本音。
「また、誰かが傷つく?」
クロウは、即座に首を振った。
「そのようなことは、させません」
一歩、前に出る。
無意識に、盾になる位置。
「私は、ここにおります」
「何が来ても」
「必ず、姫君を守ります」
セラフィナは、少し困った顔で笑う。
「……それ、前も聞いた」
「何度でも、申し上げます」
「……ばか」
そう言いながら。
その手を、まだ離さなかった。
* * *
夜風が、花を揺らす。
静かな庭。
穏やかな会話。
だが、その裏で。
優しさを装った欲望が、
ゆっくりと、確実に――近づいていた。
それでも。
姫は、独りではない。
騎士は、離れない。
王は、許さない。
夜の庭に落ちる影は、
まだ――本当の姿を見せていなかった。
――嵐の前の、短い静けさ。
物語は、確実に次の局面へ進み始めていた。
夜の空気は、静かで冷たかった。
「……久しぶり」
セラフィナは、ゆっくりと石畳に足を下ろす。
外に出るのは、あの魔獣暴走の日以来だった。
夜の闇。
風の匂い。
魔力が、肌をなぞる感覚。
胸の奥が、きゅっと縮む。
「姫君」
隣で、クロウ・フェルゼンが歩幅を合わせる。
「無理は、なさらず」
「わかってる」
短く答えるが、声は少し硬い。
(……怖い)
一歩。
また一歩。
花壇のそばで、足がもつれた。
「……っ」
身体が傾く。
次の瞬間。
「失礼します」
クロウが、迷いなく手を取った。
強くはない。
けれど、確かで、離れない。
「……ありがとう」
「当然です」
クロウの声は、いつも通り敬語で、静かだった。
セラフィナは、深く息を吸う。
(……大丈夫)
(一人じゃない)
二人で、夜の庭を歩く。
その背後――
誰にも気づかれないほど、遠く。
闇の中で、何かが“視て”いた。
* * *
魔界城・執務室。
魔王は、机に積まれた書類を一枚、手に取った。
――人間界・某貴族家。
――魔界の姫の魔力に関する非公式調査。
赤い瞳が、細くなる。
「……調査?」
側近が、慎重に答える。
「正式な許可は出ておりません」
「ですが、舞踏会以降――」
「“姫の魔力は世界の均衡を超える”」
「そう噂が広がっております」
――カン。
机に、指が当たる音。
「……始まったか」
婚姻。
同盟。
次は――力。
「我が娘を」
魔王の声が、低く沈む。
「“資源”として見る者がいる」
「許可なく、近づくなと通達しろ」
「警備を、二重に」
「……いや、三重だ」
「はい!」
魔王は、窓の外を見る。
夜の庭。
小さな影と、それを包む騎士。
(……まだ、触れさせん)
(誰にも)
* * *
同じ夜。
セラフィナは、足を止めた。
「……クロウ」
「はい」
「最近、人が増えた気がする」
クロウは、一瞬だけ視線を巡らせる。
「……その通りです」
「理由、聞いてもいい?」
少し、迷ってから。
「姫君の魔力に、関心を持つ者が増えました」
セラフィナの眉が、わずかに寄る。
「……私の?」
「はい」
「研究、保護、同盟――」
「様々な名目で」
「……やだな」
ぽつりと、漏れる本音。
「また、誰かが傷つく?」
クロウは、即座に首を振った。
「そのようなことは、させません」
一歩、前に出る。
無意識に、盾になる位置。
「私は、ここにおります」
「何が来ても」
「必ず、姫君を守ります」
セラフィナは、少し困った顔で笑う。
「……それ、前も聞いた」
「何度でも、申し上げます」
「……ばか」
そう言いながら。
その手を、まだ離さなかった。
* * *
夜風が、花を揺らす。
静かな庭。
穏やかな会話。
だが、その裏で。
優しさを装った欲望が、
ゆっくりと、確実に――近づいていた。
それでも。
姫は、独りではない。
騎士は、離れない。
王は、許さない。
夜の庭に落ちる影は、
まだ――本当の姿を見せていなかった。
――嵐の前の、短い静けさ。
物語は、確実に次の局面へ進み始めていた。
10
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
転生したら4人のヤンデレ彼氏に溺愛される日々が待っていた。
aika
恋愛
主人公まゆは冴えないOL。
ある日ちょっとした事故で命を落とし転生したら・・・
4人のイケメン俳優たちと同棲するという神展開が待っていた。
それぞれタイプの違うイケメンたちに囲まれながら、
生活することになったまゆだが、彼らはまゆを溺愛するあまり
どんどんヤンデレ男になっていき・・・・
ヤンデレ、溺愛、執着、取り合い・・・♡
何でもありのドタバタ恋愛逆ハーレムコメディです。
なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた
いに。
恋愛
"佐久良 麗"
これが私の名前。
名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。
両親は他界
好きなものも特にない
将来の夢なんてない
好きな人なんてもっといない
本当になにも持っていない。
0(れい)な人間。
これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。
そんな人生だったはずだ。
「ここ、、どこ?」
瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。
_______________....
「レイ、何をしている早くいくぞ」
「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」
「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」
「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」
えっと……?
なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう?
※ただ主人公が愛でられる物語です
※シリアスたまにあり
※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です
※ど素人作品です、温かい目で見てください
どうぞよろしくお願いします。
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
男女比バグった世界で美女チート無双〜それでも私は冒険がしたい!〜
具なっしー
恋愛
日本で暮らしていた23歳喪女だった女の子が交通事故で死んで、神様にチートを貰い、獣人の世界に転生させられた!!気づいたらそこは森の中で体は15歳くらいの女の子だった!ステータスを開いてみるとなんと白鳥兎獣人という幻の種族で、白いふわふわのウサ耳と、神秘的な白鳥の羽が生えていた。そしてなんとなんと、そこは男女比が10:1の偏った世界で、一妻多夫が普通の世界!そんな世界で、せっかく転生したんだし、旅をする!と決意した主人公は絶世の美女で…だんだん彼女を囲う男達が増えていく話。
主人公は見た目に反してめちゃくちゃ強いand地球の知識があるのでチートしまくります。
みたいなはなし
※表紙はAIです
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
わたしの正体不明の甘党文通相手が、全員溺愛王子様だった件
あきのみどり
恋愛
【まじめ侍女と、小悪魔系王子、無自覚系ツンデレ王子、寡黙ぼんやり系王子、三人の甘党王子様たちによるラブコメ】
王宮侍女ロアナは、あるとき思いがけない断罪にみまわれた。
彼女がつくった菓子が原因で、美貌の第五王子が害されたという。
しかしロアナには、顔も知らない王子様に、自分の菓子が渡った理由がわからない。
けれども敬愛する主には迷惑がかけられず…
処罰を受けいれるしかないと覚悟したとき。そんな彼女を救ったのは、面識がないはずの美貌の王子様で…?
王宮が舞台の身分差恋物語。
勘違いと嫉妬をふりまく、のんきなラブコメ(にしていきたい)です。
残念不憫な王子様発生中。
※他サイトさんにも投稿予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる