魔王の娘に転生した私は、恐れられるどころか世界一の美貌で恋愛ルート確定でした

月影みるく

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第32話 守られる姫、守りたい騎士

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魔界城の庭は、久しぶりに穏やかだった。

風が、葉を揺らす音だけが聞こえる。

「……今日は、ここまでにするか」

セラフィナは、庭の石畳に立ち止まった。

外に出るのは、まだ少し怖い。
でも――

「うん。十分」

そう言って振り返ると、少し後ろにクロウが立っている。

「姫君、お疲れではありませんか」

「平気」

即答すると、クロウはほんの一瞬だけ目を細めた。

(……ちゃんと、歩けてる)

前なら、部屋の扉を開けるだけで震えていた。
それを思うと、今日はかなりの進歩だ。

「クロウ」

「はい」

「ずっと後ろにいなくていいよ」

「……しかし」

「大丈夫だから」

セラフィナは肩越しに言う。

「見えてる方が、安心する」

その言葉に、クロウは一拍置いてから静かに頷いた。

「……承知しました」

歩く速度を、少しだけ合わせる。

* * *

庭の奥。

騎士たちの訓練場が見える場所で、二人は足を止めた。

金属音。
剣と剣がぶつかる乾いた響き。

「……クロウも、前はあそこにいたよね」

「はい」

「最近、出てない」

セラフィナは、横目でクロウを見る。

「……まだ、痛い?」

一瞬。

本当に、一瞬だけ。

クロウの呼吸が遅れた。

「……いえ」

即答。

「問題ございません」

(うそ)

セラフィナは、何も言わなかった。

代わりに、じっと腕を見る。

包帯は、もうない。
でも――

(かばう動き、してる)

気づいてしまった。

「……クロウ」

「はい」

「無理してるでしょ」

「……」

「騎士だから?」

沈黙。

風が、二人の間を通り抜ける。

「……私は」

クロウは、ようやく口を開いた。

「姫君に“守れなかった”と思われることの方が、辛いのです」

その言葉に。

セラフィナの胸が、きゅっと鳴った。

「……私は」

小さく、呟く。

「守られてばっかりなの、嫌だなって」

クロウが、驚いたように目を見開く。

「……姫君?」

「だってさ」

セラフィナは、訓練場を見つめたまま言う。

「私が怖がると、みんな止まるでしょ」

「私が泣くと、世界が慌てる」

「……それって、変じゃない?」

クロウは、すぐには答えられなかった。

「守られるのは、嫌いじゃない」

「でも」

セラフィナは、ゆっくり振り返る。

「クロウが怪我するのは、もっと嫌」

その視線を、真正面から受け止めて。

クロウは、静かに膝をついた。

「……姫君」

低く、真剣な声。

「それは、私の役目です」

「姫君が、責任を負う必要はありません」

「でも」

「ありません」

きっぱりと。

「私は、選んで剣を持っています」

「姫君を守るために」

「……それが、誇りです」

セラフィナは、しばらく黙っていた。

それから。

「……ずるい」

ぽつり。

「そんな言い方されたらさ」

「私も、強くなりたくなるじゃん」

クロウは、言葉を失った。

「守られるだけじゃなくて」

「隣に立てるくらい」

「……それくらいで、いいから」

その願いは、とても小さくて。

でも。

クロウの胸を、強く打った。

「……姫君」

「私は」

少しだけ、声が低くなる。

「そのお言葉を、忘れません」

「姫君がそう望まれるなら」

「私は、何度でも」

「隣に立つための剣になります」

セラフィナは、少し照れたように目を逸らした。

「……それでいい」

「クロウは、前に出て」

「私が、ちゃんと後ろを見る」

「……後ろは、私が」

「じゃあ横」

即答。

クロウは、思わず息を呑んだ。

そして。

「……はい」

小さく、微笑んだ。

* * *

その日。

セラフィナは、少しだけ長く庭にいた。

怖さは、消えていない。

でも。

隣に立つ影がある限り。

彼女は、一歩ずつ前に進ける。

――守られる姫は、
――守りたい騎士と並びながら、
――少しずつ、“自分の立ち位置”を探し始めていた。
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