33 / 35
第33話 学びの始まり、選ぶ覚悟
しおりを挟む
翌朝。
魔界城に、久しぶりに澄んだ空気が流れていた。
セラフィナは、自分の部屋の窓を開け、深く息を吸う。
「……よし」
まだ少し、胸の奥がざわつく。
でも、昨日よりは――立っていられる。
(逃げたままは、嫌だ)
* * *
執務室。
魔王は書類に目を落としていたが、
扉が開いた気配に、すぐ顔を上げた。
「セラフィナ?」
「うん」
セラフィナは、まっすぐ父を見た。
「お願いがある」
魔王の表情が、一瞬で引き締まる。
「……何だ」
「剣と、魔法」
はっきりと言う。
「ちゃんと、習いたい」
沈黙。
魔王の魔力が、微かに揺れた。
「……却下だ」
即答だった。
「危険すぎる」
「お前は、もう十分――」
「十分“守られた”」
セラフィナは、言葉を遮る。
「でも、私は」
一歩、前に出る。
「守られるだけじゃ、いられない」
「クロウが怪我して」
声が、少しだけ震える。
「みんなが、私を庇って」
「……それで、何もできないのは、嫌」
魔王は、娘を見つめた。
怒りではない。
恐怖だ。
「……お前が、傷つく可能性がある」
「あるよ」
即答。
「でも、何もしなくても、誰かは傷つく」
「それなら」
「私は、選びたい」
魔王は、目を伏せた。
その時。
「失礼いたします」
控えめな声。
クロウ・フェルゼンが、扉の脇に立っていた。
「姫君」
「本気ですか」
「うん」
迷いはなかった。
クロウは、一拍置いてから、魔王を見る。
「……魔王様」
「姫君の意思は、明確です」
「私は」
「その選択を、尊重すべきだと考えます」
魔王は、深く息を吐いた。
「……条件がある」
セラフィナが、顔を上げる。
「剣は、基礎のみ」
「魔術は、制御のみ」
「危険を感じたら、即中止だ」
「……いい」
セラフィナは、うなずいた。
「ありがとう、パパ」
* * *
訓練場。
朝の光が、白い石床に反射する。
「では、姫君」
クロウは木剣を差し出した。
「まずは、構えからです」
「……重い」
正直な感想。
「はい」
「ですが、剣とは」
「重さを、預けるものです」
セラフィナは、真似して構える。
腕が、少し震える。
(……怖い)
一瞬、魔獣の影が脳裏をよぎる。
「……っ」
「姫君」
クロウの声は、静かだった。
「力を、入れすぎておられます」
「……わかってる」
「だけど、体が言うこときかない」
「それで、結構です」
クロウは、距離を保ったまま言う。
「剣を振る前に」
「立っているだけで、十分です」
セラフィナは、ゆっくり息を吐いた。
「……こう?」
「はい」
初めて、クロウが小さく微笑んだ。
「今のは、とても綺麗です」
少し、頬が熱くなる。
「……褒めすぎ」
「事実です」
* * *
次は、魔術訓練。
広い魔導陣の中央に立つ。
「今日は、出す練習ではない」
魔王が、はっきり告げる。
「“止める”練習だ」
「……止める?」
「魔力を、灯して」
「自分の意思で、消せ」
セラフィナは、目を閉じる。
胸の奥。
あの、巨大な力。
(……怖い)
指先に、光が集まる。
空気が、歪む。
「……っ」
一瞬、制御が揺らぐ。
床が、軋んだ。
「セラフィナ!」
「……だいじょうぶ」
歯を食いしばる。
(私が、止める)
光が、強くなり――
次の瞬間。
すっと、消えた。
静寂。
「……できた」
小さな声。
魔王は、目を見開いた。
クロウは、息を止めていたのを、ようやく吐く。
「……よく、抑えました」
「……こわかった」
正直な言葉。
「でも」
セラフィナは、ゆっくり顔を上げる。
「逃げなかった」
クロウは、片膝をついた。
「姫君」
「本日は、ここまでにしましょう」
「……うん」
疲れた。
でも。
胸の奥に、確かなものがある。
(……一歩)
(ちゃんと、進めた)
* * *
訓練場を出るとき。
セラフィナは、ふと立ち止まる。
「ねえ、クロウ」
「はい」
「私さ」
「強くなりたい」
「でも」
少しだけ、笑う。
「一人で立つ勇気は、ないから」
クロウの表情が、揺れた。
「……承知しました」
低く、真剣に。
「では私は」
「姫君が倒れぬよう」
「隣に、立ち続けます」
セラフィナは、うなずいた。
「それでいい」
こうして。
恐怖から逃げていた姫は、
剣を取り、力と向き合い始めた。
まだ、小さな一歩。
だがそれは――
確かに、“自分で選んだ道”だった。
魔界城に、久しぶりに澄んだ空気が流れていた。
セラフィナは、自分の部屋の窓を開け、深く息を吸う。
「……よし」
まだ少し、胸の奥がざわつく。
でも、昨日よりは――立っていられる。
(逃げたままは、嫌だ)
* * *
執務室。
魔王は書類に目を落としていたが、
扉が開いた気配に、すぐ顔を上げた。
「セラフィナ?」
「うん」
セラフィナは、まっすぐ父を見た。
「お願いがある」
魔王の表情が、一瞬で引き締まる。
「……何だ」
「剣と、魔法」
はっきりと言う。
「ちゃんと、習いたい」
沈黙。
魔王の魔力が、微かに揺れた。
「……却下だ」
即答だった。
「危険すぎる」
「お前は、もう十分――」
「十分“守られた”」
セラフィナは、言葉を遮る。
「でも、私は」
一歩、前に出る。
「守られるだけじゃ、いられない」
「クロウが怪我して」
声が、少しだけ震える。
「みんなが、私を庇って」
「……それで、何もできないのは、嫌」
魔王は、娘を見つめた。
怒りではない。
恐怖だ。
「……お前が、傷つく可能性がある」
「あるよ」
即答。
「でも、何もしなくても、誰かは傷つく」
「それなら」
「私は、選びたい」
魔王は、目を伏せた。
その時。
「失礼いたします」
控えめな声。
クロウ・フェルゼンが、扉の脇に立っていた。
「姫君」
「本気ですか」
「うん」
迷いはなかった。
クロウは、一拍置いてから、魔王を見る。
「……魔王様」
「姫君の意思は、明確です」
「私は」
「その選択を、尊重すべきだと考えます」
魔王は、深く息を吐いた。
「……条件がある」
セラフィナが、顔を上げる。
「剣は、基礎のみ」
「魔術は、制御のみ」
「危険を感じたら、即中止だ」
「……いい」
セラフィナは、うなずいた。
「ありがとう、パパ」
* * *
訓練場。
朝の光が、白い石床に反射する。
「では、姫君」
クロウは木剣を差し出した。
「まずは、構えからです」
「……重い」
正直な感想。
「はい」
「ですが、剣とは」
「重さを、預けるものです」
セラフィナは、真似して構える。
腕が、少し震える。
(……怖い)
一瞬、魔獣の影が脳裏をよぎる。
「……っ」
「姫君」
クロウの声は、静かだった。
「力を、入れすぎておられます」
「……わかってる」
「だけど、体が言うこときかない」
「それで、結構です」
クロウは、距離を保ったまま言う。
「剣を振る前に」
「立っているだけで、十分です」
セラフィナは、ゆっくり息を吐いた。
「……こう?」
「はい」
初めて、クロウが小さく微笑んだ。
「今のは、とても綺麗です」
少し、頬が熱くなる。
「……褒めすぎ」
「事実です」
* * *
次は、魔術訓練。
広い魔導陣の中央に立つ。
「今日は、出す練習ではない」
魔王が、はっきり告げる。
「“止める”練習だ」
「……止める?」
「魔力を、灯して」
「自分の意思で、消せ」
セラフィナは、目を閉じる。
胸の奥。
あの、巨大な力。
(……怖い)
指先に、光が集まる。
空気が、歪む。
「……っ」
一瞬、制御が揺らぐ。
床が、軋んだ。
「セラフィナ!」
「……だいじょうぶ」
歯を食いしばる。
(私が、止める)
光が、強くなり――
次の瞬間。
すっと、消えた。
静寂。
「……できた」
小さな声。
魔王は、目を見開いた。
クロウは、息を止めていたのを、ようやく吐く。
「……よく、抑えました」
「……こわかった」
正直な言葉。
「でも」
セラフィナは、ゆっくり顔を上げる。
「逃げなかった」
クロウは、片膝をついた。
「姫君」
「本日は、ここまでにしましょう」
「……うん」
疲れた。
でも。
胸の奥に、確かなものがある。
(……一歩)
(ちゃんと、進めた)
* * *
訓練場を出るとき。
セラフィナは、ふと立ち止まる。
「ねえ、クロウ」
「はい」
「私さ」
「強くなりたい」
「でも」
少しだけ、笑う。
「一人で立つ勇気は、ないから」
クロウの表情が、揺れた。
「……承知しました」
低く、真剣に。
「では私は」
「姫君が倒れぬよう」
「隣に、立ち続けます」
セラフィナは、うなずいた。
「それでいい」
こうして。
恐怖から逃げていた姫は、
剣を取り、力と向き合い始めた。
まだ、小さな一歩。
だがそれは――
確かに、“自分で選んだ道”だった。
0
あなたにおすすめの小説
転生したら4人のヤンデレ彼氏に溺愛される日々が待っていた。
aika
恋愛
主人公まゆは冴えないOL。
ある日ちょっとした事故で命を落とし転生したら・・・
4人のイケメン俳優たちと同棲するという神展開が待っていた。
それぞれタイプの違うイケメンたちに囲まれながら、
生活することになったまゆだが、彼らはまゆを溺愛するあまり
どんどんヤンデレ男になっていき・・・・
ヤンデレ、溺愛、執着、取り合い・・・♡
何でもありのドタバタ恋愛逆ハーレムコメディです。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた
いに。
恋愛
"佐久良 麗"
これが私の名前。
名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。
両親は他界
好きなものも特にない
将来の夢なんてない
好きな人なんてもっといない
本当になにも持っていない。
0(れい)な人間。
これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。
そんな人生だったはずだ。
「ここ、、どこ?」
瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。
_______________....
「レイ、何をしている早くいくぞ」
「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」
「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」
「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」
えっと……?
なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう?
※ただ主人公が愛でられる物語です
※シリアスたまにあり
※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です
※ど素人作品です、温かい目で見てください
どうぞよろしくお願いします。
社畜OL、異世界で「天使」になる ~私を拾ってくれた太陽の騎士様が、過保護で嫉妬深くて、めちゃくちゃ愛してきます~
藤森瑠璃香
恋愛
連日の残業と終わらないプロジェクトの果てに、OLの佐藤美月は過労で意識を失う。次に目覚めた時、そこはアーサー王が治める国「キャメロット」だった。
森で魔物に襲われ絶体絶命の私を救ってくれたのは、「太陽の騎士」と呼ばれる最強の騎士ガウェイン。しかし彼は、強くて純粋だけど、少し子供っぽい脳筋騎士様だった!
「護衛だ!」と宣言しては一日中手を繋いで離さず、他の男性と話しただけであからさまに嫉妬したり……。その過保護で独占欲の強い愛情表現に戸惑いながらも、仕事に疲れた美月の心は、彼の太陽のような笑顔に癒されていく。
やがて王の顧問となった彼女は、現代知識とPMスキルを武器に「魔女」の嫌疑を乗り越え、国を救う「キャメロットの天使」へ。
不器用で一途な騎士様から贈られる、甘すぎるほどの溺愛に満ちた、異世界シンデレラストーリー、ここに開幕!
温泉聖女はスローライフを目指したい
皿うどん
恋愛
アラサーの咲希は、仕事帰りに酔っ払いに背中を押されて死にかけたことをきっかけに異世界へ召喚された。
一緒に召喚された三人は癒やしなど貴重なスキルを授かったが、咲希のスキルは「温泉」で、湯に浸かる習慣がないこの国では理解されなかった。
「温泉って最高のスキルじゃない!?」とうきうきだった咲希だが、「ハズレ聖女」「ハズレスキル」と陰口をたたかれて冷遇され、城を出ることを決意する。
王に見張りとして付けられたイケメンと共に、城を出ることを許された咲希。
咲希のスキルがちょっぴりチートなことは誰も知らないまま、聖女への道を駆け上がる咲希は銭湯を経営して温泉に浸かり放題のスローライフを目指すのだった。
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!
キムチ鍋
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。
だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。
「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」
そこからいろいろな人に愛されていく。
作者のキムチ鍋です!
不定期で投稿していきます‼️
19時投稿です‼️
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる