『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』

しおしお

文字の大きさ
32 / 39

第33話 粛清ではなく選別

しおりを挟む
第33話 粛清ではなく選別

 改革に、剣は必要ない。

 必要なのは――
 耐えられるかどうか、それだけだ。

 王宮改革令が公布されてから、
 わずか三日。

 すでに、
 宰相府の机の上には
 山のような辞表が積まれていた。

「……予想以上ですわね」

 アヴェンタドールは、
 一通目に目を通し、
 淡々と次へ送る。

「反対派は、
 もっと抵抗すると思っておりました」

 側近官僚が、
 少し困惑した声で言う。

「いいえ」

 アヴェンタドールは、
 首を振った。

「彼らは、
 改革に反対しているのではありません」

 一拍。

「努力を求められることに、
 反対しているのです」

 ――午前。

 元重臣の一人が、
 声を荒げて宰相府に乗り込んできた。

「話が違う!」

「年金削減など、
 聞いていないぞ!」

 アヴェンタドールは、
 椅子から立たない。

「書面で、
 明記しております」

「そんなもの、
 今さら――」

「お読みにならなかったのですね」

 それだけで、
 会話は終わった。

「……わたしは、
 この国に尽くしてきた!」

「ええ」

 即答。

「ですから、
 これ以上は
 結構ですわ」

 元重臣は、
 言葉を失った。

「辞表は、
 受理しております」

 穏やかな声。

「どうぞ、
 ご自分の人生を
 お生きください」

 追い出さない。
 怒鳴らない。

 だが――
 居場所は、もうない。

 ――午後。

 官僚の間で、
 小さな噂が立つ。

「宰相は、
 切っているのではない」

「……試しているんだ」

「付いて来られるか、
 どうかを」

 正解だった。

 宰相府の通達は、
 どれも明確で、
 理不尽ではない。

 ただ――
 逃げ道がない。

 成果。
 説明責任。
 数字。

 それらから、
 目を逸らせなくなっただけ。

 ――夕刻。

 ガーラは、
 報告書を見て、
 静かに息を呑んだ。

「……これほど、
 人が減るとは」

「減ったのではありません」

 アヴェンタドールは、
 ペンを置く。

「戻ったのです」

「……何に?」

「本来の場所へ」

 冷たいようで、
 正しい言葉。

「この国は、
 これまで
 “役職”を守るために
 人を置いていました」

 一拍。

「これからは、
 “仕事”のために
 人を置きます」

 ガーラは、
 腹部に手を当てた。

「……この子は、
 大丈夫でしょうか」

 不安ではない。
 責任だ。

「ええ」

 アヴェンタドールは、
 即答する。

「少なくとも」

 一瞬、
 言葉を選ぶ。

「壊れた国は、
 残りません」

 ――夜。

 王宮の外。

 灯りの消えた屋敷から、
 一台の馬車が出ていく。

 元高官。

 その顔には、
 怒りも、
 恨みもない。

 あるのは――
 疲労だけ。

「……ついていけなかったな」

 その呟きは、
 誰にも聞かれなかった。

 王宮の高窓から、
 帝都の夜を見下ろしながら、
 アヴェンタドールは思う。

(これが、
 選別)

(剣を振るうより、
 ずっと残酷で――
 ずっと健全ですわ)

 改革は、
 血を流さない。

 だが――
 確実に、
 国の形を変えていく。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

遊び人の令嬢が目を付けたのは、私の真面目な婚約者でした

おいどん
恋愛
子爵家の令嬢エリーネと伯爵家の次男のノルトが婚約を結んだのは、半年前だった。 真面目で優秀なノルトに相応しい婚約者であろうとするものの、エリーネには自信がなかった。 ある日、遊び人と噂の令嬢べルティーナとノルトが共にいるところを見てしまう。 「真面目クンは壁さえ破っちゃえばこっちのもんだからね〜」 「きっと、彼女の美しさに嫉妬しているのだわ…」 「…今度は、ちゃんと言葉にするから」

婚約破棄されたので公爵令嬢やめます〜私を見下した殿下と元婚約者が膝をつく頃、愛を囁くのは冷酷公爵でした〜

nacat
恋愛
婚約者に裏切られ、蔑まれ、全てを失った公爵令嬢リリアナ。 「あなたのような女、誰が愛すると?」そう言い放った王太子と元友人に嘲られても、彼女は涙を見せなかった。 だが、冷たく美しい隣国の公爵セドリックと出会った瞬間、運命は静かに動き出す。 冷酷と噂された男の腕のなかで、彼女は再び自分を取り戻していく。 そして――彼女を捨てた者たちは、彼女の眩い幸福の前に膝をつく。 「これは、ざまぁを通り越して愛された令嬢の物語。」

婚約破棄された私ですが、領地も結婚も大成功でした

鍛高譚
恋愛
婚約破棄―― それは、貴族令嬢ヴェルナの人生を大きく変える出来事だった。 理不尽な理由で婚約を破棄され、社交界からも距離を置かれた彼女は、 失意の中で「自分にできること」を見つめ直す。 ――守るべきは、名誉ではなく、人々の暮らし。 領地に戻ったヴェルナは、教育・医療・雇用といった “生きるために本当に必要なもの”に向き合い、 誠実に、地道に改革を進めていく。 やがてその努力は住民たちの信頼を集め、 彼女は「模範的な領主」として名を知られる存在へと成confirm。 そんな彼女の隣に立ったのは、 権力や野心ではなく、同じ未来を見据える誠実な領主・エリオットだった。 過去に囚われる者は没落し、 前を向いた者だけが未来を掴む――。 婚約破棄から始まる逆転の物語は、 やがて“幸せな結婚”と“領地の繁栄”という、 誰もが望む結末へと辿り着く。 これは、捨てられた令嬢が 自らの手で人生と未来を取り戻す物語。

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

婚約破棄された令嬢は、ざまぁの先で国を動かす ――元王太子の後悔が届かないほど、私は前へ進みます』

ふわふわ
恋愛
名門アーデン公爵家の令嬢ロザリーは、 王太子エドワードの婚約者として完璧に役目を果たしてきた――はずだった。 しかし彼女に返ってきたのは、 「聖女」と名乗る平民の少女に心酔した王太子からの一方的な婚約破棄。 感情論と神託に振り回され、 これまでロザリーが支えてきた国政はたちまち混乱していく。 けれど、ロザリーは泣かない。縋らない。復讐に溺れもしない。 「では、私は“必要な場所”へ行きますわ」 冷静に、淡々と、 彼女は“正しい判断”と“責任の取り方”だけで評価を積み上げ、 やがて王太子すら手を出せない国政の中枢へ――。 感情で選んだ王太子は静かに失墜し、 理性で積み上げた令嬢は、誰にも代替できない存在になる。 これは、 怒鳴らない、晒さない、断罪しない。 それでも確実に差がついていく、**強くて静かな「ざまぁ」**の物語。 婚約破棄の先に待っていたのは、 恋愛の勝利ではなく、 「私がいなくても国が回る」ほどの完成された未来だった。 ――ざまぁの、そのさらに先へ進む令嬢の物語。

十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。

er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——

この肌に傷をつけた罪、許しません 〜見捨てられた公爵令嬢は、美貌という最強の武器で愛と地位を取り戻す〜

恋せよ恋
恋愛
化粧品研究員の中田ひより(29歳)は、女神の願いを聞き入れ 不慮の事故で公爵令嬢ルクレツィアに転生する。 目覚めた瞬間、待っていたのは冤罪による断罪。 そして、側近に突き飛ばされ肌を傷つけられるという屈辱だった。 「この至宝の肌に傷をつけた罪、高くつきますわよ?」 義弟や王子・側近たちによる理不尽な仕打ちを踏み台に この世界に存在しない究極の美容液を自作し、自分を磨き上げる。 ひと月後の夜会。ルクレツィアが、発光するほどの美貌で現れたとき、 色ボケ男たちの後悔が始まる――。 彼女を軽んじた男を美貌で絶望させる、美容令嬢の華麗なる逆襲劇! 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

処理中です...