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第34話 敵は外にあり
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第34話 敵は外にあり
改革は、
外から見れば――
隙に映る。
ローゼリア王国の改革が始まってから、
わずか十日。
その情報は、
周辺諸国へ、
驚くほど早く届いていた。
「宰相が代わったそうだな」
「しかも、
帝国の女だとか」
「内部は、
相当混乱しているらしい」
隣国の会議室で、
そんな言葉が飛び交う。
――削減。
――辞職。
――制度改変。
それらは、
弱体化の兆候にしか見えない。
「今なら、
条件を押し付けられる」
そう考える者は、
一人ではなかった。
――同日。
ローゼリア王国、宰相府。
アヴェンタドールの机には、
三通の書簡が並んでいた。
「隣国ヴェルク公国」
「北方交易同盟」
「旧来友好国を名乗る小国」
共通点は、
ただ一つ。
「すべて、
“再交渉”ですわね」
穏やかな声。
だが、
内容は穏やかではない。
「関税の引き下げ」
「軍備制限の確認」
「借款条件の見直し」
――どれも、
こちらが弱っていなければ
出てこない要求だ。
「……狙われていますわね」
ガーラが、
静かに言った。
「はい」
アヴェンタドールは、
迷いなく頷く。
「改革とは、
内政です」
一拍。
「ですが、
内政が揺れれば、
必ず外が動きます」
――玉座の間。
緊急会議。
重臣たちの顔に、
緊張が浮かぶ。
「宰相殿……
この要求は、
飲めません」
「軍備制限など、
論外です」
「下手に拒否すれば、
摩擦が……」
意見は、
割れている。
アヴェンタドールは、
静かに立ち上がった。
「――すべて、
拒否します」
一瞬、
誰も声を出せなかった。
「理由は、
一つです」
彼女は、
視線を巡らせる。
「要求の前提が、
間違っている」
「……前提?」
「ええ」
淡々と、
だが断言する。
「我が国は、
弱っていません」
ざわめき。
「整理されただけです」
さらに。
「不要な脂肪を、
削いだだけ」
ガーラが、
はっと息を呑む。
それは――
彼女自身が
捨てたものと同じ言葉だった。
「返書は、
こう書きます」
アヴェンタドールは、
即座に口述する。
「現行条約は、
誠実に履行されている」
「再交渉の必要はない」
「圧力と見なされる行為には、
相応の対応を検討する」
空気が、
一段、冷えた。
「……強気すぎませんか」
誰かが、
恐る恐る言う。
「いいえ」
アヴェンタドールは、
即答する。
「これは、
平常運転です」
そして、
静かに付け加えた。
「改革中だからこそ、
弱気を見せてはいけません」
――夜。
宰相府の執務室。
「……怖くは、
ありませんか」
ガーラが、
ぽつりと尋ねる。
「外を敵に回すこと」
アヴェンタドールは、
書類から目を上げた。
「怖いですわ」
正直な答え。
「ですが」
一拍。
「内を立て直さずに、
外に媚びれば」
視線が、
鋭くなる。
「国は、
必ず滅びます」
ガーラは、
腹部に手を当てる。
「……この子に、
そんな国は、
残せません」
「ええ」
アヴェンタドールは、
頷いた。
「ですから、
敵は――」
二人の視線が、
同時に合う。
「外にあります」
王国は、
守りに入らなかった。
改革の最中であっても。
人が減っていても。
――むしろ。
研ぎ澄まされた刃として、
立ち上がった。
---
次回予告(第35話)
「帝国の影」
外圧の裏に、
かつての因縁が顔を出す――。
---
改革は、
外から見れば――
隙に映る。
ローゼリア王国の改革が始まってから、
わずか十日。
その情報は、
周辺諸国へ、
驚くほど早く届いていた。
「宰相が代わったそうだな」
「しかも、
帝国の女だとか」
「内部は、
相当混乱しているらしい」
隣国の会議室で、
そんな言葉が飛び交う。
――削減。
――辞職。
――制度改変。
それらは、
弱体化の兆候にしか見えない。
「今なら、
条件を押し付けられる」
そう考える者は、
一人ではなかった。
――同日。
ローゼリア王国、宰相府。
アヴェンタドールの机には、
三通の書簡が並んでいた。
「隣国ヴェルク公国」
「北方交易同盟」
「旧来友好国を名乗る小国」
共通点は、
ただ一つ。
「すべて、
“再交渉”ですわね」
穏やかな声。
だが、
内容は穏やかではない。
「関税の引き下げ」
「軍備制限の確認」
「借款条件の見直し」
――どれも、
こちらが弱っていなければ
出てこない要求だ。
「……狙われていますわね」
ガーラが、
静かに言った。
「はい」
アヴェンタドールは、
迷いなく頷く。
「改革とは、
内政です」
一拍。
「ですが、
内政が揺れれば、
必ず外が動きます」
――玉座の間。
緊急会議。
重臣たちの顔に、
緊張が浮かぶ。
「宰相殿……
この要求は、
飲めません」
「軍備制限など、
論外です」
「下手に拒否すれば、
摩擦が……」
意見は、
割れている。
アヴェンタドールは、
静かに立ち上がった。
「――すべて、
拒否します」
一瞬、
誰も声を出せなかった。
「理由は、
一つです」
彼女は、
視線を巡らせる。
「要求の前提が、
間違っている」
「……前提?」
「ええ」
淡々と、
だが断言する。
「我が国は、
弱っていません」
ざわめき。
「整理されただけです」
さらに。
「不要な脂肪を、
削いだだけ」
ガーラが、
はっと息を呑む。
それは――
彼女自身が
捨てたものと同じ言葉だった。
「返書は、
こう書きます」
アヴェンタドールは、
即座に口述する。
「現行条約は、
誠実に履行されている」
「再交渉の必要はない」
「圧力と見なされる行為には、
相応の対応を検討する」
空気が、
一段、冷えた。
「……強気すぎませんか」
誰かが、
恐る恐る言う。
「いいえ」
アヴェンタドールは、
即答する。
「これは、
平常運転です」
そして、
静かに付け加えた。
「改革中だからこそ、
弱気を見せてはいけません」
――夜。
宰相府の執務室。
「……怖くは、
ありませんか」
ガーラが、
ぽつりと尋ねる。
「外を敵に回すこと」
アヴェンタドールは、
書類から目を上げた。
「怖いですわ」
正直な答え。
「ですが」
一拍。
「内を立て直さずに、
外に媚びれば」
視線が、
鋭くなる。
「国は、
必ず滅びます」
ガーラは、
腹部に手を当てる。
「……この子に、
そんな国は、
残せません」
「ええ」
アヴェンタドールは、
頷いた。
「ですから、
敵は――」
二人の視線が、
同時に合う。
「外にあります」
王国は、
守りに入らなかった。
改革の最中であっても。
人が減っていても。
――むしろ。
研ぎ澄まされた刃として、
立ち上がった。
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次回予告(第35話)
「帝国の影」
外圧の裏に、
かつての因縁が顔を出す――。
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