異世界転職 重機を操るインフラクイーン ‐婚約破棄元婚約者 重機で押しつぶします みなさんやっておしまいなさい‐

しおしお

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第6章:黒幕は元婚約者家

21話 証拠が揃い始める

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 証拠が揃い始める

アートランド王国の朝は早い。だが、その清々しい光の中でもアルピーヌ・ルノーの心は晴れなかった。

屋敷を取り巻く妨害は、日に日に露骨になっていた。
資材の遅延、輸送の妨害、家電販売を貶める噂――。
その裏には、必ず“誰かの意思”がある。

アルピーヌは、執務机に広げられた資料の束を前に、静かに目を伏せた。

「……ここまで揃ってくると、偶然とは言えないわね」

そこへ、信頼するメイド長リアンナと、商人ギルドと繋がりを持つ情報収集係(勝手に就任)になっていたクララが小声で入室してくる。

「お嬢様、調査していた件で、新たな証言が入りました」

「どうやら“あの商会”……例の資材供給を止めた商会ですが、裏に貴族家の働きかけがあったと」

リアンナが分厚い封筒を差し出す。
アルピーヌは落ち着いているように見えたが、その指先には冷たい緊張が走っていた。

「開けなさい。クララ、読み上げて」

封を切り、クララが文書を一枚ずつ確認する。
やがてその顔はみるみる青ざめていった。

「お嬢様……これは、ただの商会間トラブルではありません……」

クララは震える声で読む。

> “我らは○○侯爵家より通達を受け、
ルノー家への資材提供を最優先から外した。
『あの女の改革は目立ちすぎる』
『公爵家と張り合うつもりはないが、あの令嬢は危険』
と仰せだった。”



部屋の中の空気が変わった。

リアンナが憤りを抑えきれず噛みしめるように言う。

「つまり……妨害は、貴族家の計画的なもので……?」

アルピーヌは静かに目を閉じ、深く息を吐いた。

「確実性がまだ必要。これはあくまで“証言”の段階よ。
でも――この侯爵家……どこかで聞いたことがあるわ」

そこでクララが、恐る恐る追加書類を差し出した。

「……お嬢様。もう一つ、気になる報告があります」

クララの指が、ある名前の上で止まった。

アルピーヌの瞳が一瞬揺らぐ。

その名前は――彼女がかつて“婚約破棄された家”の名だった。

「……まあ、皮肉な縁ですこと」

アルピーヌは軽く笑った。しかし笑みの奥にあるのは、冷たい光だった。

リアンナは思わず抗議する。

「お嬢様! あの家は、お嬢様を馬鹿にしておいて……さらに妨害まで!」

「感情的になるのは早いわ、リアンナ。でも……」

アルピーヌは指先で机を軽く叩いた。

「状況証拠としては十分。でも法的に追い込むには、彼らが直接関与している決定的な証拠が必要。裏で糸を引いている人間が誰なのか……」

リアンナが息を呑む。

「まさか……元婚約者の――」

「本人というより、その家の“当主”でしょうね。
 婚約話を勝手に進め、勝手に婚約破棄してきた……あの侯爵家の」

クララは眉を寄せながら報告を続けた。

「別の商人からの証言では──
 『ルノー家の改革を止めるためなら多少の金は惜しまない』
 と侯爵家の家令が言っていた、と」

アルピーヌは机上の資料をまとめ、淡々と整理する。

「動機は十分。やり口も粗い。権力を振りかざし、裏から流通を抑えて妨害する……典型的な旧時代の貴族ね」

リアンナが問う。

「お嬢様、この後は……どうされるおつもりですか?」

アルピーヌは椅子にもたれ、静かに言った。

「証拠を集めるわ。
 改革を妨げる理由が“嫉妬と保身”では、国の発展にとって害でしかない」

薄く冷たい笑みが浮かぶ。

「元婚約者家が黒幕だというのなら──
 “理性あるうちに止めておいたほうが良かった”
 と後悔させてあげましょう」

リアンナとクララは鳥肌を立てた。

これはもう、いつもの優しいお嬢様ではない。

“ルノー家の革命令嬢”が本当に怒った時の顔だ。


---

その夜、アルピーヌは異世界ゲートを開き、ひとり地球側のワンルームに戻った。

着替え、台車を片付け、静かにベッドへ腰掛ける。

「元婚約者家……。
 どうしてわざわざ争う道を選んだのかしら。
 私、別に彼らに何も求めていなかったのに」

スマホを手にして小さく息を吐く。

「……ま、いいわ。
 私の改革を止めたいなら、正々堂々と勝負してほしいものね」

通知欄に推しアイドルのライブ告知が届き、彼女は一瞬だけ表情を緩める。

「ライブは来週か……。それまでにこの騒動、片づけないと」

改革と陰謀、そして推し活の両立。

アルピーヌの戦いは、まだ始まったばかりだった。


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