見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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7-4 揺るがない理想と、理想論で終わらない行動

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7-4 揺るがない理想と、理想論で終わらない行動

夜更けの屋敷は静まり返っていた。
書斎のランプが、淡い橙の光で机上を照らしている。

セリカは椅子に腰かけ、手の中のペンを強く握りしめていた。
視線の先には、ノートに書き連ねられた一文。

> 「誰もが安心して眠れる家を。」



それは、サエの救出の夜以来、ずっと心の奥に焼き付いて離れない想いだった。
サエが震える小さな肩を抱いていた感触――あの無力感。
そして、自分の手を握り返したあの瞬間。

(あんな思いをしている子が、サエだけのはずがない……)

胸の奥に、静かに、しかし確かに火がともる。

「……私が動かなければ、誰が動くの?」

セリカは小さくつぶやき、まっすぐ前を見据えた。
その瞳には、幼いながらも貴族の誇りと使命が宿っていた。


---

翌朝。
朝日が差し込む応接間で、セリカは父――ディオール公爵の前に座っていた。

普段なら紅茶を片手に微笑む父も、今は娘の異様な真剣さに押されて言葉を失っていた。

「お父様。お願いがあります。」

セリカの声は落ち着いていたが、その芯には確かな力がこもっていた。

「サエのように、家で苦しんでいる子供たちを助けたいんです。
 法が障害でも、貴族の体裁が邪魔でも、私は諦めません。」

ディオール公爵の瞳がわずかに見開かれる。
娘が、単なる感情で動いていない――それがすぐに分かった。

「……セリカ、簡単なことではないぞ。
 理想だけでは、現実の壁にすぐ打ち砕かれる。」

「分かっています。」

セリカはまっすぐに言葉を重ねた。

「私は“語るだけ”の人間にはなりません。
 行動して、仕組みを作ります。
 だから、力を貸してください。――公爵家の力を。」

その一言に、公爵は深く息を吸い込み、目を閉じた。
そしてゆっくりと頷く。

「……ああ。お前の決意は本物だ。
 ならば父として、貴族として、お前を支えよう。」

「お父様!」

「セリカ、覚えておけ。理想とは“人を救うための剣”であり、“自らを律する鎧”だ。
 お前がその両方を持っている限り、私は背を押そう。」

その言葉に、セリカの胸の奥が熱くなった。
大切な信頼の重みを感じながら、彼女は深く一礼する。

「ありがとうございます……必ず、形にしてみせます。」


---

その日の午後。
セリカはカトレアを自室に呼び寄せた。

「お嬢様、ディオール公爵とはお話を?」

「ええ。協力してくださるわ。」

セリカは微笑んだが、その瞳はすでに次の行動を見据えていた。

「カトレア、私はサエだけじゃなく、他の子供たちも救いたいの。」

「……やはり、そうお考えでしたか。」

カトレアは息を呑み、すぐに姿勢を正した。

「虐待、貧困、孤児。そうした子供たちを守る拠点を作るの。
 ただの慈善ではなく――“未来を築く場所”にしたい。」

セリカの声は熱を帯び、真っ直ぐだった。

「お嬢様なら、きっとやり遂げられます。」
カトレアの顔に微笑が浮かぶ。
「準備と調査は私にお任せください。全力を尽くします。」

二人の視線が交わった瞬間、
まるで誓いのような静かな火花が散った。


---

それからの日々、屋敷の一室が“活動拠点”へと変わっていった。
机の上には報告書、募金の申請書、そして救出予定のリストが並ぶ。

「サエの件をきっかけに、子供たちの相談が増えています。」

「ありがとう、カトレア。すぐに手配を。」

セリカは筆を走らせながら、息を吐く。
目の前に山積みの課題――それでも、彼女の顔には疲れではなく、充実の色があった。


---

数週間後。

「お嬢様、支援対象の子供が十数名に達しました。」
カトレアが報告書を手渡す。

セリカは受け取りながら、ゆっくりと微笑んだ。

「ようやく……“始まり”ね。」

その笑顔には幼さが残っている。
けれど、そこに宿るのは“確かな覚悟”。

「どんな困難があっても、私は立ち止まらない。
 理想を掲げるだけの人間には、絶対にならない。」

窓の外、朝日が昇る。
その光がセリカの金の髪を照らし、まるで新しい時代の幕開けを告げるように輝いていた。


---
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