見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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8-1 サエ

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8-1 サエ

「ここが、あなたの新しいお部屋よ。」

扉を開けた瞬間、サエは息をのんだ。
白いカーテンが風に揺れ、窓から差し込む朝の光が部屋を金色に染めている。
ふかふかのベッド、磨かれた床、机の上には花の入ったガラスの花瓶――。
どれも、今までの生活では考えられないような穏やかな景色だった。

「……夢みたい。」

思わずつぶやいたサエの声は震えていた。
ほんの数日前まで、寒くて暗い家の片隅で、誰にも見向きもされずに暮らしていたのだ。
公爵邸の静けさは、まるで別の世界のようだった。


---

翌朝。
慣れない柔らかな寝具の感触に戸惑いながら、サエは目を覚ました。
眩しい陽光がカーテンの隙間から差し込み、鳥の声が遠くに響いている。
それなのに、胸の奥はなぜか落ち着かない。

(こんなに優しくされたら……夢が終わるのが怖い。)

そんな不安を抱えたまま、廊下に出ると――そこにセリカが立っていた。
彼女は朝の光を背に、まるで天使のように微笑む。

「おはよう、サエ。よく眠れた?」

「え、ええ……ありがとうございます。」
緊張した声で答えるサエに、セリカはそっと手を伸ばし、その手を包み込んだ。

「ここは、あなたの家だと思っていいのよ。もう誰も、あなたを傷つけたりしないわ。」

柔らかな声が、心の奥の氷を少しずつ溶かしていく。
サエは胸の奥がじんわりと熱くなり、小さく頷いた。

「……セリカ。どうして、私にこんなに親切にしてくれるの?」

少し間を置いて、セリカは微笑んだ。

「あなた、本が好きでしょう? あのときのあなたの目、すごく真剣だった。
 あの光を、消したくなかったの。――それにね、私もかつて、自分の居場所を見つけられなかったことがあるの。」

その言葉に、サエは思わず目を見開いた。
自分とはまるで違う世界の人のように思っていたセリカにも、そんな過去があったなんて――。


---

そして、会話の流れでセリカが口にした言葉に、サエは再び息を呑む。

「そうそう、言い忘れてたけれど……私はディオール公爵の娘なの。」

「えっ……公爵令嬢様!?」

驚きで声が裏返るサエを見て、セリカはくすくすと笑った。

「そんなに畏まらないで。私にとっては、あなたは“サエ”よ。
 友達として、学ぶ仲間として接してほしいの。」

「……はい。」
気がつけばサエの口元にも、小さな笑みが浮かんでいた。
彼女の中の恐れが、ほんの少し和らいだ瞬間だった。


---

その後の日々は、目まぐるしい変化に満ちていた。
セリカはサエのために、家庭教師と特別な学習計画を整えた。
最初は文字の読み書きから始まり、次第に算術、歴史、そして科学へ――。

サエの吸収力は驚異的だった。
一度見た文字はすぐに覚え、難解な概念も自分なりに理解しようとする。
ある日、教師のひとりが出した方程式を見事に解いてみせたときには、
部屋の空気が一瞬止まったほどだった。

「すごい……あなた、本当に初めて学んだの?」
教師の問いに、サエは小さく頷くだけ。
でも、その頬は少しだけ赤く染まっていた。


---

夕方。
書斎の窓から差し込む光が、サエの髪を柔らかく照らしていた。
机の上の本に夢中で、彼女は時間を忘れている。

扉の外からその姿を見つめていたセリカは、そっと微笑んだ。

(あの子の目……生きることを取り戻した目をしてる。)

胸の奥が温かくなり、セリカは静かに呟いた。

「サエ。あなたの未来は、もう誰にも奪わせない。」


---
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