見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

文字の大きさ
38 / 108

8-4節 新たな未来への決意

しおりを挟む
8-4節 新たな未来への決意

夕暮れの風が、ディオール公爵家の庭園をやさしく撫でていた。
黄金色の光が芝を染め、風に揺れる花々の間を、小鳥たちが軽やかに飛び交う。

その静かな光景の中で、セリカはひとりベンチに腰を下ろしていた。
瞳の奥には、どこか遠くを見つめるような光がある。

サエを救い出し、彼女が見違えるほどに成長していく姿を見守る――
それは、セリカにとってこの上ない喜びだった。
けれど、その幸福の陰で、胸の奥にひとつの思いが芽生え始めていた。

「サエだけを救って満足していては、だめなのよね……」

彼女は小さくつぶやく。
この領地には、まだ貧困や環境によって学ぶ機会を奪われている子どもたちが数えきれないほどいる。
その現実を、セリカは見過ごすことができなかった。


---

「お嬢様、何かお考えごとですか?」

背後から静かに声をかけたのは、いつものように控えていたドライドだった。
セリカは振り返り、穏やかに微笑む。

「ええ、少しね。……ドライド、私は考えていたの。
 サエのように、学ぶ意志と才能を持つ子どもたちが、もっとこの領地にいるはずよ。
 だから――私は、ディオール領全体に学校を作りたいの。」

ドライドの目がわずかに見開かれた。
セリカの言葉はまっすぐで、曇りのない強さを宿していた。

「お嬢様……それは、容易なことではありません。
 予算の確保、教師の育成、そして建設にかかる時間も膨大です。」

セリカは静かに頷いた。
だが、その瞳は決して揺らがなかった。

「わかっているわ。けれど、私はやるの。
 貴族としてではなく、一人の人間として――この地に生まれた子どもたちに、“学ぶ権利”を届けたいの。
 それが、今の私にできることだから。」

一瞬、風が吹き抜け、金の髪がふわりと揺れた。
その姿に、ドライドは胸の奥に熱を感じた。
どんな困難にも屈しない、あの日の少女の面影がそこにあった。

「……お嬢様の志、必ず成し遂げてみせましょう。」
彼は深く頭を下げると、真剣な声で続けた。
「まずは、領地の中でも教育の届いていない村々から順に、調査を始めましょう。
 必要な資材や人材の確保は、私が責任を持って進めます。」

セリカは目を細め、嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう、ドライド。あなたがいてくれるなら、どんな壁も越えられる気がするわ。」


---

数日後、公爵家の会議室には信頼する仲間たちが集められた。
ゲオルグ校長、マリア、そしてサエ――
セリカが信じ、歩んできた道を共にしてきた面々だ。

セリカは資料を机に並べ、真剣な表情で語り始めた。

「私は、ディオール領の各地に“新しい学校”を建てようと思っています。
 貴族も平民も関係なく、誰もが平等に学べる場所を。
 ……皆の力を、貸してくれませんか?」

その場に、しばしの沈黙が流れた。
だがすぐに、ゲオルグ校長が笑みを浮かべて立ち上がる。

「お嬢様、まことに素晴らしい構想です!
 教育の光こそ、国を変える力。私も全身全霊をもって協力いたします。」

マリアもまた、胸に手を当ててうなずいた。
「新しい学校の教師育成や、教育方針の整備は私にお任せください。
 セリカ様の理念を、形にしてみせます。」

その言葉に、セリカの瞳が柔らかく光る。
「ありがとう……本当に、ありがとう。
 皆がいるから、私はここまで来られたの。」


---

ふと、セリカはサエの方へと目を向けた。
机の端で、サエはまだ緊張した面持ちで座っている。

「サエ。」
名を呼ばれると、サエはびくりと顔を上げた。

「あなたの学びの姿勢は、たくさんの子どもたちの希望になるわ。
 もしよければ、新しい学校で子どもたちに“学ぶ楽しさ”を教えてあげてくれない?」

サエは一瞬言葉を失った。
けれど、すぐにその瞳がまっすぐに輝きを宿す。

「……はい。私、やってみたいです。
 セリカ様のように、私も誰かの力になれる人になりたい。」

その言葉を聞いた瞬間、セリカの胸に温かい光が灯った。
“この子はもう、自分の道を見つけたのだ”と――。


---

その夜、会議を終えたあと、
セリカは自室のバルコニーで星空を見上げていた。
夜風が頬を撫で、遠くで鐘の音が鳴る。

「……きっと、大変な道になるわね。」
彼女は小さく笑う。
けれどその声には、不思議なほどの落ち着きがあった。

> 「大丈夫。もう一人じゃない。
 みんなとなら、きっと未来を変えられる。」



そう呟いた時、遠くの空で流れ星がひとつ光った。
セリカはその光を見つめながら、胸の中で新たな決意を刻む。

> ――この手で、子どもたちの未来を照らす灯をともすのだと。





しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄され追放されましたが、隣国の氷の公爵様に“白い結婚”を提案されましたので、心穏やかに幸せになりますわ

鷹 綾
恋愛
婚約破棄されたその日、私は“追放令”も同時に宣告された。 王太子エドモンド殿下曰く、 「君のように冷たい女はいらない。真実の愛は聖女ローザだ」──と。 ……それなら結構ですわ。 捨ててくださって、ありがとうございます。 行く宛もなく王都を去った私を拾ったのは、 冷徹と噂される若き宰相代理アレクシス様。 「俺と“白い結婚”をしないか。  互いの自由を侵さない、契約だけの結婚だ」 恋愛感情は一切なし。 ――そんなはずだったのに。 料理を褒めてくれる優しい声。 仕事帰りにかけてくれる「ただいま」。 私の手をそっと包む温もり。 気づけば、契約のはずの彼との距離が、少しずつ近づいていく。 そんな折──王太子と偽聖女ローザが私を“罪人”に仕立て上げ、 祝福の儀の場で公開断罪しようと企む。 「セレナに触れるな。……彼女は、俺の妻だ」 アレクシス様が壇上で剣を抜いた瞬間、 私の世界は大きく動き出した。 偽りの聖女は暴かれ、王太子は没落。 追放された令嬢の“ざまぁ”が王都を駆け巡る中、 契約で始まった白い結婚は――本物の夫婦の誓いへと変わっていく。 これは、 捨てられた令嬢が“本当の幸せ”をつかみ取る、 大逆転のラブストーリー。 ---

悪役だから仕方がないなんて言わせない!

音無砂月
恋愛
マリア・フォン・オレスト オレスト国の第一王女として生まれた。 王女として政略結婚の為嫁いだのは隣国、シスタミナ帝国 政略結婚でも多少の期待をして嫁いだが夫には既に思い合う人が居た。 見下され、邪険にされ続けるマリアの運命は・・・・・。

婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします

たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。 荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。 「この猫に構うな。人間嫌いだから」 冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。 猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。

ゲームには参加しません! ―悪役を回避して無事逃れたと思ったのに―

冬野月子
恋愛
侯爵令嬢クリスティナは、ここが前世で遊んだ学園ゲームの世界だと気づいた。そして自分がヒロインのライバルで悪役となる立場だと。 のんびり暮らしたいクリスティナはゲームとは関わらないことに決めた。設定通りに王太子の婚約者にはなってしまったけれど、ゲームを回避して婚約も解消。平穏な生活を手に入れたと思っていた。 けれど何故か義弟から求婚され、元婚約者もアプローチしてきて、さらに……。 ※小説家になろう・カクヨムにも投稿しています。

転生令嬢はのんびりしたい!〜その愛はお断りします〜

咲宮
恋愛
私はオルティアナ公爵家に生まれた長女、アイシアと申します。 実は前世持ちでいわゆる転生令嬢なんです。前世でもかなりいいところのお嬢様でした。今回でもお嬢様、これまたいいところの!前世はなんだかんだ忙しかったので、今回はのんびりライフを楽しもう!…そう思っていたのに。 どうして貴方まで同じ世界に転生してるの? しかも王子ってどういうこと!? お願いだから私ののんびりライフを邪魔しないで! その愛はお断りしますから! ※更新が不定期です。 ※誤字脱字の指摘や感想、よろしければお願いします。 ※完結から結構経ちましたが、番外編を始めます!

転生令嬢、シスコンになる ~お姉様を悪役令嬢になんかさせません!~

浅海 景
恋愛
物心ついた時から前世の記憶を持つ平民の子供、アネットは平凡な生活を送っていた。だが侯爵家に引き取られ母親違いの姉クロエと出会いアネットの人生は一変する。 (え、天使?!妖精?!もしかしてこの超絶美少女が私のお姉様に?!) その容姿や雰囲気にクロエを「推し」認定したアネットは、クロエの冷たい態度も意に介さず推しへの好意を隠さない。やがてクロエの背景を知ったアネットは、悪役令嬢のような振る舞いのクロエを素敵な令嬢として育て上げようとアネットは心に誓う。 お姉様至上主義の転生令嬢、そんな妹に絆されたクーデレ完璧令嬢の成長物語。 恋愛要素は後半あたりから出てきます。

婚約破棄された令嬢は“図書館勤務”を満喫中

かしおり
恋愛
「君は退屈だ」と婚約を破棄された令嬢クラリス。社交界にも、実家にも居場所を失った彼女がたどり着いたのは、静かな田舎町アシュベリーの図書館でした。 本の声が聞こえるような不思議な感覚と、真面目で控えめな彼女の魅力は、少しずつ周囲の人々の心を癒していきます。 そんな中、図書館に通う謎めいた青年・リュカとの出会いが、クラリスの世界を大きく変えていく―― 身分も立場も異なるふたりの静かで知的な恋は、やがて王都をも巻き込む運命へ。 癒しと知性が紡ぐ、身分差ロマンス。図書館の窓辺から始まる、幸せな未来の物語。

【完結】精霊姫は魔王陛下のかごの中~実家から独立して生きてこうと思ったら就職先の王子様にとろとろに甘やかされています~

吉武 止少
恋愛
ソフィアは小さい頃から孤独な生活を送ってきた。どれほど努力をしても妹ばかりが溺愛され、ないがしろにされる毎日。 ある日「修道院に入れ」と言われたソフィアはついに我慢の限界を迎え、実家を逃げ出す決意を固める。 幼い頃から精霊に愛されてきたソフィアは、祖母のような“精霊の御子”として監視下に置かれないよう身許を隠して王都へ向かう。 仕事を探す中で彼女が出会ったのは、卓越した剣技と鋭利な美貌によって『魔王』と恐れられる第二王子エルネストだった。 精霊に悪戯される体質のエルネストはそれが原因の不調に苦しんでいた。見かねたソフィアは自分がやったとバレないようこっそり精霊を追い払ってあげる。 ソフィアの正体に違和感を覚えたエルネストは監視の意味もかねて彼女に仕事を持ち掛ける。 侍女として雇われると思っていたのに、エルネストが意中の女性を射止めるための『練習相手』にされてしまう。 当て馬扱いかと思っていたが、恋人ごっこをしていくうちにお互いの距離がどんどん縮まっていってーー!? 本編は全42話。執筆を終えており、投稿予約も済ませています。完結保証。 +番外編があります。 11/17 HOTランキング女性向け第2位達成。 11/18~20 HOTランキング女性向け第1位達成。応援ありがとうございます。

処理中です...