見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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10-5 金融業者への逆襲と破滅への罠

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10-5 金融業者への逆襲と破滅への罠

 悪は、簡単には消えない。

 ――セリカが領内から追放したはずの悪徳金融業者たちは、しばらくの沈黙の後、再び動き出した。
 今度は領地の外に拠点を移し、裏で密かにディオール領の商人や労働者、さらには貧しい農民にまで接触を始めたのだ。

「借金があるなら、手を貸そう。前よりも優しい条件だ」
「今回は安全だ。ディオール家の監視の目も届かない」

 そんな甘い囁きで、人々の心を再び絡め取っていった。
 そして数日も経たぬうちに、被害の報告がセリカのもとへ次々と届く。

 書斎で報告書を受け取ったセリカは、眉をひそめた。
「……彼ら、まだ諦めていなかったのね」

 ドライドが静かにうなずく。
「お嬢様、連中は利益のためならどんな手でも使う連中です。こちらが封じても、次の手を打ってきます」

「わかってるわ。でも――」
 セリカは瞳を細めた。
「“正義の名を借りた追放”だけでは、彼らを根絶できない。今度こそ、完全に息の根を止めるわ」

 その声には、冷たい決意が宿っていた。


---

 その夜。
 ディオール邸の会議室に、セリカ、ドライド、カトレアが集まった。

 地図の上には、金融業者たちの新たな活動拠点が赤い印で示されている。
 セリカは立ち上がり、指先でその一点をなぞった。

「今度は“狩られる側”になってもらいましょう」

 カトレアが目を細めた。
「つまり、彼らを罠に――?」

「ええ。領内で信頼できる商人たちに協力してもらうわ。あえて連中の“甘い誘い”に乗って、彼らを引きずり出す」

 ドライドが頷く。
「お嬢様の考え通りに動けば、彼らの違法行為はすべて“自白”として記録されますな」

 セリカは静かに微笑んだ。
「ええ――今回は、彼ら自身の欲望で破滅してもらうの」


---

 数日後、作戦が始まった。
 セリカの信頼を得た数人の商人たちは、わざと金融業者たちの誘いに応じるふりをして、再び“融資契約”を結んだ。

 だが、以前と決定的に違うのは――
 彼らの懐には、セリカが用意した**魔法記録装置(マギア・コーダー)**が仕込まれていたことだった。

「返済が一日でも遅れたら、担保は全部もらう。それが契約だ」
「はっはっは、何を怯える? これでも前より“優しい条件”なんだぜ?」

 悪徳業者たちは、自分たちが再び商人を支配できると信じて疑わなかった。
 その高慢な笑い声が、魔具に克明に刻まれていく。


---

 数週間が経つ頃には、証拠は山のように集まっていた。
 契約書、書簡、録音。
 彼らの不正は、もう言い逃れできないほど明確だった。

 セリカは机の上の資料を前に、冷静に言った。
「準備は整ったわ。次は“審判”の番ね」


---

 その日。
 領主邸の大広間には、金融業者たちが呼び出されていた。

 オズワルドを筆頭に、数名の業者が堂々と現れる。
 彼らは相変わらず豪奢な服を着て、金の指輪を光らせながら、余裕の笑みを浮かべていた。

「また私どもを呼びつけるとは、ディオール家もずいぶんお暇なことで」
「そうだ、まさか、前のことでまだ恨みでも?」

 セリカは、彼らの挑発に一切表情を変えなかった。
 代わりに、カトレアが前へ出て机に分厚い書類を置く。

「これが、あなたたちの最近の契約記録です」

 オズワルドは鼻で笑った。
「はっ、また証拠だの調査だの。そんな紙切れで俺たちを――」

 その時、室内に淡い光が満ちた。
 魔法記録装置が起動し、声が響き渡る。

> 『返済が遅れたら、担保は全部もらう。それが契約だ』
『ははっ、これでも前より優しい条件だ』



 自分の声だった。
 オズワルドの顔が真っ青になる。

「な……!? こ、これは……!」

 セリカは静かに立ち上がり、言葉を重ねた。
「これは“あなたたち自身”の発言です。違法契約、強要、搾取――。領法に照らしても、十分に処罰の対象です」

「ま、待て! 誤解だ! それは――」

「誤解? では、この契約書も誤解なのかしら?」
 セリカはもう一枚の書類を差し出す。
 そこには、オズワルドの署名と印章がくっきりと押されていた。

 その瞬間、オズワルドの膝が崩れた。

「お前たちは……貴族のくせに、何をしてやがる……!」
「貴族だからこそ、秩序を守る義務があるのよ」

 セリカの声は、静かで冷たく、それでいて絶対的な威厳を帯びていた。

「――領主代理セリカ・ディオールの名において命じます。
 あなたたちの商業権を剥奪し、領外追放とします。二度とこの地に足を踏み入れぬように」

 広間に、静寂が落ちた。
 オズワルドたちは誰一人として言い返すことができなかった。

 彼らが去った後、残された人々は静かに息をついた。
 その沈黙の中で、セリカはそっと目を閉じる。

「これで……ようやく終わったわね」


---

 その後、セリカは被害に遭った商人や民に対して、救済策を即座に発表した。
 不当な利子は全て免除され、奪われた財産の一部は金融業者たちの没収資産から補填された。
 領民たちは涙ながらに感謝の言葉を口にした。

「お嬢様、本当に……ありがとうございます!」
「ディオール領に生まれて良かった……!」

 ドライドが微笑みながら言った。
「お嬢様、これで本当の意味で、領地の平和が戻りましたな」

 セリカは穏やかに頷く。
「ええ。けれど、またいつか新しい“闇”が現れるでしょう。
 そのときも――私は、皆を守るわ」

 窓から差し込む陽光が、彼女の金の髪を照らした。
 それは、正義と希望の光だった。


---

 こうして、ディオール領は再び平穏を取り戻した。
 人々の心には、一つの言葉が残る。

> 「あの方がいる限り、私たちは騙されない」



 セリカ・ディオール――
 彼女の名は、正義を貫く令嬢として、領内に永く語り継がれていった。


---
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