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11-4 婿を取らせる方針の宣言
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第11章 11-4 婿を取らせる方針の宣言
リュミエール王国・ディオール公爵邸。
磨き上げられた大理石の床に、王家の紋章を刻んだ馬車の紋章旗が差し込む午後の光を反射していた。
王室の使者は緊張の面持ちで応接室の椅子に腰掛け、目の前のディオール公爵夫妻を見据えていた。
――この返答次第で、王国の未来が変わるかもしれない。
使者はそう思わずにはいられなかった。
なにせ今回の件は、王太子アコード殿下からの再婚約の正式な申し出なのだ。
破棄からわずか一年。殿下自らが誠意をもって再び求めている。
常識的に考えれば、これ以上の名誉はない。
ディオール家が承諾するのは当然――誰もがそう思っていた。
---
けれど、ディオール公爵は、そんな空気を穏やかに断ち切るように口を開いた。
「王室からのご提案、まことに光栄に存じます。アコード殿下のご厚意も、この上なくありがたいことです。」
その声は落ち着いており、威厳と知性を感じさせた。
しかし、そのあとに続いた言葉は、誰も予想していなかった。
「――ですが、我が家には、ひとつ明確な方針がございます。」
使者がわずかに眉をひそめる。
公爵夫人が柔らかく微笑みながら、その意を継いだ。
「我が娘、セリカはただの令嬢ではございません。
彼女はこのディオール領の未来そのもの。既に領地運営に関わり、
多くの民の信頼を集めております。
ゆえに――我が家から、娘を手放すことはできません。」
使者の背筋がわずかに強張った。
公爵夫人の言葉は、穏やかだが一切の迷いがなかった。
それは単なる親の情ではない。
ディオール家という“家”が持つ、領主としての矜持の表れだった。
---
「……それでは、王太子殿下の申し出を、お断りになると?」
おそるおそる問いかけた使者に、公爵は頷いた。
「はい。王室の栄誉は重々承知しております。
ですが、それ以上に我々は、この領地を守る義務を負っております。
セリカの才はこの地の礎です。
彼女を王都に出すことは、この領の心臓を引き抜くに等しい。」
静かながらも重い言葉。
使者の喉が小さく鳴る音だけが、応接室に響いた。
公爵はさらに続けた。
「そのため、我が家は方針を決めました。
セリカには、婿を取らせることにいたします。」
その瞬間、使者の目が大きく見開かれた。
「……婿を……取らせる、でございますか?」
思わず聞き返す声が、わずかに震えていた。
貴族社会において“婿入り”とは、家の主導権を女性側が握る形。
それも王家からの婚約を断ってまで選ぶとは――まさに前代未聞の宣言だった。
公爵夫人が静かに微笑む。
「ええ。セリカがこの地を継ぎ、守り続けるためです。
彼女はまだ幼いですが、すでに領民から“次代の賢公”と呼ばれております。
彼女にふさわしい伴侶を、いずれ私たちの方から迎えるつもりです。」
「それは……まるで、彼女を一つの王家のように扱うおつもりで?」
思わず漏れた使者の言葉に、公爵は淡く笑った。
「はは、それもあながち間違いではありません。
ディオール領はリュミエール王国の一部でありながら、
この地の発展は王都の命脈をも支えています。
彼女が婿を取り、共にこの地を築いていく――
それこそが、最も現実的な“未来への投資”なのです。」
---
その言葉には、決して反論できない説得力があった。
使者はもはや何も言えず、ただその場で深く息を吐くしかなかった。
公爵は静かに立ち上がり、胸に手を当てて一礼した。
「アコード殿下には、まことに申し訳なく思っております。
しかし、我が家の決断は揺るぎません。
この地にとって、そして娘にとって――これが最善なのです。」
その背筋には、一片の迷いもなかった。
彼は“臣下”である前に、一人の“父”であり、領主であった。
夫人も立ち上がり、使者に頭を下げた。
「どうか、王室にもご理解をお願い申し上げます。
我々は敵意を持っているわけではございません。
ただ、娘を手放さぬという決意を――どうかお察しください。」
使者は立ち上がり、深く一礼した。
その瞳には、理解と敬意の光が宿っていた。
「……承知いたしました。
ディオール家のご決意、確かにお預かりいたします。
殿下にも、そのままお伝えいたしましょう。」
---
その日の夕刻。
“ディオール家、娘に婿を取らせる方針を正式に宣言”――
という知らせが、王都中に広がった。
「婿を取るだと!?」「あの小さな令嬢が、家を継ぐのか?」
貴族たちは驚き、噂が瞬く間に広がる。
しかし、ディオール家の決定を非難する声は少なかった。
それだけ、この家の威信と影響力が絶対的だったからだ。
---
その夜。
セリカは父の書斎に呼ばれ、公爵からこの方針を告げられた。
幼いながらも、その瞳は静かに光っていた。
「お父様。私は……ここにいても、いいのですね?」
「もちろんだ、セリカ。
この地を愛し、導いていけるのはお前だけだ。」
セリカは小さく頷き、微笑んだ。
まだ幼いその手が、胸の前でぎゅっと握られる。
――自分は、この領地と共に生きる。
彼女の中で、未来の灯が小さく燃え始めていた。
---
リュミエール王国・ディオール公爵邸。
磨き上げられた大理石の床に、王家の紋章を刻んだ馬車の紋章旗が差し込む午後の光を反射していた。
王室の使者は緊張の面持ちで応接室の椅子に腰掛け、目の前のディオール公爵夫妻を見据えていた。
――この返答次第で、王国の未来が変わるかもしれない。
使者はそう思わずにはいられなかった。
なにせ今回の件は、王太子アコード殿下からの再婚約の正式な申し出なのだ。
破棄からわずか一年。殿下自らが誠意をもって再び求めている。
常識的に考えれば、これ以上の名誉はない。
ディオール家が承諾するのは当然――誰もがそう思っていた。
---
けれど、ディオール公爵は、そんな空気を穏やかに断ち切るように口を開いた。
「王室からのご提案、まことに光栄に存じます。アコード殿下のご厚意も、この上なくありがたいことです。」
その声は落ち着いており、威厳と知性を感じさせた。
しかし、そのあとに続いた言葉は、誰も予想していなかった。
「――ですが、我が家には、ひとつ明確な方針がございます。」
使者がわずかに眉をひそめる。
公爵夫人が柔らかく微笑みながら、その意を継いだ。
「我が娘、セリカはただの令嬢ではございません。
彼女はこのディオール領の未来そのもの。既に領地運営に関わり、
多くの民の信頼を集めております。
ゆえに――我が家から、娘を手放すことはできません。」
使者の背筋がわずかに強張った。
公爵夫人の言葉は、穏やかだが一切の迷いがなかった。
それは単なる親の情ではない。
ディオール家という“家”が持つ、領主としての矜持の表れだった。
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「……それでは、王太子殿下の申し出を、お断りになると?」
おそるおそる問いかけた使者に、公爵は頷いた。
「はい。王室の栄誉は重々承知しております。
ですが、それ以上に我々は、この領地を守る義務を負っております。
セリカの才はこの地の礎です。
彼女を王都に出すことは、この領の心臓を引き抜くに等しい。」
静かながらも重い言葉。
使者の喉が小さく鳴る音だけが、応接室に響いた。
公爵はさらに続けた。
「そのため、我が家は方針を決めました。
セリカには、婿を取らせることにいたします。」
その瞬間、使者の目が大きく見開かれた。
「……婿を……取らせる、でございますか?」
思わず聞き返す声が、わずかに震えていた。
貴族社会において“婿入り”とは、家の主導権を女性側が握る形。
それも王家からの婚約を断ってまで選ぶとは――まさに前代未聞の宣言だった。
公爵夫人が静かに微笑む。
「ええ。セリカがこの地を継ぎ、守り続けるためです。
彼女はまだ幼いですが、すでに領民から“次代の賢公”と呼ばれております。
彼女にふさわしい伴侶を、いずれ私たちの方から迎えるつもりです。」
「それは……まるで、彼女を一つの王家のように扱うおつもりで?」
思わず漏れた使者の言葉に、公爵は淡く笑った。
「はは、それもあながち間違いではありません。
ディオール領はリュミエール王国の一部でありながら、
この地の発展は王都の命脈をも支えています。
彼女が婿を取り、共にこの地を築いていく――
それこそが、最も現実的な“未来への投資”なのです。」
---
その言葉には、決して反論できない説得力があった。
使者はもはや何も言えず、ただその場で深く息を吐くしかなかった。
公爵は静かに立ち上がり、胸に手を当てて一礼した。
「アコード殿下には、まことに申し訳なく思っております。
しかし、我が家の決断は揺るぎません。
この地にとって、そして娘にとって――これが最善なのです。」
その背筋には、一片の迷いもなかった。
彼は“臣下”である前に、一人の“父”であり、領主であった。
夫人も立ち上がり、使者に頭を下げた。
「どうか、王室にもご理解をお願い申し上げます。
我々は敵意を持っているわけではございません。
ただ、娘を手放さぬという決意を――どうかお察しください。」
使者は立ち上がり、深く一礼した。
その瞳には、理解と敬意の光が宿っていた。
「……承知いたしました。
ディオール家のご決意、確かにお預かりいたします。
殿下にも、そのままお伝えいたしましょう。」
---
その日の夕刻。
“ディオール家、娘に婿を取らせる方針を正式に宣言”――
という知らせが、王都中に広がった。
「婿を取るだと!?」「あの小さな令嬢が、家を継ぐのか?」
貴族たちは驚き、噂が瞬く間に広がる。
しかし、ディオール家の決定を非難する声は少なかった。
それだけ、この家の威信と影響力が絶対的だったからだ。
---
その夜。
セリカは父の書斎に呼ばれ、公爵からこの方針を告げられた。
幼いながらも、その瞳は静かに光っていた。
「お父様。私は……ここにいても、いいのですね?」
「もちろんだ、セリカ。
この地を愛し、導いていけるのはお前だけだ。」
セリカは小さく頷き、微笑んだ。
まだ幼いその手が、胸の前でぎゅっと握られる。
――自分は、この領地と共に生きる。
彼女の中で、未来の灯が小さく燃え始めていた。
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