見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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13-1 アコード王子の再婚約への策略

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13-1 アコード王子の再婚約への策略

 アコード王子は書斎の窓辺に立ち、ゆっくりと息を吐いた。
 夜の帳が降りる王都は静まり返り、遠くで灯る街灯の光が、揺れる炎のようにぼんやりと瞬いている。

 ――拒絶された。それでも、終わりではない。

 自らそう呟いた声は、空虚なはずの部屋の中に妙に響いた。
 ディオール家からの返答は冷静で、隙がなかった。
 だが、王子にとってセリカは、もはや“ただの公爵令嬢”ではなかった。

 四歳にして領地を繁栄へ導いた少女。
 誰もが笑って信じようとしなかった奇跡を、彼女は現実にしてみせた。
 その知恵と行動力は、すでにひとつの国家を動かすほどの影響力を持っている。

 ――彼女は、王妃にふさわしい。
 それも、血筋や政治ではなく、真に国を導く“王妃”として。

 アコードは机に置かれた地図を見つめた。
 ディオール領を中心に、新しく開かれた街道や農地が広がり、そこに描かれた小さな印は、どれもセリカが関与した改革の証だった。

「……彼女を再び迎え入れるには、私自身が変わらなければならない」

 アコードは、己の中で燃え続ける未練を、覚悟へと変えた。

 かつて、彼は幼いセリカを“まだ子供”と切り捨てた。
 その軽率な判断が、今の彼にとって最大の痛みであり、戒めだった。
 再び彼女の隣に立つには、かつての過ちを償い、王としてふさわしい姿を示さねばならない。

 その夜、彼は筆を取り、詳細な計画書を書き始めた。
 第一段階――ディオール領の視察。
 第二段階――改革への支援策の立案。
 第三段階――ディオール家との対話の再開。
 全ては、彼女の信頼を取り戻すための道筋だった。


---

 翌朝。

 アコード王子は父王に謁見を求めた。

「ディオール領の現状を視察したいのです。
 彼女の成したことをこの目で見て、王国として支援できることを考えたい」

 王の目が鋭く光った。
 だが、その奥にあったのは、息子の成長を見守る父としてのまなざしだった。

「よかろう。……あの公爵家に、もう一度学ぶつもりで行け」

「はい、陛下」

 その言葉に、アコードは深く頭を下げた。
 この視察は、単なる政治的なものではない。
 彼にとっては、過去と向き合うための巡礼でもあった。


---

 数日後、王家の使節団を率いたアコード王子はディオール領に到着した。

 道中の村々には、活気があった。
 農地では若い農夫たちが新しい農具を手に働き、道端には小さな子どもたちが「勉強に行ってきます」と笑顔で駆けていく。
 その光景は、王都では見られない“生きた改革”だった。

 案内役の役人が誇らしげに語る。

「この辺りは、セリカ様のご提案で新しい輪作を導入いたしました。土壌が休み、作物の質が上がりました」

 王子は馬を止め、畑に目を向けた。
 緑の波のように広がる作物の列、その一つひとつが、人々の努力と知恵の象徴に見えた。

「……これを、彼女が」

 王子の声は驚きと尊敬に満ちていた。
 幼い少女がここまでの仕組みを作り上げたこと――それは、もはや奇跡という言葉では足りない。


---

 さらに彼は、セリカが設立した学園を訪れた。
 そこでは平民と貴族の子どもたちが同じ机を並べ、互いに学び合っていた。

「知識に身分は関係ありません。学びたい者が学べるように――セリカ様のお考えです」

 教師の言葉に、アコードは深く頷いた。
 教室の窓から差し込む光の中、子どもたちの瞳がきらめいていた。
 彼女の作り出したものは、ただの制度ではない。未来そのものだった。


---

 視察を終え、王子は宿舎で夜を迎えた。
 ルーカスが温かい茶を差し出す。

「殿下、ディオール領はいかがでしたか」

 アコードは少し微笑んだ。

「……驚いた。どこへ行っても、彼女の足跡がある。
 彼女が王妃になれば、リュミエール王国は間違いなく変わるだろう」

「ですが、ディオール家は“婿を取る”方針を変える気配がありません」

「わかっている」
 アコードはカップを置き、夜空を見上げた。
 星々が静かに瞬く。その光は、まるでセリカの未来を示すようだった。

「ならば、私は変わるしかない。
 彼女が選ぶ未来に、私が必要だと思えるように」

 その言葉には、かつての幼さはなかった。
 王子の瞳に宿るのは、失ったものへの未練ではなく、再び並び立つための覚悟だった。


---

 翌朝。

「殿下、次はどうなさるおつもりで?」とルーカスが尋ねた。

 アコードは立ち上がり、真剣な表情で答えた。

「学んだことを、王都に持ち帰る。
 この国の教育と産業を、ディオール領と肩を並べるまで引き上げるんだ。
 ――それが、再び彼女と向き合うための第一歩だ」

 ルーカスは深く一礼した。

「殿下。今のそのお姿こそ、彼女にふさわしい王子です」

 アコードは微笑んだ。
 それは決意の微笑みだった。

 ――彼女の導いた未来を、この国全体へ。
 その時こそ、再び並び立てる日が来る。

 まだ幼い“聖女のような令嬢”に対し、王子は初めて本当の意味で恋をしたのかもしれない。
 だがその恋は、己を磨くための“光”へと姿を変えようとしていた。
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