57 / 108
13-1 アコード王子の再婚約への策略
しおりを挟む
13-1 アコード王子の再婚約への策略
アコード王子は書斎の窓辺に立ち、ゆっくりと息を吐いた。
夜の帳が降りる王都は静まり返り、遠くで灯る街灯の光が、揺れる炎のようにぼんやりと瞬いている。
――拒絶された。それでも、終わりではない。
自らそう呟いた声は、空虚なはずの部屋の中に妙に響いた。
ディオール家からの返答は冷静で、隙がなかった。
だが、王子にとってセリカは、もはや“ただの公爵令嬢”ではなかった。
四歳にして領地を繁栄へ導いた少女。
誰もが笑って信じようとしなかった奇跡を、彼女は現実にしてみせた。
その知恵と行動力は、すでにひとつの国家を動かすほどの影響力を持っている。
――彼女は、王妃にふさわしい。
それも、血筋や政治ではなく、真に国を導く“王妃”として。
アコードは机に置かれた地図を見つめた。
ディオール領を中心に、新しく開かれた街道や農地が広がり、そこに描かれた小さな印は、どれもセリカが関与した改革の証だった。
「……彼女を再び迎え入れるには、私自身が変わらなければならない」
アコードは、己の中で燃え続ける未練を、覚悟へと変えた。
かつて、彼は幼いセリカを“まだ子供”と切り捨てた。
その軽率な判断が、今の彼にとって最大の痛みであり、戒めだった。
再び彼女の隣に立つには、かつての過ちを償い、王としてふさわしい姿を示さねばならない。
その夜、彼は筆を取り、詳細な計画書を書き始めた。
第一段階――ディオール領の視察。
第二段階――改革への支援策の立案。
第三段階――ディオール家との対話の再開。
全ては、彼女の信頼を取り戻すための道筋だった。
---
翌朝。
アコード王子は父王に謁見を求めた。
「ディオール領の現状を視察したいのです。
彼女の成したことをこの目で見て、王国として支援できることを考えたい」
王の目が鋭く光った。
だが、その奥にあったのは、息子の成長を見守る父としてのまなざしだった。
「よかろう。……あの公爵家に、もう一度学ぶつもりで行け」
「はい、陛下」
その言葉に、アコードは深く頭を下げた。
この視察は、単なる政治的なものではない。
彼にとっては、過去と向き合うための巡礼でもあった。
---
数日後、王家の使節団を率いたアコード王子はディオール領に到着した。
道中の村々には、活気があった。
農地では若い農夫たちが新しい農具を手に働き、道端には小さな子どもたちが「勉強に行ってきます」と笑顔で駆けていく。
その光景は、王都では見られない“生きた改革”だった。
案内役の役人が誇らしげに語る。
「この辺りは、セリカ様のご提案で新しい輪作を導入いたしました。土壌が休み、作物の質が上がりました」
王子は馬を止め、畑に目を向けた。
緑の波のように広がる作物の列、その一つひとつが、人々の努力と知恵の象徴に見えた。
「……これを、彼女が」
王子の声は驚きと尊敬に満ちていた。
幼い少女がここまでの仕組みを作り上げたこと――それは、もはや奇跡という言葉では足りない。
---
さらに彼は、セリカが設立した学園を訪れた。
そこでは平民と貴族の子どもたちが同じ机を並べ、互いに学び合っていた。
「知識に身分は関係ありません。学びたい者が学べるように――セリカ様のお考えです」
教師の言葉に、アコードは深く頷いた。
教室の窓から差し込む光の中、子どもたちの瞳がきらめいていた。
彼女の作り出したものは、ただの制度ではない。未来そのものだった。
---
視察を終え、王子は宿舎で夜を迎えた。
ルーカスが温かい茶を差し出す。
「殿下、ディオール領はいかがでしたか」
アコードは少し微笑んだ。
「……驚いた。どこへ行っても、彼女の足跡がある。
彼女が王妃になれば、リュミエール王国は間違いなく変わるだろう」
「ですが、ディオール家は“婿を取る”方針を変える気配がありません」
「わかっている」
アコードはカップを置き、夜空を見上げた。
星々が静かに瞬く。その光は、まるでセリカの未来を示すようだった。
「ならば、私は変わるしかない。
彼女が選ぶ未来に、私が必要だと思えるように」
その言葉には、かつての幼さはなかった。
王子の瞳に宿るのは、失ったものへの未練ではなく、再び並び立つための覚悟だった。
---
翌朝。
「殿下、次はどうなさるおつもりで?」とルーカスが尋ねた。
アコードは立ち上がり、真剣な表情で答えた。
「学んだことを、王都に持ち帰る。
この国の教育と産業を、ディオール領と肩を並べるまで引き上げるんだ。
――それが、再び彼女と向き合うための第一歩だ」
ルーカスは深く一礼した。
「殿下。今のそのお姿こそ、彼女にふさわしい王子です」
アコードは微笑んだ。
それは決意の微笑みだった。
――彼女の導いた未来を、この国全体へ。
その時こそ、再び並び立てる日が来る。
まだ幼い“聖女のような令嬢”に対し、王子は初めて本当の意味で恋をしたのかもしれない。
だがその恋は、己を磨くための“光”へと姿を変えようとしていた。
アコード王子は書斎の窓辺に立ち、ゆっくりと息を吐いた。
夜の帳が降りる王都は静まり返り、遠くで灯る街灯の光が、揺れる炎のようにぼんやりと瞬いている。
――拒絶された。それでも、終わりではない。
自らそう呟いた声は、空虚なはずの部屋の中に妙に響いた。
ディオール家からの返答は冷静で、隙がなかった。
だが、王子にとってセリカは、もはや“ただの公爵令嬢”ではなかった。
四歳にして領地を繁栄へ導いた少女。
誰もが笑って信じようとしなかった奇跡を、彼女は現実にしてみせた。
その知恵と行動力は、すでにひとつの国家を動かすほどの影響力を持っている。
――彼女は、王妃にふさわしい。
それも、血筋や政治ではなく、真に国を導く“王妃”として。
アコードは机に置かれた地図を見つめた。
ディオール領を中心に、新しく開かれた街道や農地が広がり、そこに描かれた小さな印は、どれもセリカが関与した改革の証だった。
「……彼女を再び迎え入れるには、私自身が変わらなければならない」
アコードは、己の中で燃え続ける未練を、覚悟へと変えた。
かつて、彼は幼いセリカを“まだ子供”と切り捨てた。
その軽率な判断が、今の彼にとって最大の痛みであり、戒めだった。
再び彼女の隣に立つには、かつての過ちを償い、王としてふさわしい姿を示さねばならない。
その夜、彼は筆を取り、詳細な計画書を書き始めた。
第一段階――ディオール領の視察。
第二段階――改革への支援策の立案。
第三段階――ディオール家との対話の再開。
全ては、彼女の信頼を取り戻すための道筋だった。
---
翌朝。
アコード王子は父王に謁見を求めた。
「ディオール領の現状を視察したいのです。
彼女の成したことをこの目で見て、王国として支援できることを考えたい」
王の目が鋭く光った。
だが、その奥にあったのは、息子の成長を見守る父としてのまなざしだった。
「よかろう。……あの公爵家に、もう一度学ぶつもりで行け」
「はい、陛下」
その言葉に、アコードは深く頭を下げた。
この視察は、単なる政治的なものではない。
彼にとっては、過去と向き合うための巡礼でもあった。
---
数日後、王家の使節団を率いたアコード王子はディオール領に到着した。
道中の村々には、活気があった。
農地では若い農夫たちが新しい農具を手に働き、道端には小さな子どもたちが「勉強に行ってきます」と笑顔で駆けていく。
その光景は、王都では見られない“生きた改革”だった。
案内役の役人が誇らしげに語る。
「この辺りは、セリカ様のご提案で新しい輪作を導入いたしました。土壌が休み、作物の質が上がりました」
王子は馬を止め、畑に目を向けた。
緑の波のように広がる作物の列、その一つひとつが、人々の努力と知恵の象徴に見えた。
「……これを、彼女が」
王子の声は驚きと尊敬に満ちていた。
幼い少女がここまでの仕組みを作り上げたこと――それは、もはや奇跡という言葉では足りない。
---
さらに彼は、セリカが設立した学園を訪れた。
そこでは平民と貴族の子どもたちが同じ机を並べ、互いに学び合っていた。
「知識に身分は関係ありません。学びたい者が学べるように――セリカ様のお考えです」
教師の言葉に、アコードは深く頷いた。
教室の窓から差し込む光の中、子どもたちの瞳がきらめいていた。
彼女の作り出したものは、ただの制度ではない。未来そのものだった。
---
視察を終え、王子は宿舎で夜を迎えた。
ルーカスが温かい茶を差し出す。
「殿下、ディオール領はいかがでしたか」
アコードは少し微笑んだ。
「……驚いた。どこへ行っても、彼女の足跡がある。
彼女が王妃になれば、リュミエール王国は間違いなく変わるだろう」
「ですが、ディオール家は“婿を取る”方針を変える気配がありません」
「わかっている」
アコードはカップを置き、夜空を見上げた。
星々が静かに瞬く。その光は、まるでセリカの未来を示すようだった。
「ならば、私は変わるしかない。
彼女が選ぶ未来に、私が必要だと思えるように」
その言葉には、かつての幼さはなかった。
王子の瞳に宿るのは、失ったものへの未練ではなく、再び並び立つための覚悟だった。
---
翌朝。
「殿下、次はどうなさるおつもりで?」とルーカスが尋ねた。
アコードは立ち上がり、真剣な表情で答えた。
「学んだことを、王都に持ち帰る。
この国の教育と産業を、ディオール領と肩を並べるまで引き上げるんだ。
――それが、再び彼女と向き合うための第一歩だ」
ルーカスは深く一礼した。
「殿下。今のそのお姿こそ、彼女にふさわしい王子です」
アコードは微笑んだ。
それは決意の微笑みだった。
――彼女の導いた未来を、この国全体へ。
その時こそ、再び並び立てる日が来る。
まだ幼い“聖女のような令嬢”に対し、王子は初めて本当の意味で恋をしたのかもしれない。
だがその恋は、己を磨くための“光”へと姿を変えようとしていた。
66
あなたにおすすめの小説
転生令嬢はのんびりしたい!〜その愛はお断りします〜
咲宮
恋愛
私はオルティアナ公爵家に生まれた長女、アイシアと申します。
実は前世持ちでいわゆる転生令嬢なんです。前世でもかなりいいところのお嬢様でした。今回でもお嬢様、これまたいいところの!前世はなんだかんだ忙しかったので、今回はのんびりライフを楽しもう!…そう思っていたのに。
どうして貴方まで同じ世界に転生してるの?
しかも王子ってどういうこと!?
お願いだから私ののんびりライフを邪魔しないで!
その愛はお断りしますから!
※更新が不定期です。
※誤字脱字の指摘や感想、よろしければお願いします。
※完結から結構経ちましたが、番外編を始めます!
『婚約破棄され追放されましたが、隣国の氷の公爵様に“白い結婚”を提案されましたので、心穏やかに幸せになりますわ
鷹 綾
恋愛
婚約破棄されたその日、私は“追放令”も同時に宣告された。
王太子エドモンド殿下曰く、
「君のように冷たい女はいらない。真実の愛は聖女ローザだ」──と。
……それなら結構ですわ。
捨ててくださって、ありがとうございます。
行く宛もなく王都を去った私を拾ったのは、
冷徹と噂される若き宰相代理アレクシス様。
「俺と“白い結婚”をしないか。
互いの自由を侵さない、契約だけの結婚だ」
恋愛感情は一切なし。
――そんなはずだったのに。
料理を褒めてくれる優しい声。
仕事帰りにかけてくれる「ただいま」。
私の手をそっと包む温もり。
気づけば、契約のはずの彼との距離が、少しずつ近づいていく。
そんな折──王太子と偽聖女ローザが私を“罪人”に仕立て上げ、
祝福の儀の場で公開断罪しようと企む。
「セレナに触れるな。……彼女は、俺の妻だ」
アレクシス様が壇上で剣を抜いた瞬間、
私の世界は大きく動き出した。
偽りの聖女は暴かれ、王太子は没落。
追放された令嬢の“ざまぁ”が王都を駆け巡る中、
契約で始まった白い結婚は――本物の夫婦の誓いへと変わっていく。
これは、
捨てられた令嬢が“本当の幸せ”をつかみ取る、
大逆転のラブストーリー。
---
ゲームには参加しません! ―悪役を回避して無事逃れたと思ったのに―
冬野月子
恋愛
侯爵令嬢クリスティナは、ここが前世で遊んだ学園ゲームの世界だと気づいた。そして自分がヒロインのライバルで悪役となる立場だと。
のんびり暮らしたいクリスティナはゲームとは関わらないことに決めた。設定通りに王太子の婚約者にはなってしまったけれど、ゲームを回避して婚約も解消。平穏な生活を手に入れたと思っていた。
けれど何故か義弟から求婚され、元婚約者もアプローチしてきて、さらに……。
※小説家になろう・カクヨムにも投稿しています。
【完結】能力が無くても聖女ですか?
天冨 七緒
恋愛
孤児院で育ったケイトリーン。
十二歳になった時特殊な能力が開花し、体調を崩していた王妃を治療する事に…
無事に王妃を完治させ、聖女と呼ばれるようになっていたが王妃の治癒と引き換えに能力を使い果たしてしまった。能力を失ったにも関わらず国王はケイトリーンを王子の婚約者に決定した。
周囲は国王の命令だと我慢する日々。
だが国王が崩御したことで、王子は周囲の「能力の無くなった聖女との婚約を今すぐにでも解消すべき」と押され婚約を解消に…
行く宛もないが婚約解消されたのでケイトリーンは王宮を去る事に…門を抜け歩いて城を後にすると突然足元に魔方陣が現れ光に包まれる…
「おぉー聖女様ぁ」
眩い光が落ち着くと歓声と共に周囲に沢山の人に迎えられていた。ケイトリーンは見知らぬ国の聖女として召喚されてしまっていた…
タイトル変更しました
召喚されましたが聖女様ではありません…私は聖女様の世話係です
婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします
たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。
荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。
「この猫に構うな。人間嫌いだから」
冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。
猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。
異世界で悪役令嬢として生きる事になったけど、前世の記憶を持ったまま、自分らしく過ごして良いらしい
千晶もーこ
恋愛
あの世に行ったら、番人とうずくまる少女に出会った。少女は辛い人生を歩んできて、魂が疲弊していた。それを知った番人は私に言った。
「あの子が繰り返している人生を、あなたの人生に変えてください。」
「………はぁああああ?辛そうな人生と分かってて生きろと?それも、繰り返すかもしれないのに?」
でも、お願いされたら断れない性分の私…。
異世界で自分が悪役令嬢だと知らずに過ごす私と、それによって変わっていく周りの人達の物語。そして、その物語の後の話。
※この話は、小説家になろう様へも掲載しています
【完結】廃墟送りの悪役令嬢、大陸一の都市を爆誕させる~冷酷伯爵の溺愛も限界突破しています~
遠野エン
恋愛
王太子から理不尽な婚約破棄を突きつけられた伯爵令嬢ルティア。聖女であるライバルの策略で「悪女」の烙印を押され、すべてを奪われた彼女が追放された先は荒れ果てた「廃墟の街」。人生のどん底――かと思いきや、ルティアは不敵に微笑んだ。
「問題が山積み? つまり、改善の余地(チャンス)しかありませんわ!」
彼女には前世で凄腕【経営コンサルタント】だった知識が眠っていた。
瓦礫を資材に変えてインフラ整備、ゴロツキたちを警備隊として雇用、嫌われ者のキノコや雑草(?)を名物料理「キノコスープ」や「うどん」に変えて大ヒット!
彼女の手腕によって、死んだ街は瞬く間に大陸随一の活気あふれる自由交易都市へと変貌を遂げる!
その姿に、当初彼女を蔑んでいた冷酷伯爵シオンの心も次第に溶かされていき…。
一方、ルティアを追放した王国は経済が破綻し、崩壊寸前。焦った元婚約者の王太子がやってくるが、幸せな市民と最愛の伯爵に守られた彼女にもう死角なんてない――――。
知恵と才覚で運命を切り拓く、痛快逆転サクセス&シンデレラストーリー、ここに開幕!
悪役だから仕方がないなんて言わせない!
音無砂月
恋愛
マリア・フォン・オレスト
オレスト国の第一王女として生まれた。
王女として政略結婚の為嫁いだのは隣国、シスタミナ帝国
政略結婚でも多少の期待をして嫁いだが夫には既に思い合う人が居た。
見下され、邪険にされ続けるマリアの運命は・・・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる