見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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13-2 アコード王子の反省と決意の新たな道

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13-2 アコード王子の反省と決意の新たな道

 ディオール領での視察を終え、王都へ戻る馬車の中。
 アコード王子は窓の外に流れる風景をぼんやりと眺めながら、深く息を吐いた。
 心はずっしりと重く、胸の奥には言葉にできない痛みがあった。

 セリカ――かつて自分が婚約を破棄した少女。
 その小さな背中が、今では領地を導く存在にまで成長している。
 豊かな土地、笑顔を取り戻した民、そして誰よりも未来を見据えたまなざし。
 あの少女が、これほどの力を秘めていたとは……。

 「なぜ、私は――彼女の価値を見誤ったのだろう」

 静まり返った馬車の中、王子の独り言が落ちる。
 答えは分かっていた。
 若さと驕り。
 立場に甘え、人を見る目を持たなかった愚かさ。
 セリカの努力も、志も、あの頃の自分には見えなかった。
 いや、見ようともしなかったのだ。

 「……あの幼い少女が、ここまでの人物になるなんて」

 そう呟いたあと、自ら苦笑する。
 それは、ただの言い訳だ。
 誰が想像できたかではなく――自分が“見ようとしなかった”のだ。

 思い出す。
 婚約破棄の夜、あの舞踏会でセリカが放った言葉。

 > 「ですぐに結婚というわけではありませんし、とりあえず“キープ”でもよろしかったのでは?
 >  大人になって、私が期待にそぐわない成長をした時に捨てる、という選択肢もありましたでしょう?」

 あの時の彼女は、皮肉を口にしながらも決して取り乱さなかった。
 涙ひとつ見せず、淡々と自分の立場を理解し、未来を見据えていた。
 ――それこそが、幼さを装いながらも本質を見抜く才。

 なのに、自分は「子どもの戯言」だと笑い飛ばした。
 彼女が放った言葉の意味を、ひとつも理解しなかった。

 「……全くだ。なぜ、あの時の俺は――」

 拳を膝の上で握りしめる。
 あの瞬間、自分は“王族”という立場に胡坐をかいていた。
 自分に頭を下げる人間ばかりの世界で、真正面から意見を言う少女にどう接していいかも分からなかった。
 そして、理解できないものを“未熟”と切り捨てた。

 今思えば、それはただの臆病だ。

 ◇

 王都に戻ったその夜、アコード王子は眠れなかった。
 窓辺に立ち、月を見上げながら、胸の中で何度も言葉を反芻する。

 「――このままでは、彼女の隣に立つ資格などない」

 彼女にふさわしい人間になるには、ただ後悔するだけでは足りない。
 自ら変わらなければならない。
 王族として、いや、一人の人間として。

 翌朝。
 王子は信頼する友、ルーカスを呼び出した。

 「ルーカス、私は変わりたい」
 「変わりたい、ですか?」
 「セリカが示した理想を見た。あれを支えたのは、努力と信念だ。
  彼女は、誰の後ろにも隠れず、未来を自分の手で掴んだ。
  だが私は……王家の庇護のもとで、何もせずにいた」

 その言葉に、ルーカスは静かにうなずいた。
 「殿下、過去を悔いるだけでは意味がありません。
  セリカ様は今でも前を向いておられる。
  ならば、殿下もまた“次の道”を歩むべきです」

 王子は小さく笑った。
 「……その通りだな。私は、国を導く者として恥ずべきだった。
  だがこれからは違う。
  ディオール領の成功を模範に、リュミエール王国を内側から強くする」

 彼の声には、もう迷いはなかった。

 「教育を改革し、地方の産業を興し、民に希望を――。
  彼女の力を頼るのではなく、彼女と肩を並べる存在になる」

 ルーカスは微笑んだ。
 「それが殿下の決意なら、私は全力でお仕えします」

 「ありがとう、ルーカス。……私は、もう“後悔”ではなく“行動”で語る」

 王子の瞳に、燃えるような光が宿っていた。

 ◇

 執務室に戻ったアコード王子は、机の上の地図を広げた。
 王都から広がる街道、地方の村々、未開発の鉱山――。
 すべての点を線でつなぎ、ひとつの理想を描く。

 「セリカが導いた民は、未来を信じていた。
  私も、彼女に恥じぬ王国を築こう」

 その手が自然と震える。
 不安ではなく、昂ぶり。
 それは、初めて“王”としての自覚を掴んだ瞬間だった。

 「私は、あの少女に教えられたのだ――
  “王の価値”は血ではなく、どれだけ民に向き合えるかで決まる、と」

 窓の外では、春の風が吹き抜けた。
 柔らかな光が差し込む中で、王子はペンを取り、決意を新たにする。

 ――この国を、誇れる場所に変えてみせる。

 かつて彼女に見限られたあの日の少年は、もういない。
 代わりに立ち上がったのは、過去と向き合い、前へ進もうとするひとりの王だった。

 「セリカ。次に会う時こそ、胸を張って言おう。
  “君にふさわしい王になった”と――」

 その言葉を、誰に聞かせるでもなく呟く。
 けれど確かに、それは王国の未来を照らす“第一歩”だった。


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