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13-3 セリカの確固たる決意
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13-3 セリカの確固たる決意
「……再婚約の提案、ですか?」
執務室に響いたその報せに、セリカは一瞬だけ目を瞬かせた。
けれど、驚きの色はすぐに消え、彼女は静かに紅茶のカップを置く。
窓の外では、ディオール領の街並みが穏やかな陽光に包まれていた。
「殿下も、随分と気まぐれですわね。昔は“子どもっぽい”と切り捨てておいて、今になってこれですもの。」
皮肉めいた笑みを浮かべながらも、その声には棘はなかった。
かつて婚約を破棄されたあの日の痛みは、もう遠い昔の出来事。
今の彼女にとって、それは人生の通過点に過ぎない。
心に残るのは、過去ではなく――未来。
ディオール領を豊かにし、人々が笑顔で暮らせる国を築くこと。
それが、彼女に課せられた使命だった。
「セリカ様……お受けになるのですか?」
控えていた侍女リリアが、そっと問いかける。
セリカは目を細め、机上の報告書を閉じた。
「いいえ。おそらく殿下の提案は“感情”ではなく、“計算”によるもの。
私の才能が欲しいのよ。――人として、ではなく、道具として。」
淡々と告げる言葉の中に、冷たい決意が滲む。
かつての少女はもういない。
目の前にいるのは、領地を動かす“指導者”の顔をした公爵令嬢だ。
「けれど私は、誰かの操り人形になるつもりはありません。
自分の未来は、自分で選ぶ。それが、私の誇りですもの。」
その声は柔らかくも、揺るぎのない芯を持っていた。
◇
夕暮れ、暖炉の灯りが揺らめく書斎で、ディオール公爵は静かに娘の話を聞いていた。
セリカの言葉が一通り終わると、彼は腕を組み、少しの間黙考する。
そして、深い声でゆっくりと口を開いた。
「……セリカ。お前はもう、誰よりも立派な領主だ。
王妃として国を支える道もあったが、それがすべてではない。
お前がこの地を選ぶのなら――私はその背を押そう。」
「お父様……」
セリカの瞳が、わずかに潤んだ。
けれど、それは迷いの涙ではない。
誇りと覚悟を確かめるための涙だった。
「ありがとうございます。私は、この領地を守りたいのです。
殿下の隣ではなく、この大地の上で――民と共に。」
ディオール公爵は微笑む。
「……まったく、あのアコード王子が見抜けなかったものを、私は誇りに思うよ。」
セリカもまた、柔らかく笑った。
「過去はもう、私の礎ですわ。後悔ではなく、糧になりました。」
◇
夜が明け、白い朝靄がディオール領を包む。
セリカは窓辺に立ち、静かにその景色を見つめた。
畑を耕す農民たち、活気ある市場、子どもたちの笑い声。
「……ここが、私の生きる場所。」
風に揺れる長い髪を押さえながら、彼女は呟いた。
誰かの隣で輝くためではない。
この地で、彼女自身の力で未来を照らすために――。
「私が目指すのは、王妃の玉座ではなく、民の笑顔よ。」
そう言って、セリカは新しい一歩を踏み出した。
その表情には、もう一片の迷いもなかった。
光を背に受けた彼女の姿は、まるで黎明の女神のように美しかった。
---
「……再婚約の提案、ですか?」
執務室に響いたその報せに、セリカは一瞬だけ目を瞬かせた。
けれど、驚きの色はすぐに消え、彼女は静かに紅茶のカップを置く。
窓の外では、ディオール領の街並みが穏やかな陽光に包まれていた。
「殿下も、随分と気まぐれですわね。昔は“子どもっぽい”と切り捨てておいて、今になってこれですもの。」
皮肉めいた笑みを浮かべながらも、その声には棘はなかった。
かつて婚約を破棄されたあの日の痛みは、もう遠い昔の出来事。
今の彼女にとって、それは人生の通過点に過ぎない。
心に残るのは、過去ではなく――未来。
ディオール領を豊かにし、人々が笑顔で暮らせる国を築くこと。
それが、彼女に課せられた使命だった。
「セリカ様……お受けになるのですか?」
控えていた侍女リリアが、そっと問いかける。
セリカは目を細め、机上の報告書を閉じた。
「いいえ。おそらく殿下の提案は“感情”ではなく、“計算”によるもの。
私の才能が欲しいのよ。――人として、ではなく、道具として。」
淡々と告げる言葉の中に、冷たい決意が滲む。
かつての少女はもういない。
目の前にいるのは、領地を動かす“指導者”の顔をした公爵令嬢だ。
「けれど私は、誰かの操り人形になるつもりはありません。
自分の未来は、自分で選ぶ。それが、私の誇りですもの。」
その声は柔らかくも、揺るぎのない芯を持っていた。
◇
夕暮れ、暖炉の灯りが揺らめく書斎で、ディオール公爵は静かに娘の話を聞いていた。
セリカの言葉が一通り終わると、彼は腕を組み、少しの間黙考する。
そして、深い声でゆっくりと口を開いた。
「……セリカ。お前はもう、誰よりも立派な領主だ。
王妃として国を支える道もあったが、それがすべてではない。
お前がこの地を選ぶのなら――私はその背を押そう。」
「お父様……」
セリカの瞳が、わずかに潤んだ。
けれど、それは迷いの涙ではない。
誇りと覚悟を確かめるための涙だった。
「ありがとうございます。私は、この領地を守りたいのです。
殿下の隣ではなく、この大地の上で――民と共に。」
ディオール公爵は微笑む。
「……まったく、あのアコード王子が見抜けなかったものを、私は誇りに思うよ。」
セリカもまた、柔らかく笑った。
「過去はもう、私の礎ですわ。後悔ではなく、糧になりました。」
◇
夜が明け、白い朝靄がディオール領を包む。
セリカは窓辺に立ち、静かにその景色を見つめた。
畑を耕す農民たち、活気ある市場、子どもたちの笑い声。
「……ここが、私の生きる場所。」
風に揺れる長い髪を押さえながら、彼女は呟いた。
誰かの隣で輝くためではない。
この地で、彼女自身の力で未来を照らすために――。
「私が目指すのは、王妃の玉座ではなく、民の笑顔よ。」
そう言って、セリカは新しい一歩を踏み出した。
その表情には、もう一片の迷いもなかった。
光を背に受けた彼女の姿は、まるで黎明の女神のように美しかった。
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