見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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19-1新たな視点と独立の兆し

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第19章 新たな視点と独立の兆し

 ランディ王子から届いた書簡を、セリカは何度も何度も読み返していた。
 文面は柔らかいが、その言葉の奥には確かな重み――そして支配の気配がある。

> 「貴女の知恵は、王国全体を導く光となるでしょう」



 その一文に、彼女の指先が止まった。

「……王国全体に影響を及ぼす、ね」

 彼女は小さく息を吐き、机の上に手紙をそっと置いた。
 ディオール領の領主として、確かに彼女の決断は重みを増している。
 だがそれは、ランディの支援があったからこそ――彼の助言が、彼女を高みに押し上げてきた。

 けれど、今――その支えが、鎖のようにも感じられる。

「……これは、本当に私の望む未来なの?」

 彼の助言に従えば、成功は約束されるだろう。
 だが、そこに“自分”はいるのか。
 彼女は静かに目を閉じ、胸の奥で決意を形にしていった。


---

 翌朝。
 セリカは顧問や技術官たちを集め、円卓の上に一枚の地図を広げた。

「今日から新しい計画を立てます。――ディオール領の力だけで」

 静かに、しかし揺るぎない声。
 集まった者たちは驚きの表情を浮かべたが、すぐに真剣なまなざしに変わった。

「王子の支援を断つおつもりですか?」と、老顧問のガブリエルが問う。

「いいえ。支援を“拒む”わけではありません。ただ、“頼らない”のです。
 私たちの領地は、私たちの手で立て直せると証明したいのです」

 その言葉に、場の空気が引き締まった。
 セリカはまだ四歳。
 だが、その瞳には幼さよりも強い意志が宿っている。

「教育制度を整え、職人を育て、灌漑の技術を次の世代へ伝えるわ。
 そして、交易路を再編し、**“ディオール方式”**として他領に示すの。
 私たちの価値は、誰かの影ではなく、光として輝くべきです」

 顧問たちは感嘆の息を漏らし、次々に賛同の声を上げた。


---

 それからの日々、セリカは休む間もなく領地を歩き回った。
 灌漑路を確認し、職人と対話し、子供たちが学ぶ教室を訪れる。
 泥で汚れた靴のままでも、彼女は臆さなかった。

「セリカ様! 今年の収穫は、去年の二倍です!」
「うん、よく頑張ったわね。……次は、保存法も改良しましょう」

 小さな村で農民たちと語り合うその姿は、もはや領主ではなく一人の導き手だった。
 人々は、王子の力ではなく“自分たちの力”で未来を築けるという確信を抱き始めていた。

「このように、私たちはできるのよ。自分の手で」

 夕陽を背に微笑むセリカの横顔を見て、誰もが彼女の言葉を信じた。


---

 数日後――。
 王都からの知らせが届いた。

> 『ランディ王子、ディオール領を訪問予定』



 その報せに、セリカは静かに目を伏せた。
 避けては通れぬ瞬間が来たのだ。

 午後の庭園。
 白い薔薇の間を、涼やかな風が抜ける。
 ランディが姿を現すと、従者たちは恭しく下がり、庭に残ったのは二人だけ。

「お久しぶりですね、セリカ様。領地がさらに発展していると聞きました。――素晴らしい成果です」

「ありがとうございます、ランディ王子」

 セリカは深く礼をしたが、その瞳は冷静に彼を見つめていた。

「ですが、これからはディオール領が独自に発展していく道を歩みたいのです。
 王子の助けがなくても、私たちは前に進めます」

 短く、しかし明確に。
 庭園に沈黙が落ちる。

 ランディは一瞬驚いたように目を細めたが、すぐに微笑んだ。

「なるほど……あなたの意志は鋼のようだ。だが、王国の発展と共に歩むこともまた大切ではありませんか?」

「もちろんです。けれど、私たちには私たちの歩幅があります。
 王国のために尽くすにしても――まず、この領の民を守ることが私の使命です」

 ランディは短く息をつき、低く笑った。
「……貴女は本当に驚かせてくれる。私が知る中で、最も若く、最も誇り高い領主だ」

 その言葉に、セリカは小さく微笑んだ。

「それでも、私はまだ子供です。けれど、誰かの影の中では育たない。
 陽の光の下で、私の根を伸ばしたいのです」

 風がふたりの間を通り抜けた。
 花弁が舞い、白い光がきらめく。

 ランディは一歩下がり、頭を下げた。

「その言葉、しかと胸に刻みましょう。……ですが、私は影として、貴女の光を見守り続けます」

 彼の声には柔らかい敬意と、ほんの一滴の未練が混じっていた。


---

 夜。
 ランプの灯りの下で、セリカは一人書簡をしたためた。

> 『私は、貴方の助けに感謝しています。
 けれど、私は自分の手で未来を掴みます。
 いつか本当の意味で、貴方と並び立てる日が来るように。――セリカ・ディオール』



 封を閉じた時、彼女の瞳には迷いが消えていた。

「私は、私の信念で進む」

 外では夜風が吹き、遠くの灯りがゆらめく。
 それはまるで――彼女自身の小さな独立の炎が、確かに灯り始めたかのようだった。
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