見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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19-2 自立への選択

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第19章 新たな視点と独立の兆し

19-2 自立への選択

 ランディ王子との会話から、数日が過ぎていた。
 セリカは、その間ずっと考え続けていた。

 彼の支援は強大で、確かに領地を豊かにしてくれた。
 けれど――その影の中で成長を続ける限り、いつか自分の光が霞んでしまう。

「“共に未来を築く”……それは、きっと彼の本心の一部。
 でも同時に、私を“計画の駒”として見ている部分も、ある……」

 机の上の手紙を見つめながら、セリカは呟いた。
 彼の言葉には温かさと同じだけの冷静さが宿っている。
 それが、彼という人間の恐ろしさでもあり――魅力でもあった。


---

 翌朝。
 執務室の扉が静かに叩かれた。

「セリカ様」

 入ってきたのは、側近のガブリエル。
 年長の男の穏やかな眼差しが、彼女を見つめていた。

「お顔の色が優れません。お悩みのことが?」

 セリカは小さく微笑み、ためらいながらも口を開いた。

「……ランディ王子のことよ。感謝しているわ。でも、あの方の力に頼りすぎるのが怖いの」

 ガブリエルは腕を組み、しばし黙考したあと頷いた。

「依存すれば、やがては“選ぶ自由”を失う。ですが、助力を完全に断てば、孤立を招くこともあるでしょう」

 セリカは目を伏せる。
 その言葉が、彼女の胸の奥に静かに落ちた。

「つまり……支援を受けながらも、支配されない道を探す、ということね」

「はい。それが“真の独立”です」

 ガブリエルの言葉に、セリカは小さく微笑んだ。
 霧が少しだけ晴れた気がした。


---

 その日から、セリカは新たな方針を立てた。
 ――“自立のための自立”ではなく、“未来のための自立”を目指す。

 まず手を付けたのは、商業の多角化だった。
 隣国への輸出や王都への依存を減らし、ディオール領内の資源を活かす仕組みを構築する。

 領地の南部には豊かな森がある。
 そこで採れる薬草や樹脂を精製し、医薬品や香料として加工・販売する。
 これまで廃棄されていた木の樹皮や花粉までも、彼女は資源として活用するよう命じた。

「無駄を知恵に変える。それが、ディオールのやり方ですわ」

 職人たちは最初こそ戸惑ったが、やがて彼女の先見性に舌を巻き始めた。

 さらにセリカは、若者の教育支援制度を創設。
 村の子供たちに算術と読み書きを教え、才能ある者には工房や学問所への推薦状を出した。

「力が足りないなら、人を育てればいい。
 他国の知恵に頼る前に、私たち自身の知恵を磨きましょう」

 その言葉に、領民の間で“自分たちの領主に誇りを持つ”気運が芽生えていった。


---

 やがて、ランディ王子から新たな書簡が届いた。
 上質な紙に整然とした筆跡。

> 『貴女の改革は見事です。ですが、私の力を合わせれば、その実現はより速く確実となるでしょう』



 その一文を見た瞬間、セリカの胸に痛みが走った。
 彼は、まだ“影”を手放していない。

 だが――彼女の答えも、もう決まっていた。

> 『ランディ王子。ご厚意、心より感謝いたします。
 けれど、今の私はディオール領の力で歩みたいのです。
 この道の先に何があろうとも、私自身の足で辿り着きたいのです。』



 筆を置いた瞬間、心の中で何かが解ける音がした。


---

 数日後、ランディから返信が届く。

> 『貴女の意志を尊重します。
 けれど――私はいつでも、貴女が助けを求める日を信じています。』



 淡々とした筆致。だが、その一文に、彼の本質が滲んでいた。
 彼は見放さない。
 支配ではなく、観察と保留の支援――それが彼のやり方。

「……やっぱり、簡単には手を離さないのね」

 セリカは呟いたが、その顔には怯えはなかった。

「いいえ、それでいい。あなたが見ていようと――私はもう、導かれない」


---

 季節が一巡したころ、ディオール領は確実に変わっていた。
 商業は活気づき、教育を受けた若者たちが新たな職を得ていた。
 ランディの影は確かに残っていたが、その上で、セリカの光が領地を包み始めていた。

「支援は恩義。でも、独立は誇り――」

 夜風の中で、彼女はひとり微笑んだ。

「次は、私の手で“彼を驚かせる番”ですわ」

 幼き公爵令嬢の小さな手が、次の改革案に印をつける。
 その瞳には迷いのない輝き。
 ――彼女の物語は、誰かに導かれるものではなく、自ら選び取る未来へと動き出していた。
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