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21- 2 再びディオール公爵夫妻の説得に挑むアコード王子
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21- 2 再びディオール公爵夫妻の説得に挑むアコード王子
幾日かの静寂を経て、アコード王子は再び決意を固めた。
一度目の説得は実を結ばなかったが、それでも彼の信念は揺るがなかった。――彼にとって、セリカとの再婚約は王国のためであり、何よりも彼自身のためでもあった。
> 「セリカのため、そして王国の未来のためにも……ここで退くわけにはいかない」
そう呟いた彼の瞳には、迷いよりも確かな光が宿っていた。
今回は“政略”の言葉ではなく、“誠実”の心を携えて――。
王子は二度目の訪問に臨んだ。
---
ディオール領の大門が再び開かれる。広々とした庭園の奥、白亜の館の前で、アコードを迎えたのは先日と変わらぬ威厳を纏うディオール公爵夫妻であった。
「アコード王子、またこのような辺境まで足をお運びくださり、恐縮いたします」
公爵は礼を失わぬままも、その声音には前回以上の慎重さが漂っていた。
公爵夫人も隣に控え、静かに王子の言葉を待っている。
二人にとってセリカの将来は、家の誇りを超えた――“娘の幸福”そのものだった。
王子は一歩前に進み、深く頭を垂れる。
「前回は、私の言葉が足りなかったのだと思います。……本日は、改めて心からの思いを伝えに参りました」
公爵夫妻の前に立つ王子の表情は真剣だった。
彼は自らの胸に手を当て、まっすぐに告げる。
「私がセリカ様との婚約を願うのは、ただの政略のためではございません。彼女が王国を導く力を持つことは確かですが……それ以上に、私は一人の女性として、彼女を心から尊敬しているのです」
公爵の眉がわずかに動いた。
王子は言葉を続ける。
「彼女の知恵、温かさ、そして領民を想う心――そのすべてが、私に希望を与えました。
彼女が王妃となれば、王国はきっと、より優しい国になる。
……私は、その未来を、共に創りたいのです」
静寂が流れた。
ディオール公爵夫人が、ゆっくりと扇を閉じて口を開く。
「王子のお気持ちは、確かに伝わりました。
ですが――王妃という座が、必ずしも娘の幸福に繋がるとは限りません。
それが“母としての私の恐れ”でもあります」
その声音には、母の強さと慈しみが混ざっていた。
娘を誇りに思うがゆえに、権力という檻に閉じ込めたくはない。
それが、夫人の変わらぬ信念だった。
しかしアコード王子は、それでも怯まず、真っ直ぐに公爵夫妻を見据える。
「私も、彼女を権力の中で孤独にしたくはありません。
――だからこそ、共に歩む“伴侶”として迎えたいのです。
王としてでなく、一人の男として、彼女と並び立ちたい」
公爵は深く腕を組み、黙考した。
彼の瞳にはわずかに、先ほどよりも柔らかな光が宿っていた。
「アコード王子……あなたの誠意、確かに感じました。
ですが、我々には彼女を守る責務がございます。
セリカが本当に幸せになれるか――それを見極めるまでは、答えを出すわけにはいきません」
その言葉に、アコードは静かに頷いた。
それでも、彼の目から希望の光は消えない。
「ええ、理解しております。……ですが、私は何度でも参ります。
どうか、私の真意を見極めてください。
彼女を幸せにする覚悟は、揺るぎません」
その声には、確かな決意があった。
公爵夫妻は言葉を返さなかったが、去りゆく王子の背中を見送るその表情には、前回にはなかった温かさが滲んでいた。
---
庭園を渡る風が、静かに王子のマントを揺らす。
ディオール邸を後にするその背に、確かな成長が感じられた。
――まだ、彼の挑戦は終わらない。
彼は誓う。
何度でも、心を尽くしてこの門を叩こう。
いつかきっと、あの聡明で優しい少女と、同じ未来を見られる日が来ることを信じて。
幾日かの静寂を経て、アコード王子は再び決意を固めた。
一度目の説得は実を結ばなかったが、それでも彼の信念は揺るがなかった。――彼にとって、セリカとの再婚約は王国のためであり、何よりも彼自身のためでもあった。
> 「セリカのため、そして王国の未来のためにも……ここで退くわけにはいかない」
そう呟いた彼の瞳には、迷いよりも確かな光が宿っていた。
今回は“政略”の言葉ではなく、“誠実”の心を携えて――。
王子は二度目の訪問に臨んだ。
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ディオール領の大門が再び開かれる。広々とした庭園の奥、白亜の館の前で、アコードを迎えたのは先日と変わらぬ威厳を纏うディオール公爵夫妻であった。
「アコード王子、またこのような辺境まで足をお運びくださり、恐縮いたします」
公爵は礼を失わぬままも、その声音には前回以上の慎重さが漂っていた。
公爵夫人も隣に控え、静かに王子の言葉を待っている。
二人にとってセリカの将来は、家の誇りを超えた――“娘の幸福”そのものだった。
王子は一歩前に進み、深く頭を垂れる。
「前回は、私の言葉が足りなかったのだと思います。……本日は、改めて心からの思いを伝えに参りました」
公爵夫妻の前に立つ王子の表情は真剣だった。
彼は自らの胸に手を当て、まっすぐに告げる。
「私がセリカ様との婚約を願うのは、ただの政略のためではございません。彼女が王国を導く力を持つことは確かですが……それ以上に、私は一人の女性として、彼女を心から尊敬しているのです」
公爵の眉がわずかに動いた。
王子は言葉を続ける。
「彼女の知恵、温かさ、そして領民を想う心――そのすべてが、私に希望を与えました。
彼女が王妃となれば、王国はきっと、より優しい国になる。
……私は、その未来を、共に創りたいのです」
静寂が流れた。
ディオール公爵夫人が、ゆっくりと扇を閉じて口を開く。
「王子のお気持ちは、確かに伝わりました。
ですが――王妃という座が、必ずしも娘の幸福に繋がるとは限りません。
それが“母としての私の恐れ”でもあります」
その声音には、母の強さと慈しみが混ざっていた。
娘を誇りに思うがゆえに、権力という檻に閉じ込めたくはない。
それが、夫人の変わらぬ信念だった。
しかしアコード王子は、それでも怯まず、真っ直ぐに公爵夫妻を見据える。
「私も、彼女を権力の中で孤独にしたくはありません。
――だからこそ、共に歩む“伴侶”として迎えたいのです。
王としてでなく、一人の男として、彼女と並び立ちたい」
公爵は深く腕を組み、黙考した。
彼の瞳にはわずかに、先ほどよりも柔らかな光が宿っていた。
「アコード王子……あなたの誠意、確かに感じました。
ですが、我々には彼女を守る責務がございます。
セリカが本当に幸せになれるか――それを見極めるまでは、答えを出すわけにはいきません」
その言葉に、アコードは静かに頷いた。
それでも、彼の目から希望の光は消えない。
「ええ、理解しております。……ですが、私は何度でも参ります。
どうか、私の真意を見極めてください。
彼女を幸せにする覚悟は、揺るぎません」
その声には、確かな決意があった。
公爵夫妻は言葉を返さなかったが、去りゆく王子の背中を見送るその表情には、前回にはなかった温かさが滲んでいた。
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庭園を渡る風が、静かに王子のマントを揺らす。
ディオール邸を後にするその背に、確かな成長が感じられた。
――まだ、彼の挑戦は終わらない。
彼は誓う。
何度でも、心を尽くしてこの門を叩こう。
いつかきっと、あの聡明で優しい少女と、同じ未来を見られる日が来ることを信じて。
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