見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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22-3 エリシオンとセリカ

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第22章 第二王子、エリシオン王子

22-3 エリシオンとセリカ

 王宮の庭園には、春の光が満ちていた。
 若草の上に咲く白い花々が風に揺れ、噴水の水音が静かに響く。

 その中を歩いていたのは――ディオール公爵令嬢、セリカ。
 陽光を受けて輝く金の髪を揺らし、緋色のドレスに身を包んだその姿は、凛として眩しかった。

 そして、回廊の影からその姿を見つめるひとりの青年がいた。
 リュミエール王国第二王子、エリシオン。
 彼は足音を立てぬよう、ゆっくりと歩み寄り、礼を取った。

> 「お会いできて光栄です、セリカ嬢。」



 静かで落ち着いた声に、セリカは少し驚いたように目を瞬かせた。
 王宮でも、彼と直接言葉を交わす機会はほとんどない。
 その穏やかな声と柔らかな物腰に、彼女は思わず微笑み返した。

> 「こちらこそ、エリシオン王子。お会いできて嬉しく思います。」



 春の光の中で、二人の影が並ぶ。
 沈黙を破ったのは、意外にも王子の言葉だった。

> 「まずは、君に謝らなければならない。……家の兄弟たちが迷惑をかけていると聞いている。」



 あまりに予想外の言葉に、セリカは「は?」と間の抜けた声を漏らしてしまう。
 エリシオンは、苦笑を浮かべて続けた。

> 「君のような若い女性が、政の駒として扱われることに、私はどうも抵抗がある。
君の心が痛むのを見過ごすのは、王族として恥ずべきことだと思うのだ。」



 その言葉に、セリカの胸がふっと温かくなった。
 政略の世界で「心」を語る王族など、今まで見たことがなかった。

> 「ありがとうございます、殿下。けれど、私はディオール領を預かる者として、この身をもって責務を果たす覚悟でおります。
兄弟殿下方がどうお考えになろうとも、私は領地と民のために尽くし続けるつもりです。」



 真っ直ぐなその瞳を見て、エリシオンは静かに頷いた。
 力を誇示するでもなく、理屈を並べるでもない――
 その清らかな気高さに、彼の胸の奥に小さな感動が芽生えた。

> 「……君のような人が、自分の未来を自ら選び取れる世であってほしい。
もし私にできることがあるなら、君の自由を守りたい。」



 その言葉は、誓いというより祈りに近かった。
 セリカは少し驚き、そしてその真剣な眼差しに、息をのんだ。


---

> 「殿下、ひとつお伺いしてもよろしいでしょうか?」



 セリカの問いに、エリシオンは首を傾げ、穏やかに微笑んだ。

> 「何かな?」



> 「殿下は、非常に優れた才能をお持ちのようにお見受けします。
ですが、なぜその力を、表に出されないのですか?」



 一瞬、風が止んだ。
 エリシオンは少しだけ驚いたように目を細め、すぐに視線を噴水へ向けた。

> 「才能か……。私は、そんな大層なものを持ち合わせてはいないよ。
ただ、兄弟たちが皆、我が強いものでね。
これ以上、私まで口を挟めば、余計に混乱を招くだけだ。」



 柔らかく笑いながらも、その声音にはどこか諦めの色があった。

> 「混乱が争いへ変わり、国全体を傷つける――そんな未来だけは避けたいのだ。
王家の争いが、民を巻き込む内乱になることほど愚かなことはない。」



 セリカは、その静かな言葉に胸を打たれた。
 彼はただ権力を避けているのではない。
 争いを未然に防ぐために、自らを“引いている”のだ。

> 「殿下は……王家の安寧のために、あえて沈黙を選ばれているのですね。」



 そう告げると、エリシオンは少しだけ目を細め、照れたように笑った。

> 「高尚な理由に聞こえるが、実際は怠け者なのさ。
余計な面倒を避けて、静かに暮らしたいだけだ。……飽きれただろう?」



 彼の言葉に、セリカは思わず吹き出した。
 笑ってはいけないと思いつつも、頬がゆるむのを止められなかった。

> 「いえ……そんなふうに仰られると、ますます殿下のことが分からなくなります。」



> 「それなら、それでいい。
理解されない方が、気楽でいられるからね。」



 エリシオンはそう言い、穏やかな微笑を浮かべた。
 だがその笑みの奥に、どこか儚さがあった。
 誰よりも国を想いながら、それを声に出さぬ男――その優しさが、静かに胸に響く。


---

 やがて鐘の音が響き、昼下がりの風が庭園を渡る。
 二人の影が、重なり、離れ、また交差する。

 セリカは去り際、ほんの一瞬だけ振り返った。
 噴水のそばに立つエリシオンの姿は、まるで季節そのもののように穏やかだった。

> (この方は……自らの静寂を、国の平和に変える人なのかもしれない)



 そう感じた瞬間、彼女の胸の奥に、淡く温かな灯がともった。
 それが、まだ恋と呼ぶには遠すぎる、けれど確かに芽吹いた“想い”だった。
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