見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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22-4 もし10年後も君が…

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第22章 第二王子、エリシオン王子

22-4 もし10年後も君が…

 午後の光が差し込む王宮の中庭。
 噴水の水音が涼やかに響く中、セリカ・ディオールはベンチに腰を下ろし、差し出されたカップをそっと受け取った。
 差し向かいに座るのは、第二王子――エリシオン。

 彼の穏やかな横顔を見ながら、セリカは胸の奥で小さく息をついた。
 政略と打算が渦巻く王宮で、彼だけはまるで“別の空気”をまとっている。
 人を操らず、言葉を飾らず、それでいて誰よりも誠実に人を見ている――。
 彼のそうした姿勢が、いつの間にか彼女の心に温かな余韻を残していた。

> 「……殿下は、なぜいつもそんなに穏やかでいられるのですか?」



 ふとした思いつきで問うと、彼は少し考えてから笑った。

> 「うーん、平穏が好きだからかな。
争いごとより、風の音を聞いている方が性に合っている。」



 その答えがあまりにも自然で、セリカは思わず笑ってしまった。
 そんな穏やかな会話の中で、エリシオンがふと軽い口調で言った。

> 「そうだね――もし十年後も君が独身だったら、私が結婚を申し込むかもしれない。」



 さらりと、まるで冗談のように。
 けれどその瞬間、セリカの心臓が小さく跳ねた。
 風の音も、水音も遠のいて、耳の奥に彼の声だけが残る。

> 「……えっ?」



 我に返って彼を見ると、エリシオンは何事もなかったようにお茶を口にしている。
 その穏やかさがかえって、彼の言葉を冗談と片づけられなくさせた。

 笑ってしまえば、楽になる。
 でも――心がそれを拒んだ。
 彼の目にはからかいも欲もなく、ただ真っすぐな優しさがあった。


---

 それからの日々、セリカは何度もその言葉を思い出していた。
 会議の席でも、勉学の途中でも、夜の静けさの中でも――
 ふとした瞬間に「十年後」という響きが蘇り、胸の奥がくすぐったくなる。

 王宮では依然として、彼女を巡る噂が絶えなかった。
 第一王子アコードは再婚約をほのめかし、
 シビック王子は権力のために彼女を求め、
 セドリック王子は純粋な想いを隠せずにいた。

 ――けれど、誰も“彼女の自由”を語らない。

 ただ一人、エリシオンだけが、
 彼女に「選ぶ権利」を認めた。


---

 王宮の晩餐会。
 煌びやかな照明の下、セリカは多くの貴族から挨拶を受けながらも、どこか心ここにあらずの表情をしていた。
 その視線がふと向いた先――静かな壁際に、いつものように控えている彼の姿。

 エリシオンは何も言わず、兄弟たちの競い合いを遠くから見つめていた。
 その眼差しには皮肉ではなく、どこか“静かな諦め”があった。

 ――そして、その奥に、確かな温かさも。

 やがて宴が終わりに近づいた頃、セリカは思い切って彼のもとへ歩み寄った。
 控えめに裾を持ち上げ、微笑む。

> 「殿下。先日の“十年後”というお話……あれは本気でおっしゃったのですか?」



 一瞬、エリシオンは目を瞬かせ、そしてゆるやかに笑った。
 彼の笑みは、相変わらず春風のように穏やかだった。

> 「冗談とも本気とも言えないかな。
でも――君が十年後も独りだったら、その時は考えないでもない。」



 その曖昧さが、かえって彼らしい。
 強くも弱くもない。
 相手の自由を尊重したまま、ほんの少し未来の扉を開けるような言葉。

 セリカは肩の力を抜いて、くすりと笑った。

> 「その時が来たら……私もどんな自分になっているのか、少し楽しみです。」



 エリシオンはうなずき、ゆっくりと告げた。

> 「君のように意志の強い人なら、きっと自分の道を見つけられる。
たとえどんな選択をしても、後悔しないさ。」



 ――その眼差しは、まるで未来を祝福するようだった。


---

 夜、部屋に戻ったセリカは窓辺に立ち、星空を見上げた。
 庭園での言葉、宴での会話――どれも穏やかなのに、不思議と心がざわつく。

> 「もし十年後も、私が独身だったら……」



 小さく呟いた声が、夜風に溶けた。
 エリシオンの言葉が、ただの冗談ではない気がする。
 彼の中には確かに“誠実な未来”の種があり、彼女の心にもまた、同じものが芽吹きつつあった。

 ――それが恋かどうかは、まだ分からない。
 けれど、十年という時間を思い描けるほど、彼の存在が確かになっていた。

 セリカは目を閉じ、静かに微笑んだ。

> 「その時までに、私も恥ずかしくない女性でいられるように……努力しないとね。」



 彼女の頬を、夜風が優しく撫でていった。
 遠く、鐘の音が鳴る。
 それはまるで、未来への約束を告げる合図のようだった。

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