見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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24-1 レクサスⅧ世の野望

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第24章 レクサスⅧ世編

24-1 レクサスⅧ世の野望

 レクサス王国、王城最上階。
 漆黒の石壁に囲まれた謁見の間の奥で、レクサスⅧ世は静かに地図を見下ろしていた。

 広げられた地図の中央には、リュミエール王国とディオール領の境界線。
 その地点に、炭で記されたある名が存在していた。

――セリカ・ディオール。

 わずか五歳の少女。だが、その名はすでに隣国の王を動かすほどの重みを持ち始めていた。

「……面白い。幼子ひとりが、国の均衡を揺るがすとは」

 低く笑ったレクサスⅧ世の瞳は、冷たい光を帯びていた。

 彼は狡猾で知られた王だ。
 友好を装いながら、常にリュミエール王国を上回る機会をうかがい続けてきた。
 その彼の耳に届いたのが――
 “ディオール領の奇跡の幼女公爵代理” の噂だった。

 荒れ果てた領地を、わずか一年で豊かにし、
 税収を三倍にし、飢饉をなくし、
 さらに周辺の盗賊団まで駆逐してみせた。

「……五歳の子供が、だと? そんな馬鹿なと思ったが……調べてみればみるほど、本物だ」

 レクサスⅧ世は椅子に深く背を預け、指で肘置きをゆっくり叩いた。

「セリカ・ディオール。あの小娘は……国を動かす力を持っている。
 ならば、手に入れねばなるまい」

 その声音には、欲望と支配欲が滲んでいた。

 彼は“人材”を愛するタイプではない。
 “利用価値のある資源”として愛するのだ。

「彼女を私の国に迎えれば……リュミエール王国は弱体化し、
 我がレクサス王国は覇権国家となる。これは……千載一遇の好機だ」

 王は机に置かれた書簡を手に取った。

 そこには――
 リュミエール王国との貿易条約更新と、軍事協定の再交渉の要求 が記されている。

「拒否しづらい状況を作るのは簡単だ。
 彼らはもう、こちらなしでは立ちゆかぬ」

 レクサスⅧ世は口元を歪めた。

「そして、ディオール家。
 金と利権をちらつかせれば、逃げ場などない。
 ……セリカはもうこちらの手中にあるも同然だ」

 そのとき、隣室から側近が姿を見せた。

「陛下。リュミエール王国の王宮より連絡が。
 セリカ嬢に関して、ディオール家と宮廷が協議中とのことです」

「ほう。王子どもが三人がかりで奪い合っていると聞いたが?」

「はい。ですが突然のレクサス王国からの申し入れに、両国は混乱している様子です」

「混乱させているのは……私だ」

 レクサスⅧ世は満足げに笑った。

「良いだろう。諸国が慌てふためく中、私は最短距離で獲物を手に入れる。
 すでにセリカの婚約式の段取りも整えさせている。拒否される前に既成事実を作るのだ」

「……セリカ様は、まだ決断を……?」

「させる必要はない。
 決断とは、本人がするからこそ迷うのだ。
 ならば――迷えない状況を作れば良いだけだ」

 それは、国家間政治どころか、個人の意志すら踏みにじる暴君の発想だった。

「だが、陛下。セリカ嬢はまだ五歳。あまりに急ぎすぎでは――」

 側近が口にした瞬間、執務室に冷たい気配が走った。

「私は言ったはずだ。
 “その年齢だからこそ手に入れる価値がある” と」

 レクサスⅧ世の声は冷え切っていた。

「幼い今なら、いくらでも染められる。
 従順に育てることもできよう。
 ……レクサス王妃として、な」

 

◆◇◆

 その頃、ディオール家では。

 三人の王子による求婚合戦に翻弄されていたところに、突如のレクサス王国からの婚約申し入れ。

 ディオール公爵夫妻は頭を抱えていた。

「よりにもよって、レクサスⅧ世か……!」

「セリカを……国家の道具にされるかもしれない……」

 しかし――
 リュミエール王国は今、貿易・軍事の多くをレクサス王国に依存している。
 断れば、国が傾く。

「レクサス王国の圧力は強すぎる……我々はどうすれば……」

 父母の葛藤を知るはずもないセリカは、幼いながらも国全体の空気を敏感に感じ取り、胸に重いものを抱え始めていた。

◆◇◆

 一方その頃、レクサスⅧ世は“最後の一押し”を準備していた。

 彼は自ら筆を取り、セリカ宛に書簡を書く。

『セリカ・ディオール。
 君には――この王国すべてを好きなように動かしてもらいたい。
 私の側に来るなら、誰にも縛られない。
 君の知恵と才能を、存分に発揮できるよう約束しよう』

 甘く、魅惑的な、しかし毒のような言葉。

「五歳の子供であれば……“自由にできる”という響きに惹かれる。
 幼い心を掴むのは容易いことだ」

 王は静かに言った。

「誘い、縛り、逃げられない状況を作る。
 最後には――君は私を選ぶしかなくなるのだよ、セリカ」

 その言葉は、狩人が獲物を見つめるような光を帯びていた。

 レクサスⅧ世は確信していた。

「セリカ・ディオール。君は私のものになる」

 これが、レクサスⅧ世の野望の始まりであった。


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