見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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24-2 婚約なんて待ってられない?

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第24章 レクサスⅧ世編

24-2 婚約なんて待ってられない?

――結婚計画って、まだ5歳になったばかりなんですけど?

 ――その知らせは、あまりに突然だった。

「……け、結婚?」

 書簡を読み終えたセリカは、思わず口をぱくぱくさせて固まった。

 婚約でもなく。
 政略の話し合いでもなく。
 “結婚”

 しかも――

「婚約期間なんて無駄、だからすぐに結婚しよう、ですって……?」

 五歳児に向ける文言ではなかった。

 机の上の書簡は金糸で縁取られ、王家の封蝋が押された立派なもの。
 けれど内容は――それはもう滅茶苦茶だった。

◆◇◆

 一方その頃、ディオール家の廊下では侍女たちがそわそわと動き回っていた。

「結婚式の衣装の打ち合わせは――」
「王宮側から“式場はすでに押さえた”と……!」
「セリカ様は了承なさっているのですか?」
「……まだ、していないはずですが……!」

 周りだけが勝手に盛り上がっている。

 セリカはその気配を敏感に察知した。

(まさか……もう準備が進んでいる? 私の返事もまだなのに……!)

 胸がざわつき、幼い指先がふるふると震える。

 普段なら頼りになる周囲の大人たちの行動が、今は不気味に見えた。

◆◇◆

 その不安を察して、近衛として仕えるドライドがそっと跪いた。

「お嬢様……ご不安で?」

「不安ですとも!!」

 セリカは珍しく声を張り上げた。

「私はまだ五歳です! 結婚どころか、婚約だって早すぎると思っていたのに……
 どうして、みんな勝手に準備を……!」

 幼い声に震えが混じる。

 それでも――彼女は領主としての自覚で、懸命に冷静さを保とうとしていた。

「レクサスⅧ世は……どうしてこんなに急ぐの?」

「……それは、お嬢様の才能を誰よりも早く手に入れたいからでしょう」

 ドライドの言葉は控えめだが、核心を射抜いていた。

「お嬢様の統治能力、判断力、影響力……
 どれも国一つを変えるほどのものです。
 陛下が焦るのも……無理からぬこと」

「……褒められている気がしませんね」

 セリカは頬を膨らませた。
 だが彼女の胸には、別の不安が広がっていた。

(私の力は……あくまでディオール領のためのもの。
 国を動かすなんて、大人の仕事じゃない……)

◆◇◆

 その夜。

 セリカはひとり、ベッドの上で膝を抱え込んでいた。

「結婚って……そんな軽く決めていいものなの?」

 彼女にとって結婚とは、絵本の中の話でしかない。
 白いドレスを着て、好きな人と手を繋いで――
 そんな“夢物語”のはずだった。

(なのに、知らない王様と突然結婚……?
 それが国のため……?)

 幼い胸に、重いものが沈んでいく。

 ふと、書簡に記された一文が頭をよぎった。

『君にはこの国全体を自由に動かしてもらいたい。
 誰にも縛られず、好きなようにできる』

「……“自由にできる”。」

 一見魅力的な響き。
 だが――セリカは思った。

(“自由に任せる”なんて、言葉だけでしょう?)

 五歳の少女でも、そこに疑念を抱くほどに
 レクサスⅧ世の誘いは甘すぎた。

◆◇◆

 数日後。
 セリカはついに意を決して、レクサスⅧ世の執務室へ向かった。

「陛下……お話があります」

「どうぞ、セリカ嬢」

 レクサスⅧ世は微笑みを浮かべて迎えた。
 その笑みは柔らかいが、どこか底が見えない。

 セリカは小さな拳を握りしめ、はっきりと言った。

「私は……まだ結婚を決められません。
 私は五歳です。未来についても、気持ちについても……理解が追いついていません」

 勇気を振り絞った拒絶だった。

 だがレクサスⅧ世は、表情ひとつ変えずに言い返した。

「年齢など関係ない。
 重要なのは、君がすでに“国を動かせる力”を持っていることだ」

「でも……!」

「君には出来る。
 ディオール領を見事に治めた、その能力を……今度はこの王国全体に向けてほしい」

 その声は甘く、優しく――しかし逃れられない圧力に満ちていた。

「私は君に“特別な立場”を与えるつもりだ。
 それは婚約者ではない。……王妃だ」

 セリカの小さな肩がびくりと震えた。

「王妃になれば……君は王国の未来を決める者になる。
 君の知恵を、すべての民に行き渡らせることができるのだ」

 セリカはついに言葉を失った。

(……大きすぎる。
 私なんて、まだ遊びたいし、本だって読みたいし……
 なのに、王国って……そんな……!)

 幼女の小さな胸には、あまりにも過酷な選択がのしかかっていた。

◆◇◆

 部屋を出たとき。
 セリカは深く息を吸い込んだ。

(……やっぱり、簡単には決められない)

 結婚はとても大きな問題。
 しかも今回は国家の未来まで絡む。

(私にできるのは……慎重に、よく考えることだけ)

 周囲の圧力とレクサスⅧ世の甘い言葉の中で、
 セリカはひとり、揺れる心を抱えていた。

 ――その選択が、これからの“世界の形”を変えるとも知らずに。


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