見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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24-3 結婚式って…気がついたら花嫁? しかも花嫁は5歳の幼女!

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🌙第24章 レクサスⅧ世編

24-3 結婚式って…気がついたら花嫁? しかも花嫁は5歳の幼女!

 ――その日も、セリカはいつも通りだった。

 ディオール領の収穫量の報告書に目を通し、税率調整のメモを書き込み、新しく作る用水路の図面に赤で印を入れていく。

「この支流、もう少し下流で分岐させた方が、村ごとの水量バランスが取れますわね」

 五歳児らしからぬ台詞をつぶやきながらペンを走らせていると、ふと違和感が胸をよぎった。

(……なんだか、今日は妙に落ち着きがないわね)

 廊下を行き交う侍女たちが、いつもよりそわそわしている。
 執務室の外から聞こえる声も、どこか浮き足立っていた。

「式場側の準備は――」
「ドレスのお直しが――」
「入場の順番は――」

 ……聞き逃したくても、やけに耳に入ってくる単語ばかりだ。

(式場? ドレス? 入場?
 ……誰の話かしら)

 嫌な予感がして、セリカは書類を閉じた。

「ねえ、少しいいかしら?」

 通りかかった執事を呼び止めると、彼はびくりと肩を跳ねさせた。

「は、はいっ、セリカ様!」

「今日は、何か“特別な予定”でもあるの? みんな、とても慌ただしいみたいだけれど」

「え、ええと……その……」

 執事は明らかに目を泳がせた。
 セリカは笑顔を浮かべ、にこり、と首を傾げる。

「ごまかさないで、教えてくださる? 領主代理として、知っておくべきことでしょう?」

 五歳児にして“領主代理の圧”を出されては、さすがの執事も観念せざるを得ない。

「……じ、実は……本日、セリカ様と、レクサスⅧ世陛下との――」

 一瞬の沈黙。そして絞り出される言葉。

「――ご結婚式が、執り行われる予定でございます……」

「…………………………は?」

 世界が一瞬、音を失った。

「今、なんて言いました?」

「ご、ご結婚式が――」

「誰と誰の?」

「セリカ・ディオール様と、レクサスⅧ世陛下の……」

「へぇえええええええええええええええ!?!?」

 執務室に、見た目はお人形のような幼女の、まったく可愛くない絶叫が響き渡った。

◆◇◆

「ちょっと待ってくださいまし!! 私はまだ返事をしていませんわ!!」

「も、申し訳ございません、セリカ様。しかし、レクサス陛下は“ご承諾いただけると確信している”と――」

「誰の確信よそれは!? 少なくとも私のものではありませんわ!!」

 机をばんっ、と叩く姿は完全に小さなブラック上司である。

 だが廊下の向こうでは、すでに侍女たちがバタバタと走り回っていた。

「急いで! ドレスの裾の調整が――」
「花飾りの位置はこれでよろしいでしょうか」
「リングピローは――」

(……待って、本当に結婚式モードが進行している……?)

 セリカの額に冷や汗がにじんだ。

「私、まだ“検討します”としか言ってませんわよね!? イエスとは一言も!!」

「レクサスⅧ世陛下は、“もはや婚約は形式的なものに過ぎない。先に結婚式を整えておけば話が早い”と……」

「話が早すぎますわ!! 五歳児のイベント感覚で進めないでくださる!?」

 思わず素が出た。

 幼い胸に、怒りと不安とツッコミ欲が一気に渦巻く。

(なにが“形式的な婚約”ですの……!
 形式って大事でしょう!? 心の準備とか、将来設計とか、そういうのを詰めるための期間でしょう!?)

 なのに、気づけば――

「セリカ様、お時間がございません。ご支度を」

「支度って、なんの――」

「ご結婚式の、でございます」

「してないって言ってるでしょうがぁぁぁぁ!!」

 叫んだところで、侍女たちに両脇を抱えられ、ずるずると控室へと運ばれていく五歳児領主。

(これ、絵面だけ見たらただの“七五三の前撮り”ですわよね!?
 親が張り切ってるタイプの!!)

 しかし、これは七五三ではない。
 正真正銘、国家間の政略結婚式の準備だった。

◆◇◆

 しばらくして。

「……どうしてこうなりましたの」

 鏡の前に立つセリカは、深いため息をついた。

 目の前には、ふわふわのレースと純白の布地に埋もれた、ちんまりとした花嫁がひとり。

 ヴェールは短めに調整されたものの、ドレスは本格的な王妃仕様。
 腰のあたりから大きく広がるスカートには、細かな刺繍がびっしりと施されている。

 ただ――中身が五歳児なので、どう見ても“お姫様ドレスで遊ぶ子ども”にしか見えない。

「……これ、絶対『記念写真だけ撮りました♡』みたいなやつですわよね」

 一周回って笑えてくる。

「七五三とか、そういう祝い事なら、まだ理解できますわ。
 “まあ、親が張り切ってるのね”って、生温かく見守れますわ。
 でも、これは――」

 セリカはこぶしをぎゅっと握りしめた。

「ガチの結婚式ですわよね!!!」

 鏡の中の花嫁が、信じられないというように目を見開いている。

「マジかよ……」

 つい、前世でも口にしたことのないような言葉が漏れた。
 周囲の侍女が一瞬固まる。

「せ、セリカ様……?」

「いえ、独り言ですわ。お気になさらず」

 にっこりと微笑んでごまかしつつ、頭の中ではフル回転で状況整理をしていた。

(このまま式に出れば、“レクサスⅧ世と五歳の花嫁”という既成事実が出来上がる。
 国家間の条約も、きっとその前提で動かされる。
 “セリカはもう嫁いだ前提で”話が進んでしまうわけですのね)

 彼女は理解している。
 これは“個人の恋愛”ではなく、“国家のカード”なのだということを。

(ここで黙って流されれば、私はただの“使われる道具”になりますわ)

 それは――彼女が最も嫌う未来だった。

◆◇◆

 ノックの音がして、ドライドが控えめに顔をのぞかせた。

「お嬢様……お支度、お済みのようで」

「見ての通りですわ。
 気づいたら、五歳児が花嫁にされてましたの」

 きっぱりと言い切るその口調に、ドライドはわずかに眉をひそめる。

「……ご不満、で?」

「不満しかありませんわ」

 セリカはくるりと振り向き、ドレスの裾をつまんで見せた。

「これ、どう見ても『おままごと』ですわよね?
 中身は本物の政略結婚なんですけど?」

「……たしかに、絵面だけで言えば」

 ドライドは苦笑しつつも、真剣な目で続ける。

「しかし、お嬢様。この場をどう切り抜けるかは……お嬢様の言葉ひとつにかかっております」

「分かっていますわ」

 セリカは小さく息を吸い込んだ。

(泣き叫んでも、駄々をこねても、きっと止まらない。
 これはもう、“大人たちの都合”で固めてしまった式)

(でも――)

「私、ただの五歳児ではありませんものね」

 鏡の中の自分に、そっと微笑みかける。

「領主代理として、ここまでやってきましたもの。
 なら、花嫁としても領主としても、私の意志を通してみせますわ」

 七五三ではない。
 “うっかり花嫁”でも終わらせない。

 これは――国家を相手にした、五歳児の“カウンター”の始まりだ。

「行きましょう、ドライド。
 結婚式かどうか、今ここで“はっきりさせて”きますわ」

 小さな花嫁は、堂々と背筋を伸ばした。

 その一歩が、レクサス王国とリュミエール王国、
 そしてディオール家の運命を、大きく揺さぶることになるとも知らずに――。
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