婚約破棄!ついでに王子をどん底に突き落とす。

鏡おもち

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「……あ、熱い。腰が……腰が砕ける……。ミリア、代わってくれ……」

ド・ラ・メール領の広大なカブ畑。かつてアステリア王国の第一王子として、絹のシャツ以外肌に通さなかったリュントは、今や見る影もなかった。

泥にまみれた麻の服を纏い、手には使い古された(黄金ではない)普通のスコップ。

「……無理ですわぁ。ミリア、もう爪がボロボロなんですぅ。これじゃあ、明日のお茶会に……あ、お茶会なんて、もうどこにもありませんでしたわねぇ!」

隣で雑草を引き抜いていたミリアが、ヒステリックに叫んだ。

彼女の自慢だったふわふわの髪には、どこから紛れ込んだのかカエルが住み着いており、肌はすっかり小麦色に……というより、土色に焼けていた。

「おい、そこ! 無駄口を叩いている暇があったら手を動かすんだ!」

背後から飛んできたのは、老執事バルトの容赦ない叱咤だった。

「バ、バルト……! 貴様、かつては私に跪いていたではないか! この私を誰だと思っている!」

「知っていますよ。パルメ様が残していかれた『最も効率の悪い労働力』のリュント君でしょう? ほら、その畝が歪んでいるぞ。やり直しだ」

「やり直しだと!? もう三回目だぞ!」

リュントは絶望して地面に這いつくばった。

彼がかつてパルメに押し付けていた事務作業も地獄だったが、パルメが「趣味」だと言い張っていた農作業は、肉体的にそれ以上の地獄だった。

パルメはこれを笑顔で、しかも黄金のスコップで軽々とこなしていた。

(あいつ……あいつは、こんな過酷な作業を『リフレッシュ』だと言っていたのか!?)

リュントは、自分が手放した女の「異常性」を、今さらながら骨の髄まで思い知らされていた。

「リュント様ぁ……お腹空きましたぁ。今日のパフェはまだですかぁ?」

「……ミリア、いい加減にしろ。パフェなんてものは、この領地には存在しない。あるのは……これだけだ」

リュントが震える手で差し出したのは、一個のふかし芋と、瓶に入った例の「赤い悪魔のソース」だった。

「嫌ですぅ! これ、一口食べたら火を吹くくらい辛いんですもの! ミリア、もっと甘くて可愛いものが食べたいですぅ!」

「四の五の言わずに食え! これを食べないと、明日の『石運び作業』を乗り切れないんだぞ!」

二人が泥だらけでソースを奪い合っていると、村の子供たちが遠くから指を差して笑った。

「見て見て、新しいカカシさんたちが喧嘩してるよ!」

「本当だ! パルメ様が言ってた通り、本当に役に立たないね!」

リュントは、その言葉に魂が削られる思いだった。

かつて自分を崇めていた民衆が、今や自分を「カカシ以下の存在」として見ている。

そこへ、一頭の豪華な馬車が領地の街道を通りかかった。

アステリア王国の紋章を掲げ、黄金の装飾が施されたその馬車は、パルメが隣国へと旅立つためのものだった。

「あ……パ、パルメ……! パルメぇぇぇ!」

リュントは狂ったように叫び、馬車を追いかけようとした。

「私を置いていかないでくれ! 謝る、何回でも謝る! だから、あの涼しい執務室に戻してくれぇぇ!」

しかし、馬車は止まらない。

窓からパルメがひょいと顔を出し、遠くで泥まみれになっている元王子を見つけたようだった。

パルメは、優雅に扇を振って、口パクで何かを伝えた。

(……サ、ヨ、ナ、ラ、……ブラック上司?)

「ぎゃあああああああああああああああッ!!」

リュントの絶叫が、カブ畑に虚しく響き渡った。

「はい、追跡終了。リュント君、ノルマが終わるまで夕飯抜きだからね」

バルトが冷酷に告げ、リュントは再び泥の中に顔を埋めた。

彼らの「末路」は、パルメがかつて味わった苦労の、ほんの数分の一にも満たない。

しかし、プライドだけで生きてきた彼らにとって、それは死よりも残酷な、永遠に続く「現場研修」という名の刑罰であった。

「……ミリア。……芋、半分こしようか」

「……ソース、少なめにしてくださいね、リュント様」

泥だらけの二人の上に、無情にも夕日が沈んでいく。

パルメの新しい伝説が始まる一方で、愚かな二人の物語は、静かに、そして泥臭く幕を閉じるのであった。
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