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20 彼が好きな人
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「えっ?」
なんでディートハルトがいるの!?
「悪いね。彼女は私の連れなんだ。ここには一緒に入れないよ」
「えっ。しかし……。私が先に声をかけたんだ!」
ウイルがディートハルトを見上げて食い下がった。
ディートハルトが見たこともない鋭い視線を彼に向けた。
「彼女は私の妻だ」
「ひっ!」
ウイルはディートハルトの気迫に押されて、それ以上言ってこなかった。
私の妻……。まだ、そう言ってくれるんだ。うれしさと共に、何か切ない気持ちが込み上げてきた。
「さぁ、待たせて悪かったね……。どうしたの?気分でも悪い?」
うつ向いている私にディートハルトが優しく声をかけてきた。
そして、急に視界が高くなり、ディートハルトと目線が一緒になった。
「えっ!っちょっと……」
ディートハルトがお姫様抱っこをしてきたのだ。
「あ、歩けるから、おろして……」
ディートハルトは私の言葉に微笑んで、そのまま出口に向かって歩き始めた。
全く私のいう事は聞く気がないらしい。
途中、イヴェッタに会ったが、わかったわという表情をされた。いや、私は止めてほしかったのに……。
恥ずかしさのあまり、顔を隠してディートハルトの首にしがみついた。
なにがどうなっているの……?ディートハルトも今日は仕事のはずだし、この夜会に来る予定ではなかったはず……。
帰りの馬車の中では気まずくなり、私はディートハルトの顔を一度も見れなかった。
ディートハルトも話しかけてこなかった。沈黙が続き、車輪の音だけが響いていた。
外は真っ暗で何も見えなかったが、気を紛らわしたくて窓の外に視線を向けた。
――その夜会の後から、不思議な事が起きた。
ディートハルトが仕事帰り、必ず魔道具課まで迎えに来るようになったのだ。
副団長になるのに忙しいはずなのに……。
そして、夜寝る時も何故かスキンシップが多くなった。
正確には抱き枕替わりと言った方が早い……。
ディートハルトの告白を受けてから、セクシーな下着はやめて、楽で落ち着く機能性に優れた寝間着を着用している。
その肌触りがいいとかいって、背中をスリスリしてお腹をぎゅっと後ろから抱きしめて、そのまま寝てしまうのだ。
ディートハルトは何も思っていないからいいかもしれないが、私は好きな人にそんな距離で寝られたら、ドキドキしてしまう。
まぁ、結局寝てしまうのだが……。自分に色気がなくて、悲しくなる……。
ディートハルトは私と友人に戻れて、やっとほっとできたのかもしれない。
私はディートハルトに回された、たくましい腕にそっと触れて、あと一年しかこうして過ごせないんだとかみしめた。
◇◇◇
「アーシュレイさん、これ騎士団本部に届けてくれる? もうすぐ退勤時間だし、旦那さんと一緒に帰っていいから……」
魔道具課の所長のアルヴィンさんがそう言って笑った。
「あ……、はい……」
最近、ディートハルトが迎えに来るからだ! 所長まで気を使い始めた。うぅ……、そんなラブラブな関係じゃないのに……。
席も戻ると、イヴェッタにニヤニヤして、「お疲れ!」と言ってきた。
私はため息をつきながら、魔道具課を後にした。
魔道具課と騎士団本部は王宮内にあるが、別棟になっている。騎士団本部は団員も多く訓練場もあるため、広いエリアが割り当てられている。
私の足で30分程かかってしまう。
ようやく、騎士団本部の入口に到着し訓練場に出た。
そこには二名の人影が見えた。あれは……。すると話し声が聞こえてきた。
「こーら、ディー! ちゃんとストレッチしないと、怪我するぞ!」と小柄な男の子がディートハルトの背中を押してストレッチを手伝っていた。
「レイン、わかってるって。だから、がんばってるだろう……」とディートハルトも砕けた話し方をしている。
その男の子は騎士団員のような服装ではなく、白衣姿だった。ここで白衣と言うと、治療士で間違いないだろう。
前にディートハルトが言っていたレインって子だ……。
中世的な容姿で、小柄でとても可愛い……。私の方が背が高いかも……。
「本当にでっかい体だな。まるで親子だよな、俺たち」と言って、レインはディートハルトの背中に抱きついた。
「おいおい、こんな大きな子供がいる覚えはないぞ」とディートハルトは柔らかい笑顔を見せた。
最近、こんな笑顔のディートハルトを見たことがない。……私がディートハルトを追い詰めてるからだ。
ふとレインが振り返り、私と目が合った。
さっきの天使のような微笑みから、急に温度が下がったかのような冷徹な目つきになった。
そして、片方の口角だけが上がった。
レインはまたディートハルトの背中に抱きつき、顔を背中に擦り寄せた。
そしてまた私を見て、口だけ笑っていた。それはまるで宣戦布告のように思えた。
じっとりと嫌な汗をかいた手を握りしめる。
息苦しくなり、少しずつ後ずさりして、私はその場を離れた。
騎士団の事務所に頼まれた物を渡し、足早に騎士団本部を出た。
前からレインとは仲がいいって言ってた。
でも、あれはまるで恋人同士みたいだった……。
だから、私とは……?
膝がガクガクとして立っていられずその場にしゃがみ込んだ。
膝には目から落ちた涙が雨のように洋服を濡らしていった。
ディートハルトが本当に好きな人が他にいた……。女性を愛せないディートハルトが選んだのは、同僚の男の子だったんだ……。
なんでディートハルトがいるの!?
「悪いね。彼女は私の連れなんだ。ここには一緒に入れないよ」
「えっ。しかし……。私が先に声をかけたんだ!」
ウイルがディートハルトを見上げて食い下がった。
ディートハルトが見たこともない鋭い視線を彼に向けた。
「彼女は私の妻だ」
「ひっ!」
ウイルはディートハルトの気迫に押されて、それ以上言ってこなかった。
私の妻……。まだ、そう言ってくれるんだ。うれしさと共に、何か切ない気持ちが込み上げてきた。
「さぁ、待たせて悪かったね……。どうしたの?気分でも悪い?」
うつ向いている私にディートハルトが優しく声をかけてきた。
そして、急に視界が高くなり、ディートハルトと目線が一緒になった。
「えっ!っちょっと……」
ディートハルトがお姫様抱っこをしてきたのだ。
「あ、歩けるから、おろして……」
ディートハルトは私の言葉に微笑んで、そのまま出口に向かって歩き始めた。
全く私のいう事は聞く気がないらしい。
途中、イヴェッタに会ったが、わかったわという表情をされた。いや、私は止めてほしかったのに……。
恥ずかしさのあまり、顔を隠してディートハルトの首にしがみついた。
なにがどうなっているの……?ディートハルトも今日は仕事のはずだし、この夜会に来る予定ではなかったはず……。
帰りの馬車の中では気まずくなり、私はディートハルトの顔を一度も見れなかった。
ディートハルトも話しかけてこなかった。沈黙が続き、車輪の音だけが響いていた。
外は真っ暗で何も見えなかったが、気を紛らわしたくて窓の外に視線を向けた。
――その夜会の後から、不思議な事が起きた。
ディートハルトが仕事帰り、必ず魔道具課まで迎えに来るようになったのだ。
副団長になるのに忙しいはずなのに……。
そして、夜寝る時も何故かスキンシップが多くなった。
正確には抱き枕替わりと言った方が早い……。
ディートハルトの告白を受けてから、セクシーな下着はやめて、楽で落ち着く機能性に優れた寝間着を着用している。
その肌触りがいいとかいって、背中をスリスリしてお腹をぎゅっと後ろから抱きしめて、そのまま寝てしまうのだ。
ディートハルトは何も思っていないからいいかもしれないが、私は好きな人にそんな距離で寝られたら、ドキドキしてしまう。
まぁ、結局寝てしまうのだが……。自分に色気がなくて、悲しくなる……。
ディートハルトは私と友人に戻れて、やっとほっとできたのかもしれない。
私はディートハルトに回された、たくましい腕にそっと触れて、あと一年しかこうして過ごせないんだとかみしめた。
◇◇◇
「アーシュレイさん、これ騎士団本部に届けてくれる? もうすぐ退勤時間だし、旦那さんと一緒に帰っていいから……」
魔道具課の所長のアルヴィンさんがそう言って笑った。
「あ……、はい……」
最近、ディートハルトが迎えに来るからだ! 所長まで気を使い始めた。うぅ……、そんなラブラブな関係じゃないのに……。
席も戻ると、イヴェッタにニヤニヤして、「お疲れ!」と言ってきた。
私はため息をつきながら、魔道具課を後にした。
魔道具課と騎士団本部は王宮内にあるが、別棟になっている。騎士団本部は団員も多く訓練場もあるため、広いエリアが割り当てられている。
私の足で30分程かかってしまう。
ようやく、騎士団本部の入口に到着し訓練場に出た。
そこには二名の人影が見えた。あれは……。すると話し声が聞こえてきた。
「こーら、ディー! ちゃんとストレッチしないと、怪我するぞ!」と小柄な男の子がディートハルトの背中を押してストレッチを手伝っていた。
「レイン、わかってるって。だから、がんばってるだろう……」とディートハルトも砕けた話し方をしている。
その男の子は騎士団員のような服装ではなく、白衣姿だった。ここで白衣と言うと、治療士で間違いないだろう。
前にディートハルトが言っていたレインって子だ……。
中世的な容姿で、小柄でとても可愛い……。私の方が背が高いかも……。
「本当にでっかい体だな。まるで親子だよな、俺たち」と言って、レインはディートハルトの背中に抱きついた。
「おいおい、こんな大きな子供がいる覚えはないぞ」とディートハルトは柔らかい笑顔を見せた。
最近、こんな笑顔のディートハルトを見たことがない。……私がディートハルトを追い詰めてるからだ。
ふとレインが振り返り、私と目が合った。
さっきの天使のような微笑みから、急に温度が下がったかのような冷徹な目つきになった。
そして、片方の口角だけが上がった。
レインはまたディートハルトの背中に抱きつき、顔を背中に擦り寄せた。
そしてまた私を見て、口だけ笑っていた。それはまるで宣戦布告のように思えた。
じっとりと嫌な汗をかいた手を握りしめる。
息苦しくなり、少しずつ後ずさりして、私はその場を離れた。
騎士団の事務所に頼まれた物を渡し、足早に騎士団本部を出た。
前からレインとは仲がいいって言ってた。
でも、あれはまるで恋人同士みたいだった……。
だから、私とは……?
膝がガクガクとして立っていられずその場にしゃがみ込んだ。
膝には目から落ちた涙が雨のように洋服を濡らしていった。
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