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22 プレゼント
しおりを挟む「まぁ!良くお似合いですわ!!髪の毛のお色ともあってますわ!」
早く変装を解いてほしいとディートハルトがいうので、髪色を戻した。
「旦那様もそう思いますわよね?」
「はい、とても良く似合いますね。では、次はこれを」
そう言って、ディートハルトはハンガーラックから一つワンピースを取り、店員さんに渡した。
ここは貴族女性に人気の高級ブティック店だ。
私も何度か前を通りかかったが、値段が高いのが分かっていたので、入ったことがなかった。
ディートハルトはそこに慣れたように入っていった。貧乏男爵家の私とは、やはり生まれが違うんだなっと思ってしまった。
「ディー、もう試着はいいんじゃないかな……?」
ディートハルトから受け取ったワンピースを持った店員さんが、試着室へ優しく誘導しようとする。
かれこれ、10着も試着させられた。はっきりいって何が似合うのか、もうよくわからなくなった。
ここの所の貴族女性の普段着はドレスから、ワンピースに変わってきている。もちろん、あの窮屈なコルセットも夜会や舞踏会などの正装の時だけだ。
私も仕事の時は楽で簡素なワンピースを着ている。ここに並んでいるワンピースはいつも着ているものとは全く違う。
生地はシルクで鮮やかな色使いに、刺繍やレースがふんだんに使われている。
スカートはフレアで動くたびに違うスタイルを見せてくれる。後ろはレースアップで体に合わせて調節出来て、スタイルが良く見えるようになっている。
さすが高い洋服は違うなぁと試着していて関心してしまった。
「わかったよ、アーシュ。それで最後にしよう」
ディートハルトは眉を下げ、少し残念そうにした。……えっ、こんなにたくさん着たのになぜそんな表情をするの? 全くわからない。
──結局最後に試着したアイボリーにピンクや赤の小花柄が刺繍されたワンピースを選んだ。正確には、今そのワンピースを着ているがその他のワンピースとそれにあった靴は伯爵家に届けるようにと、試着している間にディートハルトが店員さんに指示していた。
どれだけお金を使ったのよ……、もったいない……。そんなお金があれば、魔道具の材料を買う事が出来るのにな……。
って、これだから女性らしくないと言われてしまうのよね。でも、こんな量の買い物をお義母様が見たら、なんていうかしら。
もうすぐ別れるかもしれない嫁に、そんなに貢がされてって思うかしら……。
ブティックを出たディートハルトは鼻歌まじりに歩いている。騎士服のジャケットも戻ってきて、彼もほっとしたのかもしれない。
「ディー?」
そう言うと美しい顔が振り向く。こんなに柔らかい表情のディートハルトはいつ振りだろうか。あのレインという同僚にはいつも見せているのだろう……。
そのことを考えると胸が痛んだ。
彼は結婚してから、いつもなにか思いつめていたように思う。
きっと子作りをしなければいけないと、自分を追い詰めていたのかもしれない。自分の本当の性との葛藤とか……。
きっと、ディートハルトにとってこの二年間は辛い結婚生活だったんだわ。
今日のこのプレゼントも、子作りが出来ない事への償いなのかもしれない。
「アーシュ、そんな難しい顔してどうしたの?」
「今日は素敵なワンピースと靴をありがとう。でも、いっぱい買ってもらっちゃって……」
「あぁ、そんな事?俺真面目に団員として働いていて、けっこう稼いでるんだ。それに今度昇進もするから気にしないで」
「本当はずっと、こうしてアーシュとデートしたかったんだ。君に似合うドレスやワンピースを選んでさ。俺たち仕事ですれ違いばかりだったから……」
「うん、そうね」
私はなんとか笑顔を作った。でも、口角を上げたくても、気持ちが震えて唇がいう事をきかなかった。
そんな表情を見て、ディートハルトの表情が曇った。
もうだめだ……、気持ちが抑えられない……。
「ディー、子供の事で私はあなたを責めたりしないわ。こんなにたくさんプレゼントをくれて、私に償わなくていいのよ。それにもしかしたら一年後、私たちは……離縁しなければいけないかもしれない。たくさんお金を使っても無駄になってしまうわ……。私は……あなたが本当に好きな人と自由にさせてあげたいと思ってるわ……。私が妻だったらそれが出来る。でも、このままじゃ離婚させられて、あなたを守ってあげられないかもしれない……。だから、あなたを守れない私になんて、これ以上優しくなんてしないで……」
……言ってしまった。せっかくディートハルトが買ってくれたプレゼントや気持ちを台無しにしてしまった。最低だ私……。
気が付くと頬にはとめどなく温かい雫が流れていた。その流れ出た雫は顎を通過し、美しい洋服にシミを作っていった。どうしよう……、止まらないよ……。
これ以上、ディートハルトを困らせたくないのに……。
「アーシュ、ごめん……」
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